執拗な電話で担当者を追い込むクレーマー。医療機関も行政も民間企業も、一部の者による心ない電話で疲弊してしまう。こうした被害を最小限にするにはどうすればいいのか。弁護士の島田直行氏は「コロナ禍の不安に駆られた人が悪質なクレーマーになる恐れがある。電話対応での4つのポイントを参考にしてほしい」という――。
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■不安に駆られた人がクレーマーに変貌する

新型コロナウイルスによる影響で、個人あるいは企業に対する貸付や給付の制度が立て続けに決まっている。救済のために制度を組み立てることは必要だが、申請手続がわかりにくいという声も少なくない。

手続の現場では、「明日の生活のために一刻も早く」という問い合わせが殺到しているそうだ。雇用維持のための雇用調整助成金にしても、知り合いの社労士の方は「なんとかしてあげたいけれど自分のキャパの限界もある」と嘆息をついておられた。

もっとも周りの事情関係なくすべて「自分の視点」で語りたがる悪質なクレーマーもいる。制度の負担は現場にもたらされる。

こういった現場の疲弊は、電話というありふれたものが原因になっていることも珍しくない。弁護士として「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の相談を受けるなかでも、電話に関するものが圧倒的に多い。

「10万円の給付金はまだか」
「いつになったら給付金が出るんだ」
「どうしてすぐに電話がつながらないんだ」
「今すぐ謝罪しにこい」
「話にならない。上司をだせ」

こういったクレーマーは、執拗な電話で担当者を追い込んでくる。医療機関も行政も民間企業も、一部の者による心ない電話によって現場担当者を追い込まれているのが実態だ。電話越しの顔の見えないクレーマーにどう対処すれば良いのだろうか。

■時間と気力を奪う「とにかく終わらない電話」

相談事項として多いのが「クレーマーからの電話が終わらない」というものだ。悪質なクレーマーは、電話で一方的に自分の意見をまくし立て、電話を切らせてくれない。とくにカスハラの場合には、「わかるでしょ」といったように担当者に強い同調を求めてくる。

 屬客様が電話を切るまで待つ」は愚策

担当者としても明確に拒否もできないために、さらなる深みにはまってしまうことになる。人の話を聞くというのは、話すよりもエネルギーを奪う。新型コロナウイルスの影響で電話による問い合わせが殺到するなかでこれをされると本当に心が折れる。しかもクレーマーは、1日になんども気軽に電話をしてくる。

こういった事態になるのは「お客様の電話を切るのは失礼なこと。相手が電話を切るまで待っておかないといけない」という心理だ。どれほどひどいことを言われても「お客様だから」というだけでじっと付き合わないといけないというのはあまりにもつらい。

また電話の担当者は「電話でお客様を待たせることは良くないことだ」と考えている。クレーマーは、そういった心理を巧みに利用してくる。

■組織として電話を切るための統一ルールを作る

終わらない電話には、自分で電話を切るという割り切りが必要だ。さりとて多くの人は話している最中に一方的に電話を切るという経験はあまりないだろう。「電話を切る」というのも相当のストレスがかかる。

そこで用意しておくべきものが統一された対応ルールだ。

企業には、電話対応のマナーはあってもルールがない。これでは担当者によって対応が違うということ自体が、新たなクレームの火種になってしまう。会社としての一体感がある対応というのは、クレーマーに同じ対応をするということだ。そのためルールあるいはマニュアルといった類いのものを事前に策定しておくことが必要になる。

◆岼貎30分」も話を聞けばもう十分

とくに最初に決めておくべきなのが電話の時間だ。一人30分も話を聞けば、普通の内容であれば終わる。それよりかかるようであれば感情的に言われているだけの場合が多い。実際のところ「電話の切り方がわからない」という相談は多い。

そういうときには「御電話ありがとうございました。弊社では新型コロナウイルスの関係で多くの問い合わせをいただいております。そこでおひとりの電話を30分とさせていただいております。連絡をいただきました内容については改めて書面にてお伝えします」と回答するようにすればいい。

事前に「一人30分まで」と意思統一をしておくことが重要になる。

■クレーマーが多用する「身動きがとれなくなる」言葉

クレーマーは、担当者の思考を停止させるための言葉を多用する。例えば「説明責任を尽くしていない」「個人情報保護に反している」「誠意が足りない」といった言葉だ。いずれも言われた側としては、「なにかまずいことをしたかもしれない」とたじろいでしまう。

