画像/SUUMOジャーナル編集部

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わが国の空き家数はもうすぐ1000万戸に迫ろうとしている。7軒に1軒は空き家だ。しかし、日本では欧米に比べて、中古住宅の取引は低い水準にある(2013年国土交通省「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」)。その理由は、親世代の家の間取りに理由があるという。埼玉県で、行政の立場から空き家問題に取り組むお二人にお話を聞いた。

時代を代表する4つのアニメ、その間取りから浮かび上がるのは……?

親世代の生活や住宅スタイル、ひいては「間取り」がその子世代の暮らし方にはマッチしない!? そんな問題提起をしたのは、埼玉県鴻巣市 都市整備部副部長(埼玉県から派遣)の高橋英樹さんと、埼玉県庁 都市整備部 建築安全課企画担当主幹の小松克枝さんだ。日本人の生活スタイルと住宅の間取りについて、人気アニメに登場する住宅、磯野家(サザエさん)とさくら家(ちびまる子ちゃん)、野原家(クレヨンしんちゃん)、天野家(妖怪ウォッチ)の4つを比較し、その変遷を分析している。

着目したキーワードは次の2つだ。

◎家族構成(多世代同居・核家族)
◎家族のコミュニケーション空間の割合(居間・リビング)

いったいどういうことなのか。さっそく4つのアニメの間取りを見てみよう。

[1]サザエさん:磯野家の間取り
原作の4コマ漫画は、昭和20年代に新聞連載としてスタートしている。磯野家の家族構成等の設定は戦前のモノであったが、1969年(昭和44年)のアニメ化の際に時代設定等がいったん整理された。このため「昭和40年代」の設定と言える。

特徴
設定:昭和40年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的

【画像1】サザエさん:磯野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[2]ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り
作者の子ども時代の設定で、昭和40年代後半から50年代前半をベースにしている。

特徴
設定:昭和40〜50年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的

【画像2】ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[3]クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(1階)
漫画の連載は1990年(平成2年)で、1992年(平成4年)にアニメ化されている。

特徴
設定:平成初期
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間

【画像3】クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[4]妖怪ウォッチ:天野ケータくんの家
2012年(平成24年)に漫画での連載がスタートし、2014年(平成26年)にテレビアニメがスタート。平成20年代を代表する大ヒットアニメ。

特徴
設定:平成20年代
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間

【画像4】妖怪ウォッチ:天野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

ここまで、日本を代表する4つのテレビアニメから間取りの変遷を見てもらった。
高橋さんは「ここから読み取れるのは、核家族化の進展と生活スタイルの欧米化です」と分析する。
「平成に入ったころから祖父母世代用の部屋と来客用の空間がなくなりました。平成20年代になると和室も消え、1階空間のほぼ全てが家族のコミュニケーション空間になりました」(同)

確かに、筆者が最近目にする新築住宅の広告でも、システムキッチンや床暖房はすでに定番アイテムとなり、10年ほど前には目新しかった「リビングイン階段」や「メザニン(中2階)」なども一般的になった。和室はノスタルジー空間となり、来客用の空間は親子間を含む家族間のコミュニケーションのための空間に吸収されていった。

高橋さんはその結果として、リビング空間が広がり、現在の住宅では家族のコミュニケーション、とりわけ「親と子がどうかかわるか」が、家の間取りにも影響しているのではないかと考えている。

”今どきの間取り”の中古住宅も増える?

高橋さん自身、10年前に熊谷市の実家を受け継ぐ際に、すでに築40年ほどたっていた親の家を取り壊して新築した。

当時、妻と子ども1人(現在は2人)と暮らしていた高橋さんは
「ユニットバス、システムキッチン、床暖房、これら3つの要素が僕らの世代が家に求めるものだと思います。
設備が古いうえに、親が建てた家は“ちびまる子ちゃん”の家のような中廊下型で、自分の家族の暮らしには向かないと感じました。実家では、家族5人が6畳の居間で窮屈にテレビを見たり食事をしたりしていましたが、廊下をはさんだ二間続きの和室はほとんど使われていませんでした(笑)」
と打ち明ける。

一方、小松さんは「私は、10年ほど前、実家の近くに中古住宅を買ってリフォームして暮らしています」と言う。

「私の家族は夫と子ども2人ですが、1990年代後半に建てられた住宅で“クレヨンしんちゃん”の家のような、リビング・ダイニング&キッチンで家族団らんできるタイプだったことと、耐震性が高かったことが理由として大きいでしょう。
同規模の新築物件より安価なこともお得感がありました。私は仕事柄、スクラップ&ビルドではなく、躯体さえしっかりしていれば既存の建物を再活用したいという思いもありました。実は、高橋さんの言う住宅に求める3つの要素(ユニットバス、システムキッチン、床暖房)は無かったのですが、おいおいリフォームしていこうと思っていたので気になりませんでした。入居前に内装を、入居後に洗面・ユニットバス、外構と、数年ごとにじっくり、自分好みにリフォームして楽しんでいます」

そんな小松さんに対し高橋さんは
「抵抗感がなくリフォームを選択できる人って、まだあまり多くないのではないでしょうか。私の実家のように築40年以上の住宅の場合、リフォーム後の姿をイメージすることは難しい。みんながみんな建築の知識をもっているわけではありません。10年前の私もそれができませんでした。今から考えると少し残念な気もします」
と話す。

高橋さん、小松さんともに、埼玉県におけるこれからの住宅のあり方、そして空き家問題に行政の立場から対策に取り組んでいく立場にある。
小松さんは「自治体が目指す方向性や、住まい手の住宅の選び方はいまだ新築志向という現実と、空き家の数を抑えたいという目標とのギャップに戸惑うこともあります」と打ち明けてくれた。

埼玉県は、1970年から2010年までの40年間で、人口は約2倍に増加した。しかし、日本全体の少子高齢化は埼玉県でも例外ではなく、これから人口減少が始まると予想されている。

小松さんは「これからは、平成以降に建てられた、リビング・ダイニング&キッチンが一体となった今どきの家族にも通用する間取りの中古住宅が多くでてきます。今の生活スタイルに適したこうした中古住宅を購入する人も増えてくるでしょう」として

「中古住宅を次の利用者に受け継いでいくためには、その地域で活躍する建築士さんや不動産屋さんの役割が非常に大きいと感じています。多くの人が『買いたい、住みたい』と思えるすてきな住まい方を提案してもらいたい。そのことが、誰も住まない空き家を少なくすることにもつながります」と、その思いを語ってくれた。

●取材協力
・埼玉県都市整備部建築安全課
(村島正彦)