最強K-POPグループ「BTS」の歌詞が世界中の人々に刺さる納得の理由

■世界中から約75万人がオンラインライブを視聴
6月14日、オンラインで開催された「BANG BANG CON The Live」には、韓国や日本をはじめ、アメリカ、イギリス、中国など107の国・地域から最大値で75万6600人が同時にアクセスして公演を楽しんだという。BTSの所属プロダクションBig Hitエンターテインメントによれば、「世界で最大規模の有料オンラインコンサート」だった。
コロナ禍以前に開催されたBTSのオフライン・ライブの観客動員数は1回あたり3万3000人のため、このオンライン・ライブ1回だけで23回分にあたる観客を集めた計算だ。コロナ禍の影響で世界的に各種の公演が中止・延期を余儀なくされ、アーティストたちの苦境が伝えられるが、そんな状況でもBTSは別格のようだ。
■「自分を愛することから他人への愛も始まる」
リーダーのRM(キム・ナムジュン)は今回の“無観客コンサート”について、「これが未来の公演かと思うと怖くなった。でも、世界中の多くのファンが助けてくれたおかげで無事に終えることができた。いつ会えるかわからないけど、最善を尽くしたい」とコメントしたが、同時に自分がダンスでミスしたことについて、「ARMY(BTSのファンの愛称)に謝罪したい。僕は自分自身に酔ってしまったようだ。ごめん」と、率直に告白してわびたのは印象的だった。
RMは一昨年の国連総会での感動的なスピーチでも、「失敗やミスは僕自身であり、人生という星座を形作る最も輝く星たちなのです」と、世界の若者に向けて自分を愛することの大切さを訴えた。その言葉にはまさに“不完全だからこそ悩みながら成長し続ける”というBTSのこれまでの軌跡が凝縮されていると言える。
BTSとBig Hitがユニセフと共同で行った反暴力キャンペーン「LOVE MYSELF」が、6月22日にユニセフ・インスパイア・アワードを受賞した。韓国ユニセフ協会のイ・ギチョル事務総長は、こう語っている。
「“自分を愛することから他人への愛も始まる”というBTSのメッセージが、世界中で肯定的な変化をもたらしている。今回の受賞は、世界の児童と青少年に慰めと勇気を伝えるBTSの良い影響力の結果だと思う」
■「この歌を聞いてから自分を愛することを知った」
この彼らのメッセージは、いじめや暴力の撲滅を訴える映像の中で歌われている「Answer:Love Myself」で聞くことができる。その一節にはこうある。
「ひょっとすると、誰かを愛することよりも、もっと難しいのが自分自身を愛すること/昨日の僕、今日の僕、明日の僕/足すことも引くこともなく、これが僕のすべてなんだ」
YouTubeにアップされた動画には、ARMYたちのコメントが何百と書き込まれている。コメントをいくつか拾って紹介してみよう。
「コンサートでRMの言葉を聴きました。『皆さんが自分を愛せるように、僕たちを利用してください』私の心の中の切れていた電球に1つ、光がつきました」
「私には父親がいない。ママは私のことを嫌っている。兄は私を傷つけてばかり。私はベッドで鏡を見て、こんな醜い私を愛してくれる人なんかいないって思っていた。でもこの歌を聞いてから、自分を愛することを知ったの。この7人の天使に会えて本当によかった。そしていまは思っている。自分を変える必要はない。自分自身でいればいいんだって」
「BTSを尊敬している。彼らが特別なのは音楽だけじゃない。ファンを大事にしてくれるところ。たとえセクシャルマイノリティでも、人種が違っても」
「コロナのせいで気がめいり、寂しくて、つらくて、ビルの屋上に上った。最後にこの歌を聴いてから……と思ったら、もう少し頑張ってみようという気持ちになった。いつもBTSのオッパ(お兄さん)たちの笑顔を見ると、自分も思わず笑顔になれるから」
「私はブス。(BTS:君はきれいだよ)/デブだし。(BTS:君は完璧さ)/私は誰からも必要とされてない。(BTS:僕には君が必要さ!)」
「先生:勉強しなさい。/親:私を困らせないでね。/友達:もっと楽しませて。恋人:いつもきれいでいて。BTS:あなた自身を愛して!」
これらのコメントを読めば、いかにBTSのメッセージがファンたちの心に真っ直ぐに届き、それが孤独や暴力に苦しむ若者たちにどれほど大きな勇気を与えているかがよくわかる。
■BTSの愛読書に登場する老子の言葉
では、BTSの持つ言葉の力は、どこから来ているのだろうか。そのヒントとなるのが、V(愛称:テテ)の愛読書、シン・ドヒョン、ユン・ナル著『言葉の力 世界の古典と賢者の知恵に学ぶ』(日本語訳版がかんき出版から刊行されている。以下、『言葉の力』)だ。
古今東西の賢者、宗教家、哲学者の名言をかみ砕いて、現代を生きる知恵としてよみがえらせた名著だ。孔子、釈迦、イエス・キリスト、スピノザ、マルクス、サルトルなどのキラリと光る言葉が紹介されている。
その中に登場する一人が古代中国の智者、老子だ。老子は春秋戦国時代を生きた伝説的人物で、司馬遷の『史記』によれば孔子に礼の道を教えたとされる。『言葉の力』にはその老子のこんな言葉が引かれている。
「天下を治めることより、自分の身を大切にする者にこそ、天下を任せることができる。自分の身を愛する者だからこそ、天下を託すことができるのだ。」
これはどういう意味だろうか。常識的に言えば、自分を犠牲にして世の中に尽くそうとする人物にこそ、世の中のことを任せようとするのではないだろうか。ところが老子はこの常識をひっくり返す。自分を愛する者にこそ、天下を任せようというのだ。
■2500年前の言葉が最新のK-POPグループの歌に込められている
老子の言う「自分を愛する」とは、具体的にどういうことか。原文を見ると、先の引用文の前にはこんなことが書かれている。「人から評価されたりバカにされたりして大騒ぎするのは、くだらないことだ。それは本当の自分の価値とは何の関係もないことだからだ」

つまり老子は、世間からどう見られるかよりも、自分の価値を大事にすることこそ大切だと言っているのである。自分の価値を知り自分を愛する人は、個人の価値を理解している。そういう人こそ、他人の価値を理解し、真に他人を愛することができるのだ。逆に、世の中に身を捧げると言う人は、他人にも同じ犠牲を強いることにもなる。
2500年前に墨で書かれた「愛以身為天下、乃可託天下」という言葉が、最新のK-POPグループの歌「Answer:Love Myself」を通じてインターネットで世界に広がるというのは、実に面白い現象だ。
『言葉の力』には他にも、「人生の主人公は自分である。この真理を忘れては幸せになれない」(瑞巌禅師)、「一人ひとりの人生は一個の芸術作品だ。自分は他人と違うからこそ価値がある」(ミシェル・フーコー)、「グラスの形は忘れても、ワインの味は忘れない。言葉の形式よりも魂の声こそが真実を伝える」(ハリール・ジブラーン)といった至言が満載されている。
本書をひもときながら、賢人たちの英知がBTSの音楽にどう溶けこんでいるのかを想像してみてはどうだろうか。
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米津 篤八(よねづ・とくや)
朝鮮語・英語翻訳家
早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に勤務。退職後、ソウル大学大学院で朝鮮韓国現代史を学び、現在は一橋大学大学院博士課程在学中。翻訳書に『言葉の品格』『言葉の温度』(ともに光文社)、共訳書に『チェ・ゲバラ名言集』(原書房)などがある。
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(朝鮮語・英語翻訳家 米津 篤八)