自分を疑いだして身動きがとれなくなる。これがクレーマーの狙いでもある。こういった典型的な強い言葉には会社としてどのように回答するべきか、事前に共通認識を持っておかなければならない。

「丁寧に説明すれば理解してもらえる」わけではない

説明と納得は根本的に違う。相手の話を理解しようとする姿勢がなければいかに懇切丁寧に説明をしても相手が納得することはない。悪質クレーマーは、そもそも自分の要求を実現することが目的であるため自分の求める回答がでてくるまで「説明責任を尽くしていない」と言い続ける。

「丁寧に説明すれば理解してもらえる」という担当者の期待は裏切られクレーマーの求めるままに対応することになりかねない。法的な意味での説明責任とは,説明するべきことを説明することに尽きる。それに対して相手が納得するかどうかは別の問題である。

きちんと説明をしたのであれば、「当社としては説明させていただくべきことは説明させていただいています。これをもってさらなる説明は実施しません。ご不満があればしかるべき手続をご検討ください」と言い放って終わらせるべきだ。

■正解のない電話への対処法

「なんだ、その対応は。誠意がない」「会社としての誠意を見せろ」と電話越しに平気で罵声を浴びせるクレーマーもいる。「あなたのその言い方こそ誠意がない」と思わず突っ込みたくもなるかもしれない。

「誠意がない」と言われるとまじめな人ほど「自分の対応に間違いがあったのではないか」と疑心暗鬼になるものだ。クレーマーは、こういった担当者が疑心暗鬼になって自信を失う状況を求めている。

クレーマー対応をしている人からは、「いったい相手が何を要求しているのかよくわからない」という相談を受けることが珍しくない。相手としては,意図的に要求内容をぼかしているときもある。

例えば具体的な金銭を要求すれば、恐喝と指摘されることもある。それが「誠意を見せろ」と言い続けて会社が金銭を支払えば「会社が勝手にやったこと」と言い逃れできる余地も生まれてくる。

「誠意」という抽象的な言葉を浴びせられ続けると、担当者としても「こうすれば矛を収めてくれるのだろうか」と想像して対応するようになる。そうやってクレーマーは、自分の要求内容を「担当者が自分の判断でやった」というカタチで実現させてくる。

こういったときには「誠意とは具体的にどのようなご要望でしょうか」とはっきり踏み込んだほうがいい。「それは自分で考えろ。わかるだろう」と反論されたら「わかりません。金銭的要求という理解でいいでしょうか」とさらに述べる。こうやって曖昧な相手の要求を固めていくといい。

■電話では手に負えない時の最終手段

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丁寧に説明をしてもなんども電話をし続けてくるクレーマーもいる。そのようなケースでは、電話でなくできるだけやりとりを書面で実施するようにする。将来的にトラブルになったときも書面があれば資料として利用することができる。

電話対応の難しいのは、「言った、言わない」の議論に陥ってしまうことだ。そういった不毛な議論にならないためにも書面でのやりとりに持ち込んだ方がいい。

「お客様の御意向はわかりました。大事な御意見ですので上司と協議のうえ正式な書面にて回答させていただきます」と説明して書面対応にもっていこう。「大切な方であるからこそ書面にて回答させていただきます」というテイストで話を進めると相手も拒否しにくい。

こういった書面をだすときには、必要最小限の回答だけするのがポイントである。懇切丁寧な文書をだすと、かえって揚げ足をとってくる者もいる。

また、書面でやりとりをすると大量の質問書を送りつけてくる者もいる。これに対してすべて回答していたら終わりがない。ある程度の説明をしたら「今後は回答の必要があると判断したときのみ回答します」と打ち切る姿勢も必要だ。

■あなたの電話対応で救われる人がいる

カスハラの行為にでる者は、ごく一部の者でしかない。ほとんどの方は良識ある行動を取っている。問題は、ごく一部の悪質な者により現場全体が疲弊してしまうことだ。クレーマーの電話に忙殺されて身動きが取れなくなり、他の方へのサービスの劣化にもつながってしまう。

現場担当者の士気は低下し、電話によるカスハラ被害に悩み、耐えきれずに「退職したい」と申し出てくるときもある。こういうときに経営者が「そこをなんとか」と言ってもなかなか収まらない。経営者や現場の責任者は、電話応対する仲間を守る責務がある。

「電話が怖い」という人もいる。同時にあなたの電話で救われる人もいるはずだ。カスハラ被害で疲弊しないための参考にしていただきたい。

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島田 直行(しまだ・なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)がある。
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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)