会場入りしたトランプ米大統領を出迎えるマクロン仏大統領(AFP=時事)

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 北中米3ヵ国を舞台にサッカーW杯が盛り上がりを見せるなか、フランス・エビアンでは世界経済やイラン情勢、ウクライナ情勢などを話し合うG7サミットが開幕した。この会議で国際政治学者の舛添要一氏が注目するのは、サミット直前にイランとの「和平案」に合意し会場入りしたアメリカ・トランプ大統領の動向だ。イラン攻撃をきっかけに米欧の対立が深刻化したが、それは「サミットの機能不全を引き起こしかねない」という。舛添氏が解説する。

【写真】メローニ、スターマーほかトランプ米大統領との対立や不和を辞さない欧州首脳ら

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 6月15〜17日、フランスのエビアンで主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。高市首相にとっては、初のサミットであるが、他の先進民主主義国とは波長の合わないトランプ大統領がどのように振る舞うかが注目の的である。世界の平和と繁栄のために、サミットはこれからも機能し続けるのであろうか。

サミットの始まりは「国連の機能不全」がきっかけ

 第二次世界大戦後は、アメリカを主軸とする国際秩序が形成された。しかし、1960年代にベトナム戦争でアメリカの財政が悪化すると、1971年にニクソン大統領はドルと金の兌換を停止し、変動相場制への移行を決めた。さらに1973年には石油危機が起こり、世界経済は大きな打撃を受けた。

 この状況に対応するため、フランスのジスカールデスタン大統領が提唱して、第1回サミットが、1975年11月15日にフランスのランブイエで開催された。フランス、西ドイツ、イギリス、アメリカ、日本の5ヵ国が参加した(G5)。イタリアは、この会議に飛び入りで出席した。

 当時、私はフランスで研究生活を送っていたが、ジスカールデスタン大統領が、経済復興を遂げた日本を参加させるべきだと力説していたのをよく覚えている。

 当時は米ソ対立という冷戦構造が続いており、西側の結束が重要であった。国際連合は存在したが、英米仏中ソ連という安全保障理事会の常任理事国が拒否権を持つ体制では、両陣営の対立を超えることは容易でなかった。しかも、国際連合は、そもそも「戦勝国のクラブ」であり、日本、ドイツ、イタリアは「旧敵国」として差別的な扱いを受けていた。

 しかし、日伊西独は驚異的な戦後復興を遂げ、高度経済成長を謳歌した。安全保障の面では、核兵器の保有を禁止され、アメリカに従属する同盟国としての役割を果たすことになった。西側の軍事組織、北大西洋条約機構(NATO)と、ソ連を盟主とする東側のワルシャワ機構軍とが対峙した。

 このような東西冷戦を反映した国連の機能不全は、地域紛争などの国際社会の諸問題の解決を困難にした。

「東西対立」を乗り越えてきた欧州統合の歩み

 ヨーロッパでは、二度と欧州から戦争を起こさないという決意から、統合への努力が続けられた。フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6ヵ国が、1951年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)、1958年に欧州経済共同体(EEC)、欧州原子力共同体(Euratom)を設立した。その後も欧州グループは拡大を続け、1993年11月1日、マーストリヒト条約に基づいて欧州連合(EU)が誕生した。

 その結果、日本と同じ敗戦国であっても、西ドイツとイタリアは、ヨーロッパという枠組みの中で、発言権を増していく。今日、トランプ政権の暴走に対して、ヨーロッパは結束して異を唱えているが、その背景には戦後の欧州統合への努力があるといえる。

 EUは、6次にわたって拡大していった。ECSC加盟国に、【1】1973年にイギリス、デンマーク、アイルランドが、【2】1981年にギリシャが、【3】1986年にスペイン、ポルトガルが加盟した。

 EU誕生後は【4】1995年にオーストリア、スウェーデン、フィンランドが、【5】2004〜2007年には東欧圏を中心に12ヵ国(2004年にポーランド、チェコ、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロベニア、スロバキア、マルタ、キプロス、2007年にブルガリア、ルーマニア)が加盟し、【6】2013年にはクロアチアが加盟した。しかし、2020年にイギリスが離脱し、現在の加盟国は27ヵ国である。

 イギリスでは、今では国民の過半数が、Brexit(イギリスのEU離脱)は間違いだったと判断している。

サミット前に深刻化した「米欧対立」

 カナダのカナナスキスで行われた昨年のサミットでは、初日の日程を終えると、トランプ大統領は突然帰国した。中東情勢に対応するためという理由であった。

 それだけに、今年のサミット主催国のフランスは、そのような事態を避けるために、6月14日に予定された日程を変更した。それは、その日がトランプ大統領の80歳の誕生日であり、ホワイトハウスで格闘技イベントが開催されるからである。

 トランプ大統領との欧州首脳との間では、様々な対立と不和がある。

 例えば、アメリカのイラン攻撃については、欧州側は国際法違反という認識であり、スターマー英首相は、インド洋の英軍基地を米軍が使用するのを拒否した。また、メルツ独首相は、停戦交渉に関してアメリカが明確な戦略を持っていないと批判したのに対して、アメリカは駐独米軍の削減を発表した。

 さらに、トランプ大統領がグリーンランドを領有したいと述べたのに対して、欧州側は批判した。これに怒ったトランプは、欧州8ヵ国に追加関税を課すと脅した。

 また、イラン戦争に批判的なローマ教皇をトランプ大統領が批判したが、メローニ伊首相はそれを厳しく批判している。

 このような状況で、エビアンでのサミットが十分な成果を上げることは期待できないのではないか。

「力による支配」が示すパックス・アメリカーナの終焉

 以上のように、国際連合にもG7サミットにも、世界の平和と繁栄を維持するための役割を果たすことが期待できないとすれば、誰に、そしてどの組織に頼ればよいのであろうか。

 2008年にリーマン・ショックが起こり、世界経済が混乱するが、G7のみの調整では解決不可能であることが認識され、発展途上国とEUを加えたG20が発足した。

 参加国は、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)、日本、中国、韓国、インド、インドネシア、オーストラリア、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、サウジアラビア、トルコ、南アフリカ、アフリカ連合(AU)である。

 しかし、G20が国際社会の諸問題すべてに的確に対応できるわけではない。

 2022年2月には、ロシア軍がウクライナに侵攻し、今も戦争が続いている。また、2023年10月のハマスによるイスラエル奇襲攻撃に対して、イスラエル軍が報復攻撃を行い、ガザを壊滅させた。そして、今年の2月28日に始まったイスラエル軍と米軍によるイラン攻撃、それに伴う戦争は継続している。

「法の支配」ではなく、「力による支配」が世界を席巻している。逆説的に言えば、アメリカ1ヵ国が世界の平和と繁栄に責任を持つパックス・アメリカーナが終わったのであり、アメリカも実際に軍事力を行使しなければ国際秩序の維持ができなくなっているのである。

 軍事的には、核兵器の保有数を見ても、アメリカとロシアが対立する図式である。そして、お互いの同盟国・友好国を巻き込んで、米ソ冷戦的な状況を作り出している。そして、最近では中国の台頭が目覚ましい。経済的には、GDPでアメリカに次ぐ第2位であり、軍事的にも急速に勢力を拡大している。この状況をG2と呼ぶ。

 力が支配するこのような事態は、第3次世界大戦前夜と呼んでもよい。2次にわたる世界大戦を経験した人類は、そこから何も学ばないのであろうか。

【プロフィール】
舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971 年東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。 2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。