生活リズムを夜型から朝型に変えるにはどうすればいいか。産業医の穂積桜さんは「たとえ夜型の人であっても、自然のなかでのキャンプ生活を1週間続け、午前中からしっかり太陽の光を浴びることで、ぐっと朝型に近づけることができるという研究結果がある」という――。

※本稿は、穂積桜『朝型 夜型 中間型は遺伝で決まっている! クロノタイプ別 睡眠レッスン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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■睡眠習慣とパフォーマンスの善し悪しに関連性あり

良質な睡眠が、健康面でも仕事のパフォーマンス面でも非常に重要です。

そして、良質な睡眠を手にするために重要なのが、まず、あなた自身の「睡眠タイプ」を知ることです。この睡眠タイプは、「クロノタイプ」と呼ばれています。

穂積桜『朝型 夜型 中間型は遺伝で決まっている! クロノタイプ別 睡眠レッスン』(KADOKAWA)

「クロノタイプ」という言葉を聞いたことのない人でも、「朝型」「夜型」という言葉はご存じですよね?

「自分は朝型だ」「夜のほうが仕事に集中できる」というふうに、自分の睡眠習慣とパフォーマンスの善し悪しの関連性をなんとなく自覚している人は多いはずです。簡単にいえば、それこそがクロノタイプです。

クロノタイプについて理解するには、「体内時計」について考えてもらうとわかりやすいと思います。

この体内時計(サーカディアンリズム)という用語はみなさんも聞いたことがあるでしょう。

世界的にも注目されていて、例えば2017年のノーベル生理学・医学賞は、体内時計を生み出す遺伝子とメカニズムを発見した、アメリカのブランダイス大学のホール博士らが受賞しています。

■朝型と夜型は遺伝で決まっている

生き物には、太陽の光などの時間を推測する手がかりがなくても、体内で刻む独自のリズムが存在します。これが体内時計で、日本人の場合は平均24時間10分だといわれています。

平均より長い人も短い人もいますが、外の世界の1日24時間とのあいだで生じるズレは、主に日光を浴びることで調整しています。

人間だけでなく、生き物はみなこうした体内時計を持っていて、それに従って体温を上げたり下げたり、または、ホルモンの分泌をはじめたり終えたりと、様々な生命活動を行っているのです。

そして実は、このサイクルがはじまる時間や終わる時間は、個人ごとに大きく異なります。

すると、どういうことが起こるのでしょうか? 身体能力や仕事の処理能力といったパフォーマンスがもっとも上がる「ゴールデンタイム」も、個人によって違ってくるということになるのです。

朝型、夜型といった相違は、このような体内時計の個人差によるものです。

加えて、重要なことがもうひとつあります。朝型や夜型といったクロノタイプは、基本的には「遺伝」で決まっています。

「どうしても早起きが苦手で……」という人がいますが、それはもしかしたら、「遺伝的に夜型だから」なのかもしれません。ちなみにわたし自身は、典型的な夜型人間です。

■年齢とともに朝型にスライドするのはごく自然なこと

クロノタイプは、遺伝の他にも年齢や性別、光を浴びる時間、その光の量といったものの影響を受けて決まります。遺伝によって決定づけられるのは、約50%といったところです。

例えば、午前中に浴びる自然光が強く、その量が多いほど朝型化します。2013年のアメリカの研究では、たとえ夜型の人であっても、自然のなかでのキャンプ生活を1週間続け、午前中からしっかり太陽の光を浴びることで、ぐっと朝型に近づけることができると報告されています。

また、10代後半から20代前半頃には、本来は夜型ではない人もライフスタイルが夜型になる傾向にあることもわかっています。もともと夜型の人だと、この時期には就寝時間や起床時間がさらに後退します。

実際に、「若いときはいくらでも夜更かしができた」「朝まで遊ぶのも平気だった」という人も多いのではないでしょうか?

