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未来のカーデザイナーたちに依頼

text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

ジェームズ・ボンドのクルマといえばアストン マーティン。映画好きの多くは、そんなイメージを持っているのではないだろうか。確かに、英国を代表するスポーツカーブランドは、これまで長年にわたって製品に十分な投資を行い、その状況を維持してきた。

【画像】諜報員に愛されたスポーツカー【アストン マーティンの刺激的なモデル4選】 全118枚

しかし、映画007の最初のクルマは1931年製のブロワー・ベントレーであり(小説「カジノ・ロワイヤル」の高速チェイスで生き生きと描かれている)、すべての書籍や映画を調べると、ボンドはロータス、フォード、BMWから黄色のシトロエン2CV、そして昔は1960年代のサンビーム・アルパインまで、20数台のクルマを運転していることがわかる。


デザインだけでなく、映画のストーリーも一緒に提案してくれた学生が多かった。

では、10年後に秘密諜報員が乗っているのはどんなクルマだろうか?新時代のボンド・カーには、電動化、自動運転、さらには飛行能力が重要となり、新素材や新技術の活用、環境汚染の抑制が求められるはずだ。ただ、1つだけ外せないテーマがある。ボンド・カーは非常に速く、非常に多機能で、非常にクールでなければならない。

当然のことながら、ボンド映画を製作しているイーオン・プロダクションズからは、この問いに対する答えはまだ出ていない。そこで、英コベントリー大学の有名な自動車・交通デザインコースの大学院生を招き、AUTOCARのコンペに参加してもらった。

コベントリー大学は長年にわたり、自動車業界に何十人もの優秀なカーデザイナーを輩出してきた。しかし、次期ボンド・カーの開発に着手するのは簡単ではなかった。コベントリー大学でカーデザインを学ぶ大学院生40名の多くは英国外から来ているが、その大半は自宅から遠隔で授業を受けていた。

わたし達は、40名全員を対象としたコンペティションを実施することにした。数回のオンライン・ミーティングを経て、最終審査では優勝者1名、準優勝者2名、そして入賞者3名を選んだ。その作品を紹介しよう。

入賞作:レクサスSF(スーパーファスト)

デザイナー:フランシス・ジョン

ジョンは、新時代のレクサスのスーパーカーが完璧にフィットする物語を提案してくれた。ボンドは日本で、ヒューマノイド・ロボットを使ってMI6に潜入しようとしている国際的な犯罪者、ヒデアキ・ヘガーを追っているのだ。


フランシス・ジョンの提案したレクサスSF

「未来的」なデザインを採用したこのレクサス・スーパーファストは、ボンドのために特別に製作され、現地の協力者であるシロー・ナガエによって提供された。永久磁石式の電気モーターを搭載し、最高出力1200ps、最大トルク165kg-mを発揮する。

このクルマのパフォーマンスは絶大で、ジョンがアクションの舞台として提案した京都にはちょっと似つかわしくないかもしれない。

超急速充電が可能な1360kWhの全固体電池で駆動し、965kmの航続距離を目標としている。そして、当然ながら武器と防御装置は未来を感じさせるものだ。密閉、隔離されたキャビンは、昔ながらの銃弾から生化学兵器の曝露まで、あらゆるものから乗員を守る。

メインウェポンは一対のレーザー誘導式キャノン砲だが、リアの収納部分からクリケットボールほどの大きさの空気袋を投下することもできる。瞬時に何倍もの大きさに膨らみ、追手の障害物となったり、後続車の真下で爆発して道路から放り出したりする。

入賞作:アストン マーティン・コンセプト

デザイナー:トンリアン・シア

このデザイナーは、ボンド・カーの定番とも言えるアストン マーティンのデザインを凌ごうとしている。彼の試みは見事に成功していると言えるのではないか。


トンリアン・シアが提案したアストン マーティン・コンセプト

シアはいくつかの選択肢を提示してくれたが、その中でも最も目を引くのはブルーサイドのデザインで、ウィンドウの下に見事なフラットパネルがあり、それが前輪のホイールアーチへとわずかに曲線を描きながらつながっている。現行のモデルとは全く異なるデザインだが、明らかにアストンのマシンであることがわかる。また、後輪の上は筋肉質な形状となっており、アストンらしくもオリジナリティあるデザインだ。

シアは次のように説明している。

「ボディサイドは、ドアのシャットライン(ボディパネルとの隙間)の手前で意図的にフラットにしています。これは、ジェームズ・ボンドが着ているスーツをイメージしています。彼は英国紳士ですから、クルマも非常にクリーンでエレガントでなければなりません」

グリルは自信に満ちた格子状で、日本の折り紙からインスピレーションを得ている。これもまた、アストンには新鮮なデザインといえるだろう。

武装についてはどうか?2030年にボンドがどのように身を守るかについて、シアは秘密にしている。

「彼はジェントルマンです。武器を見せびらかすようなタイプではありません」

入賞作:マセラティ・ボンド・コンセプト

デザイナー:ティアンユ・ジャン

デザイナーのジャンは、アクション満載のストーリーにはイタリアの首都ローマが素晴らしいロケーションを提供してくれると考えている。ボンドの超モダンなスーパーカーが、コロッセオを背景にして敵から逃れるシーンが好きなのだ。


ティアンユ・ジャンが提案したマセラティ・ボンド・コンセプト

彼は、映画「ワイルド・スピード」シリーズの雰囲気をベースに、「トランスフォーマー」の要素を加えてデザインしている。このクルマには可動式のボディパーツが搭載されており、高速走行時の安定性を高めるためにボディを大きく変化させることができるのだ。

ジャンがボンドのために選んだブランドはマセラティ(英国最高の諜報員がこのクルマのハンドルを握るのは初めて)だ。ボディは非常に低く、安定性と空力特性が優れているだけでなく、敵の追跡からも逃れやすい。

