西ロンドン・イーリングのパラダイス・フィールズに生息するビーバー/James Stacey/CNN

西ロンドン・イーリング(CNN)その場所はマクドナルドとショッピングモールから数百メートルの距離にあり、交通量が多く汚れた道に挟まれている。そんな都会に緑豊かな湿地が希少な毛むくじゃらの住民によって作られている。その住民とは「ビーバー」だ。

西ロンドンの自治区イーリングのこの一角ではかつて豪雨のたびに洪水が発生し、通りや近隣のグリーンフォード地下鉄駅が冠水していた。

問題を緩和するため、地元当局は重機やコンクリートを使って人工貯水池を造成する従来型の工事を検討していたが、地元の自然保護活動家らが別のアイデアを思いついた。ビーバーを呼び戻すという発想だ。

2023年、野生のビーバーの家族5匹をイーリングにあるパラダイス・フィールズと呼ばれる約9万7000平方メートルの土地に移した。すると同地はこの数年で一変した。

気候変動が嵐などの異常気象を加速させる中、再野生化計画が一つの解決策として浮上している。動物の能力を活用して、より回復力のある地形を作り出すのだ。ただしその取り組みは慎重に行わなければならないと専門家らは警鐘を鳴らす。

ビーバーという技術者

英国では野生のビーバーは400年ほど前に絶滅した。毛皮や肉、さらには食品の香料や香水として重宝された臭腺の分泌物を求めて人間が狩猟したことが原因だ。

しかし近年、同国ではビーバーを元の生息地に戻す取り組みに注目が集まり始めている。ビーバーの歯は、鉄分で補強されているために鮮やかなオレンジ色をしており、この強い歯によって枝や木を削ることができる。ビーバーは樹皮を食べ、その木材を使ってダムを作り、天然の貯水池を生み出す。

こうした水たまりは、半水生のビーバーにとって捕食者からの避難場所になり、人間にとっては天然の洪水対策になる。ビーバーの工事は地形をスポンジのように変え、雨のときに保持できる水量を増やし、下流に流れこむ水を抑えることにつながるのだ。

ビーバーは水路も掘る。これらは「ビーバーの池から谷底全体で水脈のように外側へと放射状に広がる、微小な小川のようなものだ」。ミネソタ大学のエミリー・フェアファックス助教(地理学)はそう語る。この水路が洪水の水を広範囲に分散させることで、洪水被害を大幅に軽減するという。同氏はこの西ロンドンのプロジェクトに関わっていない。

ビーバーはその他の異常気象への保護対策も提供してくれる。ビーバーが作る湿地の水は周囲の乾いた地域に浸透するため干ばつの際にも役立つ。さらに、土地に十分な湿り気があって燃えないため、山火事対策にもなるという。

これまでのところ、ロンドンでの取り組みは成功している。ビーバーが同地で2度目の冬を迎える時点で対象地域では10年ぶりに洪水が起きなかったと、今回のビーバー・プロジェクトを率いる獣医師のショーン・マコーマック氏は語った。

ビーバーの作業は、鳥やチョウ、コウモリ、さらには淡水のエビや魚などが集まる多様な生態系も生み出した。

ビーバーの再野生化プロジェクトは、米国でも西部をはじめとして各地に広がりつつある。

しかしビーバーをどこにでも放すことはできないと、フェアファックス氏は指摘する。ビーバーが湿地の住まいを作るには、十分な食料、水、空間が必要だ。その場所の周辺にいる人間には動物を受容する姿勢が求められるほか、地域社会はビーバーの工事する場所が人間のインフラに近寄りすぎた場合に備えた対応策も練っておく必要がある。