(※写真はイメージです/PIXTA)

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子どものためにできる限りのことをしてあげたい。親ならばそう思うのは自然なことでしょう。しかし、そのラインは曖昧であり、周囲との比較や将来への不安、思い込みなどから、少しずつ引き上げられていきます。その結果、並行して備えるべき老後資金が後回しになってしまうのです。

「俺だってカツカツ」東大卒・一流企業に勤める息子からの非情な宣告

「少しでいいんだ。援助してもらえないだろうか……」

タケシさん(仮名・72歳)は、いいづらそうに切り出しました。出張ついでに久しぶりに帰省した一人息子のユウキさん(仮名・35歳)は、その言葉を聞いて少し表情を曇らせました。

「急にどうしたの?」
「年金だけだと、やっぱり厳しくてなぁ。貯金も減ってきているし」

「ごめん。気持ちはわかるけど、正直、うちも余裕ないよ」
「でも、お前は東大を卒業して一流の会社で働いている。ちゃんと稼いでいるだろう?」

「そんなこといわれても、住宅ローンもあるし、これからは教育費もかかる。東京で暮らしていくのは大変なんだよ。俺だってカツカツだよ」
「そうか……、あんなにお金をかけたんだけどな……」

タケシさんは、妻のミチコさん(仮名・70歳)と北関東にある地方都市に暮らしています。現役時代の世帯年収は約480万円でした。

夫婦は、結婚してからなかなか子宝に恵まれず、ようやく生まれたのがユウキさんでした。

タケシさんは家の事情で大学に進学することが叶わず、高卒ゆえに職場で苦労してきたと感じていました。そのため、「息子には、なんとしてでも高学歴を」と望んでいました。

当時、夫婦の手取りは月に約33万円。将来の進学費用として月5万円を積み立てており、残りの金額で生活していました。住宅ローンの返済などもあり、貯金に回す余裕はありませんでした。

タケシさんもお小遣いを切り詰め、家族でレジャー施設や旅行に行くこともほとんどありませんでした。

そんななか、ユウキさんはタケシさんの期待によく応えてくれました。地元で一番の公立高校から一浪の末、東京大学へ進学。タケシさんにとって、それまでの努力が報われた最高の瞬間でした。

教育費に“全振り”した結果…60歳で直面した「老後資金が貯められない」現実

独立行政法人日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査(※1)によれば、大学学部(昼間部)に通う場合の1年間の学生生活費は、国立大学に自宅から通う場合、平均で120万2,600円です。しかし、自宅以外(下宿・アパート・その他)から通う場合は、180万700円であることがわかります。

学生生活費とは、学費と生活費(食費、住居・光熱費、保健衛生費、娯楽・し好費、通信費・その他の日常費)の合計額を指します。タケシさんが長年積み立てた金額から、予備校代や参考書代などを差し引き、大学進学時に用意できた教育費は約700万円でしたが、学費と仕送りはそれ以上にかかりました。

そして、ユウキさんは東京大学を卒業し、誰もが羨む大企業に就職。

ようやく肩の荷が下りたように感じたタケシさんは、ふと我に返りました。ユウキさんが就職したとき、タケシさんはすでに60歳。定年退職後は同じ会社で再雇用として働いていましたが、年収は大幅に下がりました。

退職金は住宅ローンの返済に消え、仕送りが不要になっても、貯金まで手が回らないまま年金生活を迎えることになってしまったのです。

夫婦の現在の収入は、月約20万円の年金のみです。貯金は約300万円。なるべく貯金には手をつけないように、爪に火を点すような生活をしています。

総務省の「2025年(令和7年)家計調査報告」(※2)によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における消費支出は、平均で約26万4,000円となっています。夫婦がいかに節約しながら過ごしているかがうかがえます。

【CFPが解説】「上限を決めない教育費」が引き起こす老後破産の危機

夫婦の問題点は、本来並行して準備すべき老後資金を後回しにして、教育費に全振りしてしまったことです。教育費は子どもの選択肢を広げるための支出ですが、将来回収できる投資ではありません。

では、どうすればよかったのでしょうか。

教育費を積み立てること自体は大切なことですが、その金額については、積み立てられるだけ積み立てるのではなく、「ここまで」と上限を決めることが必要です。そして、併せて老後資金についても、配分を決めて準備していくのがよいでしょう。

しかし預貯金だけだと、インフレによって実質的な価値が目減りするリスクからは逃れられません。新NISAのつみたて投資枠を利用すれば、非課税メリットを活かしながら効率的に資産を増やすことも可能です。ただし、いざ教育費が必要なタイミングで相場が急落する可能性もあるので、注意が必要です。預貯金とのバランスを取りましょう。

それでも、教育費が足りない状況があるかもしれません。そのときは、「奨学金制度を検討する」「寮に入る」「本人もアルバイトをする」といった方法が考えられるので、親子で話し合うことが大切でしょう。

教育費と老後資金は「どちらか」ではなく「同時に設計するもの」

親が子どもに学歴を身につけさせたいと思うのは自然なことですが、自分たちの老後が立ち行かなくなってしまっては元も子もありません。

子世帯にも、住宅費用や次世代の教育費がかかります。優秀な子どもが親の面倒を見るような時代ではないのです。

教育費と老後資金は「どちらか」ではなく「同時に設計するもの」です。子どもの未来と自分たちの老後、どちらも守るために家計の配分を考えましょう。

石川 亜希子
CFP