12歳で地元の新潟を離れ千葉へ拠点変更。中井亜美は自らの意思で進路を決断した【写真:積紫乃】

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連載「10代逸材のトリセツ」、中井亜美(フィギュアスケート)中編

 日本スポーツ界の将来を背負う逸材は幼少期からどんな環境や指導を受けて育ち、アスリートとしての成長曲線を描いてきたのか――。10代で国内トップレベルの実力を持ち、五輪など世界最高峰の舞台を見据える若き才能に迫ったインタビュー連載。今回は日本の女子フィギュアスケート界に現れた次世代スケーターの1人で、15歳の誕生日を迎えたばかりの中井亜美(TOKIOインカラミ)だ。世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得し、シニアのトップ選手が出場する全日本選手権で4位に入るなど大きな飛躍を遂げた今シーズン。中編ではスケーターとして大きな転機となった、中学進学時の「MFフィギュアスケートアカデミー」入りと千葉への移住について。12歳で地元の新潟を離れる決意をした背景について話を聞いた。(取材・文=松原 孝臣)

 ◇ ◇ ◇

 中学2年生で臨んだ2022-2023シーズンは、中井亜美にとって飛躍の1年となった。

 世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得、全日本選手権ではシニアの選手たちと競うなか、フリーでトリプルアクセルを2度成功させて4位。脚光を浴びた中井の成長を支えた1つに、中学進学時に指導環境を求め、生まれ育った街を離れて移り住むという決断が大きく関わっている。

 中井はもともと新潟市出身であり、当地でスケートに励んでいた。

 小学3年生の時に全日本ノービス選手権(ノービスB)に初めて出場し、翌年は優勝。小学5年生で出場した全日本ノービス選手権(ノービスA)ではトリプルアクセルに挑み、小学6年時には表彰台に上がり推薦で全日本ジュニア選手権に出場するなど 次代を担う候補の1人として注目される存在になっていった。

 ただ、中井本人の中に満足感はなく、このままではいけないという思いがあった。

「成績がまったく伸びないし、小学4年生の時の全日本ノービスで優勝してからは落ちてしまっていました」

 そう捉えていた。特に気になっていたのは、「ジャンプの安定感に欠けていることもありましたが、スケーティングも駄目でした」。フィギュアスケートの根幹とも言えるスケーティングの部分が課題であると感じていた。

 やがてある思いが湧いてきた。

「もっと上手な選手たちと一緒に練習したいと、だんだん思うようになりました」

自らの意思で決めたMFアカデミーへの加入

 その時、知ったのが「MFフィギュアスケートアカデミー」の存在だった。選手の育成と生涯スポーツとしての普及の2つを目的とするアカデミーだ。

 2020年12月に千葉県船橋市にオープンした「三井不動産アイスパーク船橋」を拠点とし、福岡で指導にあたっていた中庭健介氏をヘッドコーチに迎えて2021年4月の開講を予定していた。

 それがきっかけとなった。

「上手な選手が集まってくると思ったので、一緒に練習してもっと頑張ろう、という風になれたらいいなと思いました」

 一方、中庭ヘッドコーチは、選手としてのスケーター中井については認知していた。

「有名な選手だったので、もちろん知っていました。全国大会などで見ていて、将来楽しみな『凄い選手がたくさんいる』と感じていた世代の中の1人が中井さんでしたから」

 ただ、勧誘など働きかけたわけではなかった。

「チームとして存続していくには人がいなければならないのでホームページに案内を掲載したりしましたが、どのような人が来るのか分かりませんでした。中井さんが入校を希望していたことも全然知らなかったです。小学生から中学生に上がる時期で移りやすいタイミングであったことも、決断につながったのだと思います」

 そしてMFアカデミーに加わることになった。中井は他の誰でもなく、自らそれを決めたと言う。

 中学進学とともに千葉県に移り住み、MFアカデミーの1人としてスケートに励んできたが、それを実現するのは決して簡単なことではなかった。

 中井は父母、姉の4人家族だったが、現在、母とともに千葉県に暮らし、父と姉は新潟市内にそのまま残り生活を送っている。2つの家庭に分かれることで、当然、さまざまな負担もかかる。

「自分とお母さんとでこちらに来るのは、やっぱりお金もかかりますし、すごく申し訳ないという思いもありました。もちろん、寂しいという思いもありました」

千葉での競技生活をサポートする家族の力

 それでも気持ちは揺らがなかった。支えになったのは、家族だった。

「みんなが応援してくれて。すごくありがたいなと思いました」

 みんなの理解があり、応援しようという姿勢があったから叶えられたことだった。

 その選択に間違いはなかった。

「上手なお姉さんがたくさんいます。お姉さんたちは本当に伸びるようなスケートをしていて、それを間近で見られるので、とてもいい環境だなと思います」

 チームのみんなと切磋琢磨できることに加え、指導方針も合っていると感じる。

「中庭先生は良くないところを指摘された上で、『こうしてみたら』と改善点とその方法について提案してくれます。それが成長できた理由なんじゃないかと思います」

 後押しして見守ってくれる存在があって求める環境を得られたことを飛躍の契機とした中井は、今、広がる未来を見据えて決意を固めていた。

(後編へ続く)

■中井 亜美(なかい・あみ)

 2008年4月27日生まれ。新潟県出身。5歳の時、テレビの浅田真央の演技を観て憧れたのをきっかけとして新潟市内でフィギュアスケートを始める。中学生になるのを機に千葉県船橋市の「MFフィギュアスケートアカデミー」へ。2022-2023シーズン、ジュニアグランプリファイナルに進出し4位になると、世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得。全日本選手権ではフリーで2本のトリプルアクセルを成功させ4位に。2023年1月、TOKIOインカラミと所属契約を結ぶ。

(松原 孝臣 / Takaomi Matsubara)

1967年生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後スポーツ総合誌「Number」の編集に10年携わり、再びフリーとなってノンフィクションなど幅広い分野で執筆している。スポーツでは主に五輪競技を中心に追い、夏季は2004年アテネ大会以降、冬季は2002年ソルトレークシティ大会から現地で取材。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)、『フライングガールズ―高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦―』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。