逆に、中年くらいの年齢では、朝早くから目が覚めるようになり、冗談めかして「もうおじさんだから」「もうおばさんだから」なんて口にするようになりますよね。これには、年齢によるクロノタイプの変化が影響しているのです。

しかも面白いことに、この変化はサルやマウスなどの人間以外の動物にも見られるものです。つまり、年齢を重ねるにつれて朝型にスライドしていくのは、ごく自然なことだといえます。

年齢を重ねてから朝早く目が覚めてしまうことに悩み、「若いときのようにもっとしっかり寝たい」と各医療機関を受診する人もなかにはいるのですが、年齢とともに早起きになるのは正常なことなので、睡眠薬を使うなどして無理に長時間寝る必要はありません。

それから、現時点では理由ははっきりしていないのですが、男性に比べて女性のほうが、総じて朝型が多い傾向にあります。これはおそらく、性ホルモンの影響ではないかと推測されています。

■人類が生き残るためにクロノタイプは生まれた

なぜ複数のクロノタイプが生まれたのかについては諸説ありますが、なかでも興味深いのは、「人類が生き残るため」という説です。

例えば、古代に生きたわたしたちの祖先が、もしみんな同じクロノタイプで、同じ時間に就寝していたとしたらどうでしょうか? 凶暴な肉食獣に襲われ、その集落の人が全滅……という事態に直面していたかもしれません。

それではみんな生き残ることはできませんし、種として遺伝子を残していくこともできません。

そんな事態を避けるためには、外敵に襲われないように常に誰かが周囲を見張っている必要があります。

朝型の人間が寝入っているときには、夜に強い夜型の人間が周囲を警戒する。夜型の人間が眠りについたら、朝型の人間が起き出して、まだ薄暗い早朝の番をする。これなら、あらゆる外敵からの襲撃に対処することができます。

こうして、クロノタイプが生まれたという説があるのです。

■朝型人間と夜型人間の典型的な性格

面白いことに、クロノタイプは性格傾向とも関係していることが多くの研究からわかっています。例えばそれは、次のようなものです。

【朝型性格】
□内向的
□勤勉で朗らか
□粘り強い
□学校の成績がよい
□女性に多い

【夜型性格】
□外交的でリスクをいとわず新たな刺激を好む
□柔軟で変化に強い
□落ち込みやすく、だるさや眠気を感じやすい
□太りやすい
□男性に多い

もちろん個人差がありますが、一見して対照的であることがわかるでしょう。端的にいえば、朝型は勤勉で粘り強く、夜型はアクティブで衝動的といったところでしょうか。

朝型の人は、午後9〜11時に就寝して午前4〜6時に目が覚め、パフォーマンスがもっとも上がるゴールデンタイムを午前に迎えます。

一般的な企業に勤める人なら、出社早々に仕事をバリバリこなせるということになりますよね。しかも、夕方の午後5〜7時には覚醒度がもういちど上がるため、帰宅する時間を使って情報収集や勉強をするのも捗るというメリットがあります。

一方、夜型の人の本来の体のリズムに従えば、適した就寝時間は夜中の1〜3時。目を覚ますのは午前8〜10時です。

でも、普通のビジネスパーソンなら遅刻してしまいますから、どうにか無理やり起床することになります。その結果、1日を通じて眠気を感じることになり、コーヒーや緑茶などカフェインを含む飲みものを愛飲する人が多くなります。

夜型の人がゴールデンタイムを迎えるのは、午後6〜10時。一般的な企業ならば、終業時間を迎えてしまっています。

出典=『朝型 夜型 中間型は遺伝で決まっている! クロノタイプ別 睡眠レッスン』より

■夜型人間は損をしている?

朝型と夜型、それぞれの典型的な性格や生活サイクルを見てもらえば想像できますが、夜型の人はちょっとかわいそう……というか、損をしていることが多いのが実情です。

世のなかの学校や会社の大半が朝からはじまります。朝型の人はしっかり力を発揮できますが、夜型の人はまだ眠そうに目をこすっている時間帯です。

たとえ本来の能力が同等でも、朝型の人のほうが学校での授業もきちんと受けることができますから、先生から評価されて内申点も高くなるかもしれません。

さらに、授業の理解も高まるだけでなく、試験が行われるのも日中ですから、いうまでもなく学業成績が上がります。もちろん、社会人でも周囲から評価されやすいのは朝型です。

わたしも典型的な夜型ですので、学生の頃など、午前中の授業に間に合わずに単位を落としかけたことは数え切れません。あまりに起きられないので、友人が電話で何度も起こしてくれたことをいまでも思い出します。

