岡山からNECへ完全移籍する佐野。写真:滝川敏之

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 佐野航大がオランダへ飛び立った。

 米子北高を卒業して岡山に入団したのがわずか1年半前のことだ。

「あまり先のことは考えず、今やるべきことをしっかりとやっていきたい。これまでも目標を持って1日1日を積み上げてきたからプロになれたと思うし、1日1日積み上げていくのが自分のやり方なので、それを変えずにやっていきたいです」

 そう初々しく語っていた佐野は、すごいスピードで積み上げて欧州クラブからオファーを受ける選手へと成長を遂げた日々を振り返り、とても満足そうに「本当に濃い1年半となりました」と振り返っていた。
 1年目のシーズン序盤は、たくさんの刺激を受けながら悔しさを溜め込んでいた。プロの壁にもぶつかり、代表に選ばれたときには自分自身の甘さも感じた。ただ、それらも全て吸収して自分の力に変えていく。

 言葉通り1日1日をひたむきにサッカーと向き合う佐野は、シーズン後半に一気に飛躍してチームの中心選手になってみせた。2年目の今季は自他の期待も大きい中で、代表との両立も求められ、決して岡山では思うような結果を残せなかったが、その葛藤の日々によって一回りも二回りもたくましくなった。

「やりきった。悔いはないです。自信を持って行ってきます」

 そう胸を張って言える日々を送ってきた。その言葉に嘘偽りがないことは、彼を支えてきた人々が、共に戦ってきたチームメイトが、思いきり背中を押して送り出したことからも明らかだ。
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 木山隆之監督は佐野が歩んできた足跡をこう振り返っている。

「一目見たときから才能があるのは分かったけど、僕らの想像を超えるスピードで成長していった。でも、それはとにかく向上心が溢れていて、いろんなものを受け入れる素直さ、瞬時にやらないといけないことを理解する順応性や賢さ、そういうものが備わっていたからだと思う」

 NECの指揮官と知り合いで事前に佐野の情報を求められていたというヨルディ・バイスも、そのパーソナリティを高く評価して太鼓判を押す。

「本当に彼にとって良いオファーになったと思います。航大はすごくポテンシャルのある選手で賢さもある選手なので、本当に何でもできる選手だと思っているけど、何より航大はすごくハングリーで、その上で謙虚でもある。その姿勢をしっかりと続けていけば、NECでさらに成長できると思います」

 成長にどん欲だからこそ謙虚に周りの声に耳を傾けられる佐野は、これから欧州で揉まれてさらに成長速度を上げていくに違いない。木山監督は期待もたっぷりと込めて、佐野の能力がこれからどう開花していくのかを予見していた。
「どのポジションでも監督の信頼を得られてクオリティを出せる選手だと思います。ボールを持てる、走れる、守備もできる、パスも出せる。本当にいろんな質が高い選手だと思うので、ちょっと言い過ぎかもしれないけど、デ・ブライネみたいなイメージかな。日本人選手だったら旗手君みたいな選手。ポジションがどこでもクオリティを出せる選手っていうのが航大の1つの理想なのかな」

 これからどんな成長を遂げていくのかを岡山で見られなくなるのは寂しい限りだが、佐野がステップアップしていった日々は、クラブに関わる人々にとって貴重な財産になったことは間違いない。木山監督は清々しい表情で言った。

「岡山の皆さんもそうだし、われわれのクラブもそうだけど、航大が育っていくところを目の当たりにできた。それはすごく良いことだと思います。これからどんどんそういう選手が育っていくクラブになればいいと思うし、その先駆けとして航大には世界で自分の地位を確立してきてほしい」

 佐野自身もこれから岡山の皆さんへ、さらに希望を届けていくつもりだ。

「岡山から世界に行く。今までにないことを岡山出身の自分が成し遂げられたので達成感もあります。でも、ここがゴールじゃなくスタートだと思っています。世界で活躍する姿を見せられたら、ファン、サポーターにも子どもたちにも本当の意味で夢を与えられる選手になれると思っています」

 自分の夢を叶えるため、みんなにもっと大きな夢を見せるため、佐野は岡山を発った。

取材・文●寺田弘幸(フリーライター)