将来有望なサッカー選手の才能をAIで発掘することはできるのか?

2026年6月から開催されるFIFAワールドカップでは、世界中から才能にあふれたサッカー選手らが集まり、国を背負って試合に臨みます。近年、そんな将来のスター選手を発掘するためにAIが使われるようになっていますが、果たしてAIの活用で本当に将来有望なスポーツ選手を見いだせるのかについて、スウェーデンのマルメ大学でスポーツ科学を研究するリア・モンシーズ氏が解説しました。
https://theconversation.com/can-ai-really-spot-the-next-football-superstar-or-is-it-changing-the-game-in-troubling-ways-280378
将来有望なサッカー選手の発掘は、長年にわたり熟練したスカウトの目に頼ってきました。しかし近年はそのプロセスがデータ主導型になりつつあり、世界中のエリートサッカーアカデミーではGPSトラッカー・自動ビデオ分析ツール・AI搭載プラットフォームなどが使われるようになっているとのこと。
この風潮についてモンシーズ氏は、「金銭とグローバルな競争によって形作られるスポーツにおいて、その魅力は明白です。クラブはより良い意思決定を、できるだけ早く行いたいと考えています。才能ある選手を早く見つけられるほど、得られるリターンは大きくなる可能性があります」と述べています。
ところが、新たな才能発掘の領域におけるAIテクノロジーの導入は、「才能を本当に数値化できるのか」「テクノロジーやAIが偏見を克服できるのか、それとも新たな偏見を生み出すのか」といった問題を提起します。

事実として、現代サッカーでは若い才能の発掘が活発化しています。スペイン人サッカー選手のラマン・ヤミル氏はわずか6歳でFCバルセロナの育成組織にスカウトされ、クラブ史上最年少の15歳9カ月16日でトップチームデビューを果たしました。
それでも、すべての才能が幼少期から開花したり見いだされたりするわけではなく、アメリカのスター選手であるアレックス・モーガン氏が本格的にサッカーを始めたのは10代になってからであり、元イタリア代表のルカ・トーニ氏がトップレベルに到達したのは20代前半のことでした。いわゆる「遅咲き」の選手は、アスリートの身体的・精神的・社会的な成長スピードはそれぞれ異なっており、幼少期や青年期に成功を予測することの難しさを示しています。
一方でAIシステムは大規模なデータセットを分析し、成功するとされる選手に当てはまる「特定のパターン」を探すことに依存しています。モンシーズ氏は、「問題はパターンが過去に基づいている点にあります」と指摘しています。
たとえば、過去のスカウトシステムが「身体的に早く成熟すること」や「社会経済的地位や家族といったバックグラウンド」などを持つ選手を優遇してきた場合、AIは単純にこれらのパターンを再現してしまう可能性があります。この場合、AIシステムは過去の主観性の上に成り立った、「新たな偏見の形」になってしまうリスクがあるとのこと。
モンシーズ氏は、「データドリブンの手法は意思決定を支援することはできるものの、主観性を排除することはできません。どのようなデータを収集するか、どのように分析するか、そして何を『才能』と見なすのかといった決定は依然として人間の判断に左右されるため、ある程度は常に主観的なものとなります」と主張しました。
また、データは数多くのデータを測定することができるものの、選手の資質に少なくない影響を及ぼす相互作用や経験、文脈といったものを捉えきれないという問題もあります。過去の研究では、コーチやスタッフが苦労しているのはデータの収集自体ではなく、データを解釈して有意義な洞察に変換することだということも示されています。

サッカー界には長年にわたる不平等が存在し、エリートへの道は社会的・経済的・文化的要因によって形作られてきました。AIシステムがこれらの不平等を反映した過去のデータに基づいて学習する場合、不平等がさらに助長されてしまう危険性があります。
モンシーズ氏は、「同年代の選手と比べて身体的に発達している選手は一般的に有利ですが、だからといって必ずしも長期的な潜在能力が高いとは限りません。イアン・ライト氏やトーニ氏のように人生の後のステージで高いレベルに到達した選手は、このようなシステムでは見過ごされていた可能性が高いのです。このようなデータに基づいて訓練されたAIは、意図せず早熟な選手を繰り返し優先してしまう可能性があり、人材プールを拡大するどころかむしろ狭めてしまうことになるでしょう」と指摘しました。
また、「自分のデータが常に収集され、AIによって分析されている」という意識が若い選手自身に及ぼす影響も問題です。これまでの研究では、監視の強化は選手だけでなくコーチやスタッフにとっても強いプレッシャーとなり、常に上からの評価と監視を受けているという感覚を生み出すことが示されています。
AIシステムにはクラブがこれまでは処理しきれなかった膨大な情報を処理し、人間が見落としがちなパターンを特定し、世界中のどこからでも選手を見られるようになる可能性が秘められています。その上で、AIシステムは中立的でも客観的でもなく、データやその背後にある前提や価値観、偏見を反映したものであることも理解する必要があります。
モンシーズ氏は、「課題は単に新しい技術を採用することではなく、その使い方を問い直すことです。クラブはデータの限界を認識し、教育と専門知識への投資を行う必要があります。そして、技術が人間の判断を代替するのではなく、補完するものとなるよう徹底する必要があるのです」と述べました。
