良子さまから美智子さまへつなぐ皇后の姿 明るい日ざしの中での小梅拾いの思い出

写真拡大 (全6枚)

香淳皇后のご生涯について記された『香淳皇后実録』が、宮内庁から公開されて注目を浴びている。97歳というご長寿をまっとうされた良子さま(ながこさま/香淳皇后)は、晩年、ご家族のそばに住まわれ、子や孫たちに囲まれて過ごされた。40年余にわたり足しげく良子さまのもとを訪れた美智子さまは、たくさんの思い出を御歌に詠まれている。今回は、良子さまと美智子さまの心のふれあいの物語である。

昭和天皇と良子さまの散歩道

昭和天皇と良子さまがお元気だったころ、しばしばおそろいで朝の散歩をなさった。季節のよいとき、吹上御所から大池に通じる小道を進むと、2本のナツメの木が見える。ナツメの木がお散歩の目標だった。花や緑の美しい季節に合わせて、お散歩の道は変えられた。

昭和天皇が良子さまに、

「良宮(ながみや)、今日はどちらに行く?」

とやさしいお声で言われる。良子さまが、

「御意(ぎょい)のままに。どちらにでもお伴いたします」

とお答えになる。ひざを痛められたことのある良子さまをお気遣いになる昭和天皇は、よく、

「良宮、大丈夫?」

とお尋ねになる。

「大丈夫でございます」

と、良子さまはきれいなソプラノでご返事になる――。

それは穏やかなお二人のひとときであった。

提供=宮内庁

母良子さまの車椅子を押して散歩される、陛下と美智子さま

やがて昭和天皇が崩御され、平成の御代となった。良子さまは皇居内の大宮御所にお住まいになり、しだいに衰えていかれた。足腰が弱り、車椅子で移動されるようになった。

平成7(1995)年、美智子さまは天皇陛下(今の上皇陛下)と良子さまのご様子を御歌に詠まれた。

緑蔭

母宮のみ車椅子をゆるやかに押して君ゆかす緑蔭の道

それまで天皇が崩御されたのちの皇太后のお住まいは、皇居の外にあるのが常であった。平成の御代となり、陛下と美智子さまは皇太后良子さまのお住まいを皇居の中の大宮御所とされた。

大宮御所に至る道を、天皇陛下(今の上皇陛下)が母君の車椅子を押して、ゆっくり歩かれる。今はそれがお散歩なのである。陛下の隣を歩かれるのは美智子さま。親孝行される情景が目に浮かぶようである。

(C)JMPA

健康を考えた97歳の良子さまのお食事

平成12年(2000年)の春、良子さまは97歳のお誕生日を迎えられた。

食事をつかさどる大膳は、良子さまの体調を考えて献立を工夫した。大膳が作った食事は、吹上大宮御所に運ばれて、温めなおして食卓に出される。

朝食は8時30分に食堂で召し上がる。その日のメニューは、オートミール、トースト、野菜サラダ、ミルク、果物など。

昼食は12時30分。ごく細かく刻んだ若鳥の肉入りコロッケ、野菜スープ、サラダなど。健康を考えた細やかな料理であり、贅沢とはほど遠いものである。

大膳は百歳近い良子さまのために、歯や胃の負担にならないように肉や野菜は口の中でとろけるほど柔らかく煮て、魚の小骨は刺さらないように取り除かれた。昭和天皇の「いろいろなものを食べるのが健康によい」というお考えが、良子さまの食卓にも表れていた。

昭和天皇(C)JMPA

「これからどこまでもこの御方の後におつきしていこう」

やがて平成12年6月、良子さまは崩御された。その年のお誕生日の記者会見で、記者から「香淳皇后へのお気持ちや、印象深かった出来事があるか」と尋ねられ、美智子さまはこのようにお答えになっている。

「(良子さまが)崩御になり、ただ寂しく、心細く思います。印象深かった出来事という質問ですが、私にとり忘れられない思い出は、まだ宮中に上がって間もない東宮妃の頃、多摩御陵のお参りにお伴をさせていただいた時のことです。

梅の実の季節で、お参り後、昭和天皇と皇太后さまと当時東宮でいらした陛下が、私もお加えになり、皆様して御休憩所の前のお庭で小梅をお拾いになりました。

その日明るい日ざしの中で皇太后さまのお笑い声を伺いながら、これからどこまでもこの御方の後におつきしていこうと思いました。今も自分一人の記念日のように、この日の記憶を大切にしています」

そこにいらっしゃることで、美智子さまを力強くお支えになったという良子さま。美智子さまは、いつしか良子さまをご自分のお手本として生きるようになられていた。お二人の歩みは、これからは次の世代に伝えられていくことだろう。(連載「天皇家の食卓」第44回)

(C)JMPA

参考文献:『皇后陛下お言葉集 歩み』(宮内庁侍従職監修、海竜社)、『皇后陛下御歌集 瀬音』(大東出版社)、『良子皇太后と美智子皇后』(渡辺みどり著、講談社α文庫)、『天皇家の姫君たち 明治から平成・女性皇族の素顔』(渡辺みどり著、文春文庫)

文/高木香織

たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

【貴重画像】美智子さま(4枚)