東京・神保町の立ち食い蕎麦『梅市』で聞こえる、ジュワーという音の秘密 蕎麦屋の朝は6時からはじまる
安い、早い、旨いに加え個性的メニューや食べ盛りにうれしい超大盛りまで。今、SNSなどで話題を集めている立ち食い蕎麦。今回は過去掲載店も含め、ここは旨い!と繁盛している店に限らず、やがて繁盛するはずの店舗までを集めてみました。その冒頭は、立ち食い蕎麦店の1日密着。安き1杯に込められた想いを知ってください。
旦那が揚げて奥様が振る!阿吽の呼吸だ『立ち喰い蕎麦 梅市』@神保町
神保町の人気店『梅市』は11時に開店し、18時半で店じまい。なのに密着取材の集合時間は……朝6時だった。
それで6時に行くと黄色い看板の下、ご主人の梅宮顕市郎さんと、奥さんの麻有さんはすでに作業をしていて、もうシャッターは開けてあった。しまった。開けるところを撮影し損ねました。
「20分ばかし早く着いちゃいました」とご主人。
ご自宅から店へ向かう途中に、おふたりは製麺所に立ち寄る。5時にそこに着き、その日の分の麺を買う。蕎麦ギョーカイの朝はぎゅっと早い。

『立ち喰い蕎麦 梅市』麺は岩野製麺のもの。ご主人が試食を繰り返し見つけた麺

『立ち喰い蕎麦 梅市』朝一番はダシを取る準備

『立ち喰い蕎麦 梅市』節類を計量
「立ち食い蕎麦は、みんなが背中を丸めて黙って食べている雰囲気がたまらないんですよ。中には『旨い!』と言ってくれる人がいるのがうれしくて、毎日、店を開けるんです」と語るご主人。
午前中の大仕事は、一日分の天ぷらを揚げてしまうことだ。『梅市』では、注文が入ると、朝作った天ぷら各種を菜種油で再度揚げてアツアツを提供する。蕎麦の上でジュワー、プツプツと音が出る。この音がたまらない。
名物はニラ天そば。ご主人が黙々とニラを切っていく。8束を使い約24個作る見当だそう。隣で奥さんはかき揚げ用の玉ねぎを切断。1センチ幅で想像よりも幅が太い。
「太い方が歯応えがあるからね。涙?玉ねぎ切っても出ないよ。慣れちゃったもん」と笑う。

『立ち喰い蕎麦 梅市』揚げる準備は整った
時計の針は6時40分。いよいよ、ニラ天を揚げ始める。これはふたりの共同作業だ。ご主人が、お玉の上にかき揚げ用リングを乗せて、中に小麦粉をまとわせたニラを何層にも重ねて、1セットできると油へ。シャ〜と音がすると途端にニラのいい香りが厨房に立ち上った。うーん、いい。

『立ち喰い蕎麦 梅市』油を汚さないニラ天から揚げる
1分半ほどで油から引き上げ、奥さんにバトンタッチ。トングで挟むと腕をブンブンと振って油を切る。回数は24回から27回の間。熱が入りすぎる前に余分な油を落としてしまう。その工程を阿吽の呼吸で繰り返し、次々にニラ天ができ上がっていく。
「ニラは気を許すとすぐに焦げちゃう。付きっきりでやらないと」と奥さん。
7時10分にニラが終わり、今度はかき揚げだ。ご主人は、リングに入れたタネを油に沈めた直後、丁寧に何度も、リングの中に匙を入れて、押し始めた。

『立ち喰い蕎麦 梅市』かき揚げは、ヘラで突きながら揚げる
「玉ねぎから水が出てブヨブヨとなるので、揚げるときに押して余分な水分を出してしまうんです」。
プロの技。時折、汗を拭いて、強炭酸コーラを口にしながら、やはり黙々と揚げていく。
8時。ご主人のご母堂・美知子さんが手伝いに到着。おいなりさん製作部隊なのだ。手際よく酢飯をあげに包みながら、「息子がこんなに蕎麦好きとは知らなかったです」と微笑んだ。
ご主人がイカを揚げているころ、奥さんが寸胴からダシ濾し袋を引き上げ。火を止め独自配合のかえしを加える。冷やし用は少し濃いめに作る。
「ここのおツユは毎日飲んでも飽きないでしょ」。旨さの理由を聞くと「おいしくなぁれ、と語りかけてる」と笑う。
昨日作って冷蔵庫に保管しているツユを足すのが裏技で、まろやかさと香ばしさが出るという。夕方には水分が多少詰まって味が濃くなるので、足しツユで調整もする。
「ちょっと飲んでみますか?」といただいた。あぁ、日本の旨み。「若いうちが旨いなあ。朝イチのツユはスッキリしていて、私は好きです」とご主人。
8時半。厨房の仕事を終えた奥さんが出勤する。会社員でもあるのだ!
10時40分。ご主人は一杯のかけそばを作る。ツユが落ち着いたころを見計らって、最終の味見だ。

『立ち喰い蕎麦 梅市』開店直前に試食。シンと静まり返った中で啜る音が響く
麺は茹で時間4分。
「蕎麦200g。下手したら220g。少ないより多いほうがいいでしょ」という客に出す半量ほどのかけ蕎麦を作ると、天かすとねぎの刻み端をのせてずずっと召し上がる。
「味がボケないよう、今日は湯切りをしっかり目にしよう」と呟いた。
11時、のれんを出す。開店だ!

