「この子、俺に気があるんじゃ…?」

男は何故すぐに、そう思い込んでしまうのだろうか。

周囲を見渡して見ても、やはり女性より男性の方が“脈あり”を客観的に判断できない傾向にあるように思う。

今この瞬間も、男たちの一方的な勘違いにより被害にあうアラサー女子は後を絶たない。

この連載ではそんな彼女たちの嘆きをまとめ、“勘違い”の原因と対策を探っていく。




【今週の勘違い報告】

名前:村上静香(仮名)
年齢:26歳
職業:フードコーディネーター(兼インスタグラマー)


勘違い報告vol.1:「最初から“その気”なんかあるわけないじゃないですか」


「ほんと、最悪ですよ…」

今回の報告者・村上静香は、そう言って深々とため息を吐いた。

丸の内仲通りの『ル・ブール・ノワゼット』

帰宅途中のビジネスマンが足早に通り過ぎる中、日没間近のテラス席に佇む静香は、黒のタンクニットに細身のデニム姿。カジュアルな装いだが、ボディラインが強調されヘルシーな色気がある。

オフだったのかと尋ねると、NOと答えた。フードコーディネーターを名乗る彼女はこの日、某代理店の担当者と打ち合わせを終えてここにやってきたという。

「CMや広告ビジュアル用に、見栄えのする、センスのいいお料理を用意するのが私の仕事です。クライアントは食品メーカーだったり、あるいはアパレルだったり様々ですが、代理店の担当者から仕事を回してもらうことが多いですね」

なるほど。フードコーディネーターとは?と疑問に思っていたが、そういう仕事だったのか。説明を受けて納得していると、静香は再び小さくため息を吐き、先を続けた。

「だから、広告代理店の人とはできる限り良い関係を築いておきたいんです。もちろんビジネスパートナーとして、ですよ?」

「ビジネスパートナー」という言葉を、静香は特に強調した。そして眉間に深々としわを寄せると、呆れた表情で首を振った。

「それなのに…男の人って、どうして無駄に下心出してくるわけ?」


静香を辟易とさせた、高級鮨屋で起きた惨劇とは


「林田さんと出会ったのは半年前。いわゆるお食事会です。年齢は確か36歳で独身だったけど…私は最初から、まったく好みじゃなかったんです」

そのお食事会には林田を含め3人の男性がいたらしいが、静香は初見で「あ、今回はハズレ」と諦めたという。

「なんだか上から目線でごめんなさい。でも好みってものがあるから仕方ないですよね。私、ギラついている男の人って無理なんです。林田さんを含めて、全員がそういう感じの人だったから。でもたまたま隣になった林田さんが広告代理店勤めだというので…私、モードを切り替えることにしたんです」

モードを切り替える…?どういう意味かと思案をしていると、静香は「つまり…」と補足をしてくれた。

「男としては興味ないけど、仕事相手としては俄然興味アリなわけです。名刺を渡し、自分の仕事のことを思いっきりアピールしました。林田さんも熱心に話を聞いてくれ、何かあれば声をかけさせてもらうよ、と言ってくれて」

手応えを感じた静香はその日、「収穫があった」と喜んで帰宅したという。




「その数日後、林田さんから食事に誘われたんです。なかなか予約が取れないことで知られる神楽坂の高級料亭。ちょうど予定のない日だったし、そんな機会なかなかないしと思って即レスでOKしました」

静香は最初から、林田に男としての興味を持っていなかった。そんな中二人きりで、しかも高級料亭に誘われたことを彼女はどのように受け取ったのだろうか。

「そうですね…どういうつもりなんだろ?と考えはしました。でも私、食事会の席でも女を見せるような態度は一切とってませんし。林田さんとの会話、ほぼ仕事の話でしたしね。だから私が彼にノー興味であることは伝わっているはず。その上で誘ってくれるなんて有難いなぁ、と…」