また、持っている能力を発揮することに影響があるという意味では、勉強や仕事に限った話ではありません。クロノタイプはもちろん、身体能力にも大きな影響を与えます。

アスリートのクロノタイプと運動パフォーマンスを調べた2015年のイギリスの研究では、朝型は午後1〜4時、中間型は午後4〜7時、夜型は午後7〜10時にパフォーマンスのピークを迎えることがわかりました。

さらに、個人のパフォーマンスは1日のなかで最大26.2%も変わるというではありませんか。

プロ野球のナイターなどは別としても、スポーツが行われるのはたいてい日中です。すると、大事な一戦を迎えた夜型のアスリートは、昼間に試合が行われるがために、本来の能力の4分の3程度しかその力を発揮できないということも起こり得るわけです。

0.01秒を争うような短距離走のランナーで26.2%もパフォーマンスが変われば、それこそ成績を大きく左右することになりかねません。

■夜型は朝型より呼吸器疾患の発症リスクが1.22倍

アスリートではない一般の人の話に戻しましょう。

夜型の人は平日に眠くなるのが遅く、結果として寝つく時間も深夜になります。翌朝は仕事のために起床時刻が決まっていることから、常に睡眠不足気味になり、週末には「寝だめ」をしがちという傾向があります。

せっかくの週末の時間を有効に使えなくなるばかりか、就寝時間や起床時間が後退し、さらに夜型化が進むという悪循環に陥っていくのです。

このような特性を持つため、夜型の人は、新しい週を迎えた月曜日の朝にまるで時差ボケのような状態になり、パフォーマンスが上がりにくいということになりがちです。これを、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」といいます。

ちなみに、寝だめでは心身の完全回復が望めません。寝だめすることによって体感としての疲れは軽くなるのですが、パフォーマンス自体は正常な状態には戻らないのです。

もっといえば、病気のなりやすさという点でも夜型の人には嬉しくないデータがいくつも揃っています。

例えば、朝型の人と比べて、夜型の人の呼吸器疾患の発症リスクは1.22倍、消化器・胸部疾患は1.23倍、神経疾患は1.25倍、糖尿病は1.3倍、うつ病など精神疾患の発症リスクに至っては1.94倍というデータが存在します。

これは、日常的に睡眠不足だったり、週末に寝だめをするなど生活習慣が不規則だったりということからくるものではなく、遺伝的なものだといわれています。

ここまで、夜型のデメリットばかりを書き連ねてきましたが、もちろん、夜型にもメリットはあります。

夜型の最大のメリットは、時差ボケのような急な生活リズムの変更に適応しやすいということ。逆に、朝型の人の場合は、体内時計の調整能力が夜型よりも劣ります。急な出張や交代勤務に適応するのは、夜型よりもずっと大変なのです。

出典=『朝型 夜型 中間型は遺伝で決まっている! クロノタイプ別 睡眠レッスン』より

■クロノタイプを意識した働き方と生き方

朝型、夜型は、それぞれメリットもあればデメリットもある。

そう考えると、まずは自分のクロノタイプを知り、特にパフォーマンスを上げたいときやコンディションを整えたいときほど、クロノタイプに合わせた生活スタイルに切り替えることが大事であることが理解できると思います。

その点では、各国における「サマータイムの失敗」も生活スタイルを考えるためのひとつのヒントとなるでしょう。

日本でも、1995年頃から何度か導入が検討されては見送られているサマータイムですが、本来は日照時間の短い高緯度の国で、夏の明るい昼間の時間を無駄にしないためにはじまった制度でした。そのため、導入している国は高緯度にあるヨーロッパの国が中心です。

ところが、ロシアでは2011年に、EU諸国でも2021年にサマータイムが廃止されました。

なぜなら、サマータイムによって数々の問題が噴出したからです。例えば、2007年にドイツで5万5000人を対象に行われた調査によれば、サマータイムに体が慣れるまでに1カ月もの時間がかかるうえ、就寝時刻をなかなか変えられないことで睡眠時間が減ることがわかったそうです。

またロシアでは、サマータイムへの切り替え時期に心筋梗塞による死亡者が増加するなどして、救急車の出動が一気に増えたといいます。イギリスでは、サマータイム切り替え後の1週間で交通事故が10.8%も増加したという調査結果があるほどです。

