『高校デビュー』河原和音、初の絵本に込めた思い「“自分では気づかない長所”を、キャラクターを通して伝えられたら」『おにぎりを おかあさんに』【河原和音インタビュー】

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『高校デビュー』などで知られる人気漫画家・河原和音さんが絵を、「くまのがっこう」シリーズなどを手掛けたあいはらひろゆきさんがおはなしを担当した、絵本『おにぎりを おかあさんに』(KADOKAWA)が6月10日に発売された。本書は母ひとり子ひとりで暮らすそうたくんが、忙しく働くお母さんのためにおにぎりを作って届けようとするストーリー。お母さんを思うそうたくんの気持ちに心が温まる物語だ。河原さんにとっては初めて、そしてあいはらさんにとっては遺作となった本作(あいはらさんは2022年に永眠)。自身も小さい頃から絵本が好きだったという河原さんに、漫画とは違う絵本の絵をつけることの難しさと楽しさ、自身の漫画への想いなどを伺った。
――絵本の絵を描くのは、河原先生にとって初めてのお仕事ですよね。
河原和音(以下、河原) そうですね。私はもともと、あまり自分の絵に自信がないんです。今回はあいはら(ひろゆき)先生が「ぜひ河原さんの絵で」と声をかけてくださったので、「それだったらやってみよう」と思いました。「『青空エール』あたりの絵がいい」と具体的に言ってくださったのも印象深くて。自分ではわからない私の絵の良さを見つけてくださったのだと思うと、すごくありがたかったです。
――あいはら先生とは、どのようなやり取りをされたのでしょうか?
河原 テキストで物語をいただきました。絵の指定は一切なくて、構図から私が自由に考えられる形になっていました。
ただ、私が本格的に取り組み始めた頃には、すでにあいはら先生はお亡くなりになっていて。本当だったら、キャラクターも何パターンか描いたので先生にお見せして「どの子が良いですか?」とご相談したかったですし、主人公・そうたくんについてどんなイメージを持っていらっしゃったのかも伺いたかったな……と思います。
■河原作品に出てくる「こういう人になりたい」キャラはどうつくられるのか

――お話を読んで、どんなところからイメージを膨らませていきましたか?
河原 まずはそうたくんのことからですね。どんな子で、どんなふうに暮らしていて、お部屋には何があって……というところから広がっていきました。「そうたくんが歩く道はどんな道なのかな」とか、ひとつひとつ想像していくのが楽しかったです。
――主人公の周りから想像するというのは、漫画制作の時とは違いますか?
河原 漫画もいろいろな作り方がありますが、私はやっぱり人物から考えることが多いですね。キャラクターがしっかり決まると、その子の目的や周囲の人たちなどもどんどん固まってくる。それが一番求心力の高い作品になると思っています。
――河原先生の作品は、「こういう人になりたい」と思える素敵なキャラクターが多いところも魅力だと思います。キャラクターを描く上で大切にしていることはありますか?
河原 周囲への愛情や感謝を持つことですね。私自身、たくさんの人に支えられて生きているので。それと、自分のいいところに気づいていない人って結構多いと思うんです。こちらがしてもらって嬉しかったことを伝えても、「そんなの当たり前だと思ってた」と返されることってありますよね。そういう“自分では気づかない長所”を、キャラクターを通して伝えられたらと思っています。
私は、自分の周りで一生懸命頑張っている人たちが好きなんです。そんな人たちに寄り添って歩いていけたら、「楽しい」と思ってもらえたら、というのが作品を描く原動力のひとつです。

