■コロナの混乱相場で勝ったのは誰だ

コロナショックにより、金融市場に世界的な大混乱が生じている2020年。3月19日、日経平均株価は終値1万6552円を記録し、今なお大きな変動が続いている。帝国データバンクの調べによると、新型コロナの影響で倒産した企業は335件(20年7月13日現在)となっており、20年中の倒産件数は1000件を超えるという見方もある。

「コロナ禍で個人投資家の積極投資が見られた」とアナリスト馬渕磨理子氏。

「IMF(国際通貨基金)は世界経済の見通しで、20年の世界全体の成長率をマイナス4.9%、日本はマイナス5.8%と予測しました。歴史的な大不況の訪れを予感させる一方、日経平均は不気味にも、上昇し続けています」

そう話すのはテクニカルアナリストの馬渕磨理子氏だ。株価上昇の背景については以下のように説明する。

「最大の理由は、アメリカによる無制限の金融緩和と米連邦準備制度理事会によるジャンク債の購入をしている点です。米国のみならず、日本や欧州の中央銀行も『金融危機を起こしてはいけない』という命題に向けて動いていることが株高につながっています。しかし過度な株価上昇は必ず崩壊を招きます。立ち上がれないほどのダメージになる恐れがあります」

こうした混乱期に、コロナショックを株式投資で文字通り、“倍返し”ではねのけ、大儲けした投資家も存在する。

「儲けは合計で4000万円ほど。この3カ月を振り返ると、一言で言えばコロナバブルでしたね」

そう語るのは、投資歴13年、元手50万円で株式投資を始め、現在は10億円以上の資産を動かしている高橋圭一さん(仮名・33歳)だ。

■空売り1億5千万で私が得たもの

「売買した主な銘柄は大成建設と国内ETF(上場投資信託)です。大成建設は20年2月上旬に売りを入れて、その後追加で売りを入れました。20年3月中旬に利益確定し、儲けは4000万円くらいでした。通して、1億5000万円ほど空売り*しました」

*空売りとは、持っていない株式を、信用取引などで「借りて売る」こと。近い将来に株価が下がると予測し、現在の株価でいったん売りを出す。値下がりしたところで買い戻して借りた株を返す。このときの差額が利益になる。

当時、ダイヤモンド・プリンセス号船内でコロナウイルス感染者が発覚し、日本国内でついに陽性と判定される人が出始めたタイミングだ。そんな混乱をよそに、高橋さんの勢いは止まらなかった。

「大成建設を売ってわりとすぐに、今度は国内ETFを3億円分購入しました。20年5月下旬に利益確定し、1億5000万円ほどの儲けが出ました」

高橋さんによると、コロナ禍では大成建設以外にも、上場企業の中で単発で利益が出る銘柄が目立ったという。

「20年7月前半もサイバーエージェントで6%の変動があり、そこでも大きく利益を出しましたね」

では、彼がここまで大きく利益確定できたのはなぜか。

「大成建設は19年夏から株価がずっと上がっており、注目していました。あまりにも上昇していたので、いずれ上げ止まりが来るだろうとマークしていたんです。それがコロナ禍において起きたというだけ。私は株式投資は時流に流されず、自分でルールを定めて、そのルール通りに淡々と、感情抜きで売買するというのが必勝法だと思っています。『コロナだから……』で投資してる人は馬鹿です。つまり、チャートだけを見る。勝因はこれだけです」

大成建設の株価の動きは、高橋さんが定めたルールで勝てるチャートの動きだったという。

「週足といって、1週間単位でチャートを見る見方があります。20年2月前半、大成建設の週足は下落傾向でした。4500円からさらに3000円台まで落ちてきました。想定以上に下がったので、売るなら今だと思ったのです」

高橋さん曰く、コロナのような金融市場に大混乱をもたらす社会的事件は、「毎年起きており、そのときにチャートでどんな動きがあるかの傾向をおさえておけば、流されずに儲けは出せる」と豪語する。

「12年なら中国の反日暴動、16年ならブレグジットを巡る英国での国民投票のように、毎年世界経済に混乱が生まれる事件は起きているんです。そして、そのたびに日経平均は影響を受けます。重要なのは、その事件が実際に日本経済に影響を及ぼすかは関係なく、混乱する“ネタ”が発生するだけにもかかわらず、チャートは動くということです。