これはつまり、誰もが一律にフィットする生活スタイルはないということを物語っています。

ここ数年、わたしが産業医として担当する企業においても、フレックスタイム制を採用したり、在宅勤務や副業が許可されたりするなど、働き方の多様性がどんどん増しています。

コロナ禍以降には、多くの企業でリモートワークが採用されました。また、コロナ禍で縮小した転職市場も現在は活気を取り戻しつつあります。

このような時代の追い風もあるなか、例えば、「強い夜型」の人が夜間に働ける職種に変えることで、いまよりずっとご機嫌に働けて、ぐっとパフォーマンスを上げるチャンスもできるはずです。

■夜型の人は朝方に強い光を浴びると朝型化する

もちろん、急にライフスタイルを変えることは難しいでしょうし、無理に変える必要もありません。クロノタイプの半分は遺伝以外の影響も大きく、光の影響を強く受けることがわかっているからです。

そこでまずは、光を浴びる時間を意識するところからはじめていきましょう。

朝型の人の場合は、朝よりも夕方から夜にかけて強い光を浴びると夜型化します。夜にも起きていられる体になるには、朝は遮光カーテンなどを使用して光が入りにくい寝室の環境を整えましょう。

太陽の光は雨や曇りの日でも非常に強いものなので、午前から午後4時くらいまでに外出する場合はサングラスを着用し、経路を選べる場合は地下や建物のなかを通っていくことをおすすめします。

そして、光が少し弱くなってくる午後4時以降は、外出時につけていたサングラスを外し、積極的に光を浴びます。室内で過ごす場合でもブルーライトカットの眼鏡はせず、休憩のときは外の見える窓の近くに行き、積極的に光を浴びてください。

夜型の人はこれとは逆で、朝方に強い光を浴びると朝型化しやすくなります。

「夜、眠気がこなくて寝つく時間が夜中の3時、朝は6時半起きで出社」というような人が、いままでよりも早い時間にすんなり眠れるようになるためには、可能なら朝は遮光カーテンではなく、朝日が部屋に入る環境で目覚めましょう。

朝は、特に屋内で過ごす時間を減らせればベストですが、日光を浴びるために出勤時にひと駅分歩くだけでも十分。ダイエットにも効果があって、一石二鳥です。

■太陽とたき火の光しかないキャンプ生活の効果

また、日光以外の光も関係することから、ネットサーフィンやスマホのチェックをするのも、夜寝る前の時間は避け、朝起きてからすることを提案しています。

出典=『朝型 夜型 中間型は遺伝で決まっている! クロノタイプ別 睡眠レッスン』より

わたしも典型的な夜型なのですが、朝・昼は窓の大きいカフェや屋外の席を積極的に選んだり、土日は午前8時前から子どもの外遊びに一緒に出かけたりしています。

朝の公園は空いていて気持ちがいいですし、朝日によって眠気を促すホルモンである「メラトニン」の分泌が抑えられるので、午前中に眠くなることがなくなりました。

それから、ぜひ提案したいのが体調をリセットするためのキャンプです。先に紹介したように、太陽とたき火の光しかない生活を送ると、夜型の傾向が大幅に改善することが実証されています。

いまは、キャンプ用品をレンタルすることができ、様々なアウトドア教室を併設するキャンプ場や、おひとりさま向けのソロキャンプ施設、より贅沢な食事などのオプションもあるグランピング施設など、手軽で楽しい選択肢が増えました。

次の休みの計画に、キャンプもいいかもしれません。もちろん、現在の状況を思うと、新型コロナウイルスの感染状況が収まっているタイミングが理想でしょう。

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穂積 桜(ほづみ・さくら)
産業医、株式会社MEDICIO代表取締役
日本医師会認定産業医、精神科専門医、漢方専門医、臨床心理士。2001年、札幌医科大学医学部を卒業し、札幌医科大学附属病院神経精神科、東京都立松沢病院などで精神科医として研鑽を積む。また、国立病院機構東京医療センター、北里大学東洋医学総合研究所において、内科、東洋医学の知識を幅広く習得。2014年より、精神科、内科の臨床経験のみならず、人事労務、法律の知識を併せ持つ産業医として活躍。
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(産業医、株式会社MEDICIO代表取締役 穂積 桜 イラストレーション=伊藤美樹)