――先生の作品は、どれも心が浄化されるというか、「私も頑張ろう」と思える作品が多いと私は感じています。それは今おっしゃったような人の素敵なところが描かれているし、先生の愛情深さがキャラクターに表れているからなのかなと、お話を聞いて改めて感じました。
河原 私が描いているものに「いいな」と思うということは、その人の中にも同じように優しい部分があるからだと思います。生きていると疲れて優しい部分を忘れてしまうこともあるけど、そんな時に漫画を読んで「こんな気持ち、自分の中にもあったな」と思い出してもらえたら嬉しいですね。とは言っても、描いている最中はそんな高尚なこと考えているわけではないのですが(笑)。
■絵本を描くために「道路の電柱の立ち方」や「スーパーの陳列」を研究
――漫画と絵本では描き方も違うと思うのですが、難しかったところはありますか?
河原 ありました。漫画はデフォルメしたり、あえて描かない部分もあります。掲載誌によってカラーも違うのですが、たくさん担当さんに直されて、だいぶ鍛えられてはきています。今でも直されますけど。絵本はまた1からなので、まったくわからなくて。例えば「ここの指が4本に見えるので、正確に描いてください」という修正があって。絵本は子どもが読むものなので、はっきりわかりやすく描いた方がいいんだなと。ひとつひとつの修正が「こういうところに気を使って描いていくんだな」と勉強になりました。
――子どもって気に入った絵本を何十回も読んだりしますよね。そして何十回目かに「ここにこれが描いてあるね」と言ったりして。
河原 そうなんですよ! 私自身も好きな本は何度も細部まで読む子どもだったので、「その目に耐えられる絵にしなければ」という気持ちで描きました。そのために資料を探したり、実際に見に行ったり、とにかく時間がかかりましたね。
――実際に見に行かれたものというのは?
河原 道路の電柱の立ち方や、スーパーの陳列などです。車も実際に見に行って、歩道橋の上から写真を撮ったりもしました。普段何気なく見ているものでも、改めて見ると「こういう形になっているんだ」という発見があって楽しかったです。

――おにぎりを握るシーンも印象的でした。ふりかけが一箇所に集中しているところも子どもが握ったおにぎりあるあるだなぁと。
河原 私は昔から大事な部分は「愛とこだわりでカバーする」というところがあって。たまたまですが、私おにぎりが本当に好きなんですよ。

■河原先生の作品とともに青春を過ごした世代が今、母に
――河原先生は絵本をよく読まれるんですか?
河原 よく読みます。特に、いわさきちひろさんの絵が好きです。かこさとしさんも。『おしゃべりなたまごやき』や、『もぐらとずぼん』もお気に入りです。誰かが作ってくださった手書きのかっぱの絵本が家にあって、それも大好きでした。いつも外が真っ暗になるまで絵本を読んでいましたし、高校生くらいからはバイト代で「ねずみくんのチョッキ」シリーズなどを買っていました。今も自分のために絵本を買うのですが、最近のお気に入りは「パンどろぼう」シリーズです。
――お子さんに読み聞かせされたりもしていましたか?
河原 かなりしていた方だと思います。本屋さんや図書館に行くのがまったく負担にならないタイプなので、時間があれば子どもと図書館に行って、上限いっぱいまで本を借りていました。その中で好きな作家さんが見つかって、「今度はこの作家さんの絵本を買ってみよう」と。そこで絵本の世界がすごく広がりましたね。
――その経験が今回の作品に活きていると思いますか?
河原 思います。少女漫画もそうですが、「自分が読者だった時の気持ち」はとても大切なんです。読者としての自分が何を求めているのかがわからなくなると、何を描いたらいいかもわからなくなってしまう。絵本も自分が楽しむ立場として、「どこが楽しいか」を考えて、それを盛り込めるように意識して描きました。
――私のように河原先生の作品とともに青春を過ごした世代が今、母になって、子どもと本書を読むファンの方も多いのではと思います。
河原 お子さんとこの絵本を読んで、感じたことをお話ししてみてほしいです。もちろんいいことばかりでなくていいので、親子で正直な気持ちを伝え合うきっかけになったらいいなと思います。「お母さんの好きな漫画家さんなんだよ」みたいな会話が生まれたら嬉しいですね。

河原和音(かわはらかずね)プロフィール

北海道出身。漫画家。主な作品に『先生!』『高校デビュー』『青空エール』『素敵な彼氏』『太陽よりも眩しい星』、原作担当として『俺物語!!』など。著者累計発行部数は3500万部超え。
『俺物語!!』は「このマンガがすごい!2013」オンナ編1位、第37回講談社漫画賞少女部門、『素敵な彼氏』は第64回小学館漫画賞少女部門を受賞。アニメ化、映画化された作品も多数。
取材・文=原智香
