■口臭の発生源はなんと唾液!

普段、自分は健康だと思っていても、しばしば体調を崩したときや仕事を頑張りすぎたときに「自分の息が臭いな」と思った経験がある人も多いのではないでしょうか。

口臭には、健康な人も起こす「生理的口臭」(起床時口臭、空腹時口臭、緊張時口臭、飲食後の口臭など)と、病気の症状として常に相手を不快にする「病的口臭」があります。実はその両方をほとんどの人が持っています。

口臭を調べると、その人の生活を知ることができます。口臭というのは、口からはじまり口で終わる、その人の体の状態や生活の営みの結果であるとも言えるのです。

近年発表された「口臭白書2019」では、国民の90%の人が口臭を気にしているという結果が出ています。

さて、みなさんが気にしている口臭(ガス)は一体どこから発生するのでしょうか?

歯だと思う人は「歯磨き」、舌だと思う人は「舌磨き」をされると思います。ですが実は、口臭というものは「唾液」から直接的に発生しています。ガスは、液体から揮発するからです。

私のクリニックがある大阪・心斎橋の近くには道頓堀川という有名な川があります。口臭の発生は川のにおいとよく似ており、透明で美しい川は臭いません。ですが道頓堀川のような汚れた川でも、流れが速いときは臭わないのです。同じように、唾液の質と新鮮な唾液の絶え間ない流れが、口臭を起こさないための重要な鍵となるのです。

■長生きする人は唾液が多い

唾液には様々な機能があります。唾液によって食事や消化だけでなく、会話や感染防御などが円滑に行われています。口臭だけでなく、これらのことに関しても、唾液の質と流れが重要となります。実際、長生きする人は唾液が多いです。

唾液の質の低下は、口や喉や鼻などからの血液や膿と、飲食や喫煙などに伴う舌の上の汚れが原因です。しかし、しっかりと新鮮な唾液の流れがあるうちは、それほど臭うことはないのです。

食後すぐは新鮮な唾液の流れがあるので、普段病的口臭のある人でも口臭が消えます。

唾液の流れは、無意識に舌を前後に波打つように動かしながら、唾液を出してはのみ込むといった機能で維持されています。

睡眠中は、舌の動きが緩慢になり、唾液の流れが停滞してしまいます。新鮮な唾液の流れがなくなることで、善玉菌が酸素を消費して酸素不足となり、悪玉菌である歯周病菌などの嫌気性菌の活動が活発になり、細菌数も増殖します。それと同時に、口の中に残っていた飲食物による汚れも消化酵素によって分解を受け、非常に不潔な状態になり、起床時に口臭をもたらします。

また、緊張やストレスを抱えたときも無意識に奥歯を噛みしめるため、舌が動かなくなり口臭が生じます。

スマホやゲームなどを長時間していると目線が下向きになりますから、無意識に両奥歯が接触し、その間は舌が動かなくなります。これも口臭の原因となります。緊張やストレスだけでなく、このような習慣も口臭発生リスクに関わってきます。

心臓が常に動いて全身に新鮮な血流を送り出すことで体調を維持しているように、舌は新鮮な唾液の流れを維持する心臓のような役割があるのです。

この無意識の舌の動きによる機能は、自律神経機能によるものです。ストレスや心理的な不安が続くと、舌の動きが緩慢になり、唾液の流れが停滞してストレス性の口臭を引き起こします。

唾液とは別に、各臓器の代謝の結果も口臭の原因になります。お酒を飲みすぎると肝臓での代謝が追いつかず発生するアルコール臭、ニンニク料理を食べると代謝によってつくられるニンニク臭などがわかりやすい例です。また、糖尿病などの代謝疾患に陥ると通常とは異なる代謝が行われ、吐く息が腐敗した果物のような口臭になります。腎疾患であれば、アンモニア臭が発生します。この症状は、しばしば嗅診といって口臭の種類による病気の診断に役立つこともあります。また朝食を抜いたり、無理なダイエットを行うと血糖値が低下し、脂肪の代謝過程でケトン体がつくられ、これも口臭の原因となります。

これらの口臭は各臓器から血液を介し、肺から呼気として排出されます。口臭はその人の飲食生活習慣、精神的肉体的コンディションなどすべてが反映されるのです。つまり、口臭は「心身の発するSOS」と言えるのです。自分の口臭を知ることで、ストレスや肉体的負荷をコントロールするきっかけにもつながるのです。

また、生理的口臭は自覚しやすいですが、病的口臭は自覚できないことがあります。その結果、自覚する生理的口臭に悩まされたり、自覚ができない病的口臭のある人は、他人に指摘を受けるまで周囲の人に迷惑をかけ続けるというような問題を引き起こします。

■誰も指摘してくれない「口が臭い」という現状

そして、口臭はスメルハラスメントの原因ともなりえます。会社などで口臭を問題にしようとしても、臭いを指摘することはその人の尊厳に関わるために対応しづらい面もあります。様々なハラスメントの中でも、最も厄介なハラスメントが「スメハラ」で、2社に1社の割合でスメハラがあるという調査報告もあります。

しかし、当の本人は周囲に迷惑をかけているという自覚がないため、実は誰もが無意識のうちに加害者となりうる危険性を孕んでいるのです。

口臭のことを本人に指摘しづらいために、陰で同僚同士や友人同士が、対象となる人のことを愚痴ることが少なくありません。「加害者」はやがてグループの中で避けられ、やがて差別され、中傷されるという「逆スメハラ」も起こりえます。

その一方で、自らの口臭を気にしすぎるあまり、人と会話することが苦痛となってしまい、他者と関わることをしなくなり、ますます他者から嫌われるという悪循環に陥ってしまう人も見受けられます。

しばしば中高生が口臭を原因としていじめの対象や不登校になり、その後の人生を棒に振ったという事例は少なくありません。

その子たちに共通して言えることは、「周囲に迷惑をかけてはいけない」という思いやりの気持ちが強いことです。その気持ちが周囲に理解されないまま、集団において異質な空気感を持つ人間として悪目立ちをしてしまい、排除されるターゲットとなってしまうのです。

口臭があるということは身体、精神に問題があるというだけでなく、周囲に迷惑をかけたり、社会的環境のQOLの低下につながったり、その人の社会的尊厳を損ねるリスクがあります。口臭が気になれば放置せず、口臭の原因となっているものを根本的に解決することが大切です。

もし口臭を原因にした悩みがあるのなら、ひとりで抱え込まず、口臭専門のクリニックに相談してください。

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本田 俊一(ほんだ・しゅんいち)
イーブレスクリニック心斎橋院長
口臭治療の第一人者として知られる。無臭の息と全身の健康美をめざす「ほんだ式口臭治療法」は多数の口臭外来などで導入されている。
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(イーブレスクリニック心斎橋院長 本田 俊一 構成=網田和志)