自分では到底足を踏み入れられない高級料亭に連れて行ってもらえる。しかも、ご馳走してもらえるなんてラッキー。

それ以上のことは深く考えず、静香はウキウキと林田との約束に出かけた。

「紳士的にエスコートしてくれ、当然ながら食事も美味しい。林田さんって話題も豊富だし、楽しい時間だったんですよ…途中までは」

静香は華奢な両腕をテーブルに乗せ、ふぅと息を吐いて頬杖をつく。そして苦々しい顔つきで話を続けた。

「お酒が入っているっていうのもあると思うんですけど…時間が経つにつれ、会話がどんどん変な方向になっていって。静香ちゃんってどういう人が好みなの?から始まって、私はドン引きしてるのにも関わらず、やたら生々しい話を聞いてくるんです。例えば…最近キスしたのいつ?とか」

当然、静香は明らかな拒絶を示した。「そういう話はちょっと」とか「別の話しません?」などと言ってはっきりと伝えた。

するとそのうちに林田も諦めたらしく、今度はわざとらしいほどに仕事の話にシフトしたという。

「ああよかった。“その気”はないって、やっと伝わったんだと思いました。だから私も安心して、つい言っちゃったんですよ。別れ際に、社交辞令で…」


つい、口から出てしまった社交辞令。それがさらなる惨劇を招くこととなる…


「今日はありがとうございました。良かったらまた、誘ってくださいね♡」

そもそも静香にとって林田は、仕事を振ってもらえるかもしれない相手。気に入られておきたいという打算は当然ある。

社交辞令を言ったのは、男女としてではなく、人として良い付き合いをしたかったからだ。

ところが静香のお愛想を、林田は完全に勘違いしたらしい。

「神楽坂の料亭からおよそ1ヶ月が経った頃です。林田さんからまた誘いのLINEが届いて…しかも今度は、金沢の高級鮨屋の予約を取ったから一緒に行かないかって」

金沢まではちょっと…と言って、静香は最初やんわり断ったと言う。

しかしもちろん日帰りだし、新幹線のチケットも僕がとるから、となおもプッシュする林田。

この時点で、さすがの静香も不穏な空気を感じ取ってはいた。だが前回食事をした際、林田は「もうすぐ某大手食品メーカーの新商品プロモーションが始まる」などと話していたのだ。

−もしかしたら、仕事に繋がる話があるかも...。

「NO」と動かしかけた口を慌てて閉じる。邪険な態度をとり、林田の機嫌を損なわせるのは得策ではない。

悩んだ末、静香は「日帰りなら…」と強調した上で渋々誘いに応じたのだった。


高級鮨屋での大惨事


「日帰り金沢も、途中までは楽しかったんです。林田さんってさすが広告マンって感じで普通にしている時の話はすごく面白いの。仕事のアドバイスなんかもくれたりするし。だから私もつい気を許して、軽いボディタッチくらいはしたかもしれない。でも、それだけです。何度も言うけど、女を見せたつもりは全くないんです」

ところがこの日も、高級鮨屋のカウンターに並んで座り、いい感じにお酒が入ったところで、再び林田の猛攻が始まってしまった。

「私にとって、自分がいかに役に立つ男かを延々語られましたね(笑)鬱陶しいけど、いちいち否定するのも疲れるし、何を言われても適当に流しておこうと決めていたんですけど…」

ところがうんざりしている静香の様子にまるで気づかぬ林田が、ついにどうしても聞き流せないセリフを吐いたのだ。

「ねぇ静香ちゃん。今夜俺に抱かれてもいいって、何パーセントぐらい思ってる?」

−…は?

勘違い甚だしい林田のセリフに、静香が絶句したのは言うまでもない。

「いや、もうさすがの私もイラっとしてしまって。つい本音をそのまま口にしてしまったんですよね…」

無表情のまま、静香は低い声でこう答えたと言う。

「え…0%です。最初からそういうつもりは一切ないので」

すると林田の表情は一変。みるみる顔を赤くして、怒りのあまりワナワナと肩を震わせる始末。

−しまった、言いすぎた。

すぐに後悔した静香だったが、時すでに遅し。

その場の空気は凍りつき、せっかくの高級鮨だというのに、もはやその味も雰囲気も楽しむことなどできる状態ではなくなってしまった。

そして何より、仕事に繋がったかもしれないせっかくの縁まで失う羽目になったのだ。林田さえ勘違いをしなければ、こんなことにはならなかったのに。

「本当、災難と言うしかないです。だって私の方は一切、勘違いさせるような言動なんてしていないもの。そうですよね?私は悪くないですよね?」

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