『立ち喰い蕎麦 梅市』のれんがかかった。左横には英語の「TACHIGUI SOBA」の説明も
茹でる。揚げる。乗せる。出すがひたすら繰り返されていく。ピークを過ぎても10分おきにお客が来る。ゆっくり昼食を取る時間もない。
18時18分、今日最後の客は常連さんだった。
曰く「新店があるなと思って昼にここに入ったんだけど、電子マネーしかなくて。そしたら、ご主人が『今度でいいよ』って。グッとくるやら蕎麦がうまいやらで。その日の夕方に、お金と手土産を持って、もう一度食べに来て以来の常連ですね(笑)。立ち食い蕎麦の愉悦は、おやつがわりに、小腹が空いたときに食べるとき。会社の途中で抜け出してさ、ひと息つけるじゃない。いいよね」
ニラ天そば620円

『立ち喰い蕎麦 梅市』ニラ天そば 620円 疲労回復の栄養たっぷり香ばしさがタマラン1杯です

『立ち喰い蕎麦 梅市』店主 梅宮顕市郎さん
店主:梅宮顕市郎さん「香りや音も楽しんでいただければ嬉しいです」
立ち喰い蕎麦 梅市のとある一日
葉物野菜は新鮮な物を行きがけに毎朝買う。蕎麦と野菜を積んだ車が神保町に到着する。気になるご主人の昼メシは「客が切れたときに座ってこっそり、かけそばを啜る。14時か15時か、日による」だそう。人気店の裏側をご開帳!
【5:40】スタート!製麺所にて麺の受け取り
【5:50】朝一番はダシを取る準備

『立ち喰い蕎麦 梅市』
【6:00】米を研ぐ音が響きます

『立ち喰い蕎麦 梅市』おいなり用に米を炊く
【6:10】節類を大型のダシ濾し袋に入れる。カツオのほか”節”の宝石箱や〜

『立ち喰い蕎麦 梅市』大型のダシ濾し袋に入れてスタンバイ。袋はキメの細かい上等品で4000円
【6:30】かき揚げ用の野菜を準備、夫婦の共同作業。こっちはできたぞ、そっちはどうだ?

『立ち喰い蕎麦 梅市』夫婦の共同作業。かき揚げ用野菜を切る妻の手元を黙って見つめる夫
【6:35】かき揚げを揚げる準備は整った。タネのとろみは完璧

『立ち喰い蕎麦 梅市』タネのとろみは完璧
【6:40】まずはニラ天を揚げる。ニラ天、じゅわ〜

『立ち喰い蕎麦 梅市』ニラ天、じゅわ〜
【7:10】黄金色のかき揚げが次々と並んでいく!

『立ち喰い蕎麦 梅市』天ぷらは全種類で100個程度作る
【7:25】いいダシが取れました!広がる香りがたまりません

『立ち喰い蕎麦 梅市』すっかり茶色く染まったダシ袋。いい香りが店に広がった
【8:00】おいなりさんの製作快調

『立ち喰い蕎麦 梅市』母の美知子さんは毎朝8時に出勤。14時くらい帰宅
【10:30】天ぷらの準備は完了。あとは開店を待つだけだ

『立ち喰い蕎麦 梅市』ニラ天の緑、紅生姜天の赤、かき揚げの金と3色並ぶと美しい。あとは開店を待つだけだ
【10:40】朝食代わりの試食です

『立ち喰い蕎麦 梅市』その日の湯切り加減を決める大事な瞬間
【10:59】いよいよ開店!
【12:10】ランチ客で賑わう店内。思い思いの一杯を味わう

『立ち喰い蕎麦 梅市』ランチ客で賑わう店内。思い思いの一杯を味わう
【18:35】閉店作業

『立ち喰い蕎麦 梅市』
【18:40】今日も無事に終了

『立ち喰い蕎麦 梅市』今日も無事に終了
[店名]『立ち喰い蕎麦 梅市』
[住所]東京都千代田区神田神保町1-2-8
[電話]非公開
[営業時間]11時〜18時半(土は〜15時)
[休日]日・祝
[交通]地下鉄半蔵門線ほか神保町駅A4出口から徒歩3分
撮影/大西陽、取材/輔老心
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
※画像ギャラリーでは、『梅市』の一日密着画像をご覧いただけます
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