高校野球の聖地

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 東海ラジオで35年間、プロ野球実況を担当したアナウンサーの村上和宏さん。今週は高校野球を取り上げます。猛暑や球児の体調管理の面から検討されている「7イニング制」について、長く野球の試合を中継してきた村上さんは、どのような意見をお持ちなのでしょうか。

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来年から7イニング制?

 夏の甲子園を目指す地方大会のシーズンになりました。6月13日開幕の沖縄大会を皮切りに、今年も全国で熱い戦いが繰り広げられることになります。

 その高校野球ですが、日本高校野球連盟が設置した「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」が去年12月5日に出した最終報告書で「2028年から7イニング制の導入が望ましい」との提言を示しました。現段階ではあくまで「提言」であり、決定事項ではありません。今後、意見交換会や関係者への説明会を実施し、継続して議論を続けるとされています。

高校野球の聖地

 ただ、提言通り、7イニング制が28年から導入されると、9イニングで戦うのは来年で最後となります。

 7イニング制導入が議論されるきっかけとなった一番の理由は、真夏の炎天下で試合を行う高校生の体調に配慮すべき、との意見です。近年は温暖化の影響で毎年のように気象庁が「10年に一度の猛暑」と繰り返し、熱中症への備えが呼びかけられています。

 毎年のように「10年に一度」と言われると、異常気象なのか、もはや常態化しているのに過去の統計との比較に固執して騒いでいるのか分からなくなりますが、とにかく以前とは比べ物にならないくらい夏が暑くなっていることは間違いありません。

 私が子供だった1970年代から80年代までは、最高気温が30度を超えると「猛暑」という感覚でしたが、90年代に入ると30度超えは珍しくなくなり、2000年代には「猛暑」といえば35度超えを指す言葉になりました。

 このように年を追うごとにじわじわと夏の気温が上がる中、高校野球はこれまで通り日差しを遮るものが何もないグラウンドで試合が行われてきました。

 選手の熱中症リスクへの対策として、35度超えが当たり前の時期に日程が重なる夏の甲子園は、2024年大会から日中の最高気温を記録する時間帯に試合を避けるため「朝夕2部制」が本格的に導入されました。この年は開幕から3日目まででしたが、去年は6日間に延長され、開会式と閉会式も夕方に。さらに今年は10日間に延長されることが決まっています。

 この対策からさらに踏み込んだのが、7イニング制導入の議論というわけです。去年の国民スポーツ大会で初めて試験的に7イニング制が実施されました。国民スポーツ大会では今年以降も7イニング制で試合を行うとされています。

現場の意見は?

 実際に試合を行う現場の声はどうなのでしょうか。

 今年春のセンバツ高校野球大会に出場した全32校の監督に行った7イニング制導入に関するアンケートでは「反対」21人、「どちらかといえば反対」4人、「どちらともいえない」6人、「どちらかといえば賛成」1人、「賛成」0人という結果が出ています(日刊スポーツのアンケートより)。

 この結果を見る限り、反対意見が大勢を占めています。

「野球は9イニング」というのは日本人にとっては常識であり、日本に野球が伝わって以来、プロ野球はもとより、アマチュア野球も9イニング制で試合が行われてきました。

 常識を覆すのは、人間にとって容易なことではありません。

 高野連が最終報告書と同じ日に発表した7イニング制について、加盟校と一般を対象に実施したアンケート結果を見ると、加盟校では約7割が反対しています。一方、調査会社に依頼した一般対象のアンケートでは、逆に賛成が約40%、反対が約25%という結果だったそうです。

 面白いのは、一般の意見で、女性は全世代で賛成意見が多かったそうですが、男性、しかも高校野球に普段から関心がある、野球経験があると回答した人ほど反対意見が多かったとのことです。

 反対する理由としては「打席数や投球数が減り、プレー機会が奪われる」「8回、9回にドラマがある」といった意見が寄せられたそうです。

「8回、9回にドラマがある」という意見について私の記憶をたどってみます。

 中日ドラゴンズが星野仙一監督の第1次政権時代に優勝した1988年、この年は8回に劇的な逆転をする試合が多く、ファンは「ミラクル8」と呼んで、負けていても終盤の逆転を期待しました。