だって、中国で日本車一台がひっくり返ったからといって、日本企業が経済的な打撃を直接受けるわけじゃないですよね(笑)。にもかかわらず、株価は動く。そして、その下がり幅は毎年規則があり、おおむね下がり値は16%前後でストップします。私の中ではそれから5日間下がらなければ、その日が底値と判断します」

■コロナは正直関係なかった

高橋さんの“持論”を証明するようにコロナ禍中の日経平均の動きを振り返ってみよう。

「20年2月に日経平均が年初来高値の2万4000円台から16%下がり、2万円台に入った時期がありました。ここで底値かと思いましたが、それから5日以内でさらに下がり、ようやく下げ止まりの傾向を見せたのが1万6000円にまで下がった20年3月中旬日でした。

私の基準では16%以上の下がり幅は常に“買い”ですから、19%も下がったこのタイミングで日本ETFを買いました。1万6500円で買い、2万1000円まで上がったタイミングで利確したという流れですね」

つまり、「コロナだから」という理由でいたずらに銘柄を買うことはしなかったと高橋さん。

「見ていたのはチャートだけ。年に1度必ず訪れる“16%の値落ち”のタイミングで買いを入れて、あとは回復のタイミングで売るだけ。こんなの、サルでもできますよ」

高橋さんのような元手が多いベテラントレーダーでなくとも、コロナ禍でも大儲けした投資家は存在する。

「私も、事業内容はあまり見ず、銘柄のチャートだけを見てコロナ禍の1カ月弱で150万円の儲けが出ました」

会社員で投資歴1年半の伊藤大地さん(31歳・仮名)は、王子ホールディングス、楽天、日経ダブルインバース上場投信(ETF)の3銘柄でコロナバブルの恩恵を受けている。

「具体的に売買した時期は、20年2月下旬から20年3月上旬までです。銘柄を見ると、ECに強い楽天など、コロナ銘柄と思いがちですが、私が見たのはチャートの動きだけです。日経ダブルインバースは、日経平均と逆の動きをするなどとも言われています。売買した時期は日経平均が17%下がったのに連動するように17%上がりました。私も自分なりにルールを設けて、感情に流されずに売買した結果、350万円の元手がたった1カ月で500万円まで膨れ上がりました」

■この日経平均を下支えしたのは誰

アナリストの馬渕氏は、コロナ禍でも安定的に利益を出した人は「時流に流されず、運用資金と運用能力の2つを身に付けていたからだろう」と分析する。一方で、日経平均を下支えした要因の中には、こうした個人投資家の「前向きな投資」もあったと解説する。

「コロナショックにより、日経平均が大きく下落した20年3月、国内の個人投資家は8454億円の買い越しとなりました。現金取引による買越額は1兆516億円を記録しており、日銀のETFも買い1兆3456億円に次いで、国内の個人投資家が20年3月の急落時に日本株を大量に購入していたことになります。

株式投資に興味を持っていた「新規の層」も流入しており、日本経済新聞によると『ネット5社合計の20年3月の新規口座開設数はコロナウイルスの感染拡大前の20年1月に比べ2.2倍の31万口座』に上ったと言います。日本人もずいぶんと株式投資に対して柔軟になったと私は感じました。それと同時に、自粛生活に耐えている中で、前向きに行動をしている人もある程度いたことに少し驚きました。

また、普段会社でコソコソ隠れながらデイトレードをしている会社員らが、テレワークにより、堂々とトレードができたのも要因かもしれません。コロナで日本が不安に包まれる中、こうした積極投資を行っていた人たちが日本経済を下支えしたのでしょう」

「コロナだから」と不況にあえいでいる人もいるが、“一人勝ち”をしている人も確かに存在する。法則性を見出せば、どんな混乱も味方につけられるということだろうか。

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鈴木 俊之(すずき・としゆき)
編集者・ライター
1985年生まれ。12年法政大学卒業、出版社入社。月刊誌編集部を経て15年独立。専門分野は金融、起業、IT、不動産、自動車、婚活、美容など。
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(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=横溝浩孝)