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成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が低下した人に援助者を選任し、財産管理や契約を補助する制度です。現在、成年後見制度において「後見人の仕事は財産を減らさないこと」と明言する、とくに弁護士や司法書士の後見人が増えているが、実際の役割は財産を活用し、被後見人の生活の質を向上させることにあると、後見制度の問題に取り組む「後見の杜」代表の宮内康二氏は言います。本記事では、宮内氏の著書『認知症になっても自分の財産を守る方法 法定後見制度のトラブルに巻き込まれないために! 』(講談社)より、実際にあった事例や専門家の見解をもとに、後見人の本来の役割と制度の誤解について、一部抜粋・編集してお届けします。

「後見人の仕事は財産を減らさないこと」という“大きな勘違い”

【漫画で見る実例】

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「後見人の仕事は財産を減らさないこと」と明言する、とくに弁護士や司法書士の後見人が増えています。しかし、制度上、そのようなことはありません。

その明らかな証拠として、裁判官として成年後見事件に詳しく、私も一緒に仕事をさせていただいたことがある片岡武氏が、成年後見人となる弁護士など向けに書いた『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』(日本加除出版)に次のような記述があります。

「後見人が、被後見人の親族の利益に配慮して被後見人の財産を減らさないように後見事務を行い、被後見人の生活を維持、向上させるために被後見人の財産を使うということがなかったとしたら、どうでしょうか。被後見人の意思や身上に配慮した後見事務を行ったものとは評価されないと思います。

後見人は、被後見人の療養看護や財産管理を行う際に、単に被後見人の財産を維持・保全するのみでなく、被後見人の意思や自己決定権を尊重し、被後見人の生活の質を維持、向上させるために、被後見人の財産を活用する必要があるのです」

どう読んでも、「後見人の仕事は財産を減らさないこと」にはなりません。片岡氏の記述にもあるように、成年後見制度は、本人が使うように財産を使う制度です。したがって、お世話になる施設への手土産代や、お母さんの好物であるお菓子代、息子たちが自分に会いに来てくれた飛行機代などが“無駄遣い”であるはずがないのです。

勘違いしている後見人の“迷言”

勘違いしている後見人の迷言として、「本人が好きだからといって温泉に行くのは無駄遣い」「被後見人にケーキなんて食べさせないで」「後見制度を使った以上素敵な洋服なんてぜいたく」「結婚祝いや香典を立て替えたというなら領収書をもらってきてください、そうしたらその分の費用を払います」「被後見人となったご主人のお金で美容院に行くのはもったいないから控えていただきたい」などがありますが、いずれも制度が想定しない暴言です。

その後見人独自の見解に過ぎませんので、支払いを求め、払わないと言うなら、裁判所に苦情を出すか、後見人を被告に裁判を起こすといいでしょう。それにより後見人を辞めたり、態度が変わったりすることが少なくないからです。

親の認知症が重症化する前に対策を

本人の残高を家族に教えない後見人もいます。他方、家族に教える後見人もいます。教えることで、家族の協力が得られ、被後見人、後見人、家族、取引先(たとえば施設)のやり取りがスムーズになることがあるからです。家族に残高を教えなければいけないという義務的な法律はありませんが、教えてはいけないという禁止的な法律もないのです。

そのような中、「被後見人が死んだら、自分がもらっている報酬額がわかるからそれまで待てばいい」というのは失礼千万な発言です。弁護士法や司法書士法に定められている「品位を欠く行為」に該当すると考えられるので、弁護士なら所属弁護士会に、司法書士なら管轄である法務大臣あてに懲戒請求をすることで状況改善が見込まれます。

誰だって、要らぬトラブルやストレスを抱えたくないでしょうから、法定後見制度を使わないことはもちろん、親の認知症が重症化する前に、銀行からお金を下ろし、預貯金以外の方法で管理するなど対策をしておくのが賢明です。

宮内 康二

一般社団法人 後見の杜 代表