 第2次政権、当時のナゴヤドームに本拠地が移って後に初めての優勝となった1999年には、地元での最終戦で9回表に阪神ジョンソン(58)に逆転3ランを浴びたものの、その裏に山崎武司(57)がレフトスタンドへ逆転サヨナラ3ランを叩き込み、打った瞬間に山崎が打席で万歳ポーズをとったのは、ドラゴンズファンにとって今でも忘れられない光景です。

「野球は9回2アウトから」とは、野球経験者ならだれでも口にする野球の格言です。

 しかし、これは「野球は9イニング」が常識だからこその格言であり、7イニング制になれば「7回2アウトから」になるのではないでしょうか。7イニング制になれば「6回、7回にドラマがある」と言われるようになるかもしれません。

 高野連が7イニング制を議論するうえで挙げている課題には、熱中症リスクの回避に加え、まだ成長過程の高校生投手が球数を重ねると故障を引き起こすリスクの回避、さらに社会全体の問題でもある「働き方改革」も挙げられています。7イニング制導入で、拘束時間の短縮などが期待されるとしています。

 高野連が2023年に実施した実態調査では、監督の92.9%が教員、3.0%が事務職員で、高校野球とは全く別のところで議論されている「教員の部活動による負担軽減」や「長時間労働の改善」と無関係ではないことを示しています。

 今回、この話題を取り上げるにあたり、いろいろと調べて驚いたことがあります。野球発祥の地アメリカでは、高校までは昔からずっと7イニング制で試合が行われており、選手の体力などを考慮して、というのが一番の理由のようです。

プロ選手はどうか?

 前人未踏の1002試合に登板し、数々の抑えタイトルを獲得した殿堂入り左腕の岩瀬仁紀さん(51)。高校までは投手でしたが、大学時代は愛知大学野球の最多安打記録にあと1本に迫るなど、野手として活躍しました。

 岩瀬さんの活躍について、歴代のピッチングコーチは異口同音にこう語っていました。

「岩瀬は学生時代に肩を酷使していないから、今の活躍ができる」

 もちろん、学生時代に肩を酷使していないことだけでなく、毎日ブルペン入りできるための体調管理、打たれても引きずらず切り替えができる精神力など不断の努力あっての成績ですが、本人も「学生時代はほとんど投げていないから」と、20年の長きにわたり結果を残し続けた一因に挙げています。

 また、甲子園で活躍した高校生投手がドラフトにかかるかどうか、スカウトに話を聞くと、彼らの評価はこうでした。「この選手は肩を使い過ぎているからここまで」。あるいは「この選手は肩に余力があるからまだ伸びる」。

 高校野球史に残る駒大苫小牧の田中将大(37)と早稲田実業の斎藤佑樹(38)の投げ合い(2006年、第88回大会)は極端な例ですが、勝つために肩を酷使することは珍しくありません。幸いこの2人はそうなりませんでしたが、チームのために将来プロで活躍する夢や、その先の野球人生を犠牲にした例は周りに高校野球経験者がいる方なら聞いたことがあるかもしれません。

 止まらない温暖化、故障のリスク、教員の働き方改革、こうした事実を前にしたとき、「野球は9イニング」というこれまでの常識にとらわれたままでいいのかと私は思います。むしろこの常識に疑問を投げかける高野連の「7イニング制」導入に関する議論は、時代の変化に沿った動きと言えるのではないでしょうか。

 アメリカのように高校までは7イニング制、そこで才能が認められた人が大学やプロで9イニング制でプレーする、日本も同様の制度にすることに抵抗を感じる方が多いと思いますが、周りを見回せば会社でも学校でも「昔の常識が今は非常識」となった事例は枚挙にいとまがありません。

 あなたは高校野球の7イニング制、どう考えますか?

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。

デイリー新潮編集部