ボンド・コンセプトのメイン動力源は、すべてのホイールに搭載された電気モーターだが、トラブルに見舞われて迅速な逃走が必要になったときのために、リアには窒素を燃料とするロケットブースターが用意されている。

準優勝作:アストン マーティン・オフローダー

デザイナー:ユーテン・マー

アストン マーティンのオフローダーは、新型DBXだけで十分なのか?デザイナーのユーテン・マーが考案した2030年の全地形型アサルトビークルを見てみてほしい。


ユーテン・マーが提案したアストン マーティン・オフローダー

「悪役はいつもランドローバーなどのおなじみのオフロードカーで、複雑な地形の中をジェームズ・ボンドを追いかけています。そこでわたしは、中東の砂漠からアフリカの草原まで、どんな路面にも対応し、どんな障害物も飛び越えることができる、もっとドラマチックなアストンのオフローダーを作りたいと思いました」

アストン マーティン・オフローダーは、水素燃料電池を搭載した電動モデルだ。前方に運転席があり、後方にはさまざまな車載武器を操作するための座席がある。フロントバンパーにはミサイルが隠されており、発煙筒はリアから放出され、追手を欺く。

また、昔ながらのハンドウェポン(マシンガン、スナイパーライフル)も用意されている。単独行動中、007はクルマを自律走行モードにして、武器を積んだリアシートへ移り、自分の身を守ることができる。これは是非とも映画で見てみたいものだ。

準優勝作:ジェネシスX 007

デザイナー:タナイ・ハンダンワー

デザイナーのハンダンワーは、ジェームズ・ボンドのキャラクター(「予測不可能で、上品で、ミステリアスな雰囲気」)をデザインのベースにして、韓国の高級車ブランドであるジェネシスに、007の要素を取り入れた。


タナイ・ハンダンワーが提案したジェネシスX 007

ハンダンワーは、次のボンド映画は東南アジアを舞台にしたものになるだろうと考えており、それがアジア発のブランドを選んだ理由だ。特にジェネシスのクラス感や価格は、ボンドの人物像と非常によくマッチしていると考えている。

X 007のプロポーションも、ボンド自身の力強さや権威を反映しているという。洗練されたクルマだが、そのコンパクトなプロポーションは敏捷性を感じさせ、サイドの交差するラインとサーフェイスは、複雑さとスタイルの良さを十分に表現している。

また、このクルマは自動運転が可能であるという(おそらくボンドは移動中に他の作戦活動に従事できるだろう)。防御兼攻撃用の武器は、プラズマキャノンと電磁パルス・グレネードランチャーだ。

しかし、このデザインの最大の特徴は、射出装置に搭載されたドローンのような脱出ポッドであり、万が一、トラブルに見舞われて脱出しなければならなくなった場合に、地上を走るX 007から急速離脱することができる。

優勝作:ポールスター007

デザイナー:ジョアン・ニーバ

2030年のボンド映画では、スウェーデンのケブネカイゼ山付近の雪に覆われた地域で、英国最高の諜報員がポールスター007に乗る。今回受賞した学生デザイナーのジョアン・ニーバの考えた設定では、そうなっている。


ジョアン・ニーバが提案したポールスター007

彼の提案するクーペは、ポールスターの特徴的なデザイン要素をうまく利用しながら、さらに幾何学的な一面を加えている。フラットなボディサイド、大きなフロント・エアインテーク、そしてアグレッシブな印象を与えるシャープなヘッドライトが特徴的だ。

車名はやや単純なものだが、ニーバはポールスターの基本的な命名方法と合致していると考えている。

このクルマは史上最もパワフルなボンド・カーというわけではないが(各車輪に108psの電気モーターを1基ずつ搭載)、前方に設置されたロケットランチャーと後方の二連装マシンガンにより、確実に反撃することができる。

車輪が変形してフラットになると、ホイールのスポークが羽根の役割を果たし、ドローンのような揚力と安定性を得ることができる。超急速充電に対応した320kWhの全個体電池を積んだ重い車両を浮かび上がらせるほどのパワーだ。

優れたデッサン力と大胆な提案により、彼の考案したシナリオに説得力とリアリティが加えられている。立ち上げられたばかりの新生ブランド、ポールスターには、ニーバのコンセプトのように人気映画シリーズへの露出が必要だ。ポールスター007は、アクションの舞台となるスウェーデンの地に完璧にマッチしている。

デザイナーになるのは大変なのか

世界の自動車生産台数は急速に増加し続けているため(現在は年間8000万台、今後は1億台の見込み)、カーデザイナーの需要は将来的に大きくなると見られている。また、電動化が進み、性能やサウンドが価格帯の間でほとんど変わらなくなると、デザイナーはブランド力、特にポルシェ、フェラーリ、アルファ・ロメオなどのバッジを維持するために工夫を重ねなければならない。

しかし、それほど単純な話ではない。コベントリー大学出身のコース・ディレクター、エイサル・ガッサンは、新しいデザインの仕事における競争は非常に激しいと語る。世界でも有数の教育機関であるコベントリー大学では、現在、400人の学生が学部課程に在籍し、40人の学生が大学院の資格を取得しようとしている。その中には、ここで紹介した新進デザイナーも含まれている。


今後、部品の共通化によってクルマの「個性」はどんどん薄まっていくかもしれない。そこで、差別化に重要な役割を果たすのがデザインではないだろうか。

世界最高の仕事の1つにふさわしく、入学するのは大変だ。たくさんの才能と強い労働意欲、そしておそらくは幸運も必要だ。しかし、未来のクルマを買う人にとっては、素晴らしい製品が約束されているのだ。