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新年度を控え、職場で異動や転勤の内示が言い渡される時期となりました。

一方で、ライフスタイルが多様化する中、家庭の事情や業務内容の希望などを理由に、内示を断ったり、退職の道を選んだりする人もいるかもしれません。

弁護士ドットコムにも、会社の異動命令をめぐる相談が多く寄せられています。

シングルマザーだという相談者は、子どもに療育が必要な状況にあり、放課後等デイサービスの送迎時間に間に合わせるため、18時までに帰宅しなければならない制約があります。

これまで自転車で通える職場でフルタイム勤務を続けてきましたが、新年度から通勤に1時間かかる場所への異動を命じられたといいます。

相談者が家庭の事情を説明し、現時点での異動は難しいと伝えたところ、会社側は「パートへの降格」や、給与減少を伴う「時短勤務」を提示しました。

異動を受け入れなければ、退職を余儀なくされる状況に追い込まれているようです。

●異動先の職場環境に不安を感じる相談も

小売業の会社に勤める別の相談者は、内示を受けた異動先に、かつて「サービス残業」を強要した元上司がいることがわかりました。

周囲からは「あの人も年を取って丸くなった」となだめられるものの、相談者にとって当時のトラウマは消えず、異動のことを考えるだけで精神的に参ってしまうようです。

家庭の事情や、異動先で問題が生じるおそれがあることなどを理由に、社員は異動や転勤を拒否できるのでしょうか。村松由紀子弁護士に聞きました。

●「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」があるか

──会社からの転勤や異動の指示を拒否することはできますか。

多くの企業では就業規則に「転勤を命じることができる」旨の規定があり、それを根拠に会社は従業員に転勤や異動を命じることができます。

そのため、原則として、転勤や異動を拒否することはできません。正当な理由なく拒否すれば、懲戒処分の対象となります。

例外もあります。たとえば、会社と従業員との間で「勤務地を限定する」といった個別の合意がある場合には、就業規則よりも個別合意が優先されるため、転勤命令を拒否できます。

また、転勤命令が、労働者に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせるような場合も、拒否が認められます。

ただし、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」という枠組みである以上、育児が大変といった個人的な家庭の事情だけでは、原則として転勤命令を拒否する正当な理由になりにくいと考えられます。

一人目の相談者の「子どもに療育が必要な状況で、放課後等デイサービスの送迎時間に間に合わせるため」という事情をどう評価するかは個別具体的な判断になりますが、会社側は「パート」「時短勤務」といった代替案を提示しています。

給与が下がることを避けたいという気持ちは十分わかりますが、代替案が示されている以上、提示された選択肢をすべて拒むことは容易ではないでしょう。

一方、二人目の相談者のように、異動先にかつて「サービス残業」を強要した元上司がいる場合、たとえば、会社が異動の必要性がないのに相談者を困らせ、自己都合退職に追い込むなど、不当な動機・目的で命じたと認められる事情があれば、拒否できます。

●拒否する時期やタイミング、法律上の影響なし

──内示や内々示の段階など、拒否する時期やタイミングは影響しますか。

事実上の影響はあり得ますが、法律上の扱いが変わるわけではありません。

●早い段階からの粘り強い交渉が有効

──不本意な異動について、働く側は組織に対してどのような対応をするとよいでしょうか。

内々示など早いタイミングから、自身の事情を率直に伝え、粘り強く交渉することは有効だと思います。

ただし、会社が正式に異動命令を出したにもかかわらず、従わない場合は、懲戒処分の対象となり、最悪の場合は懲戒解雇に至る可能性もあります。

柔軟な働き方が求められている時代ではありますが、比較的新しい裁判例でも懲戒解雇を有効としたものはあるため、その点を踏まえて慎重に行動する必要があるでしょう。

【取材協力弁護士
村松 由紀子(むらまつ・ゆきこ)弁護士
弁護士法人クローバーの代表弁護士。同法人には、弁護士4名が在籍する他、社会保険労務士4名、行政書士1名が所属。企業法務を得意とする。その他、交通事故をはじめとする事故、相続等の個人の問題を幅広く扱う。
事務所名:弁護士法人クローバー
事務所URL:https://clover.lawyer/