史上初「民家」が国宝に指定! はたして「重要文化財」の“民家”で暮らすとはどういうことか? 住民が明かす驚きの日常「囲炉裏でバーベキュー」「真夏でもクーラー不要」
5月22日、文化庁の文化審議会は、室町時代に建てられたと推定される兵庫県神戸市にある「箱木家住宅」(以下、箱木家)の主屋、姫路市にある「旧古井家住宅」(以下、古井家)の2件の重要文化財を「国宝」に指定すると答申した。2件は日本で最古級の民家といわれている。これまで民家には国宝がなかったが、今回の答申を受けて初の指定となる。
文化庁によると、2026年5月現在、重要文化財に指定されている近世以前の民家は362件を数える。箱木家も古井家も、現在は保存のために所有者の生活の場にはなっていないが、そんな重要文化財の民家に今も住み続けている人が少数ながらいる。

筆者の知り合いで、秋田県羽後町にある重要文化財「鈴木家住宅」(以下、鈴木家)の当主、鈴木杢之助重廣さんもそんな一人である。鈴木家は東北地方でも最古といわれる民家の1つとされ、江戸時代初期に建設された主屋はたびたび増築を繰り返しているが、最初に完成してから350年以上経っているといわれる。
そんな鈴木さんの生活は、自然との闘いでもある。天井もなく梁がむき出しのため、冬は氷点下になることもある。秋になると家の中に大量の虫が入って来ることもままある。それでも鈴木さんは家に住み続けることにこだわる。重要文化財で暮らすとは、どのようなことなのか。鈴木さんに話を聞いた。【取材・文=山内貴範】
国宝指定は素晴らしいこと
――箱木家と古井家の国宝指定をどのように見ていますか。
鈴木:とても素晴らしいことだと思いますね。実際に、箱木家と古井家は全国で1番、2番目に古い家として知られていましたから、国宝に指定されるのは当然だと思っています。これまで民家の国宝はありませんでしたから、私を含め、全国の重要文化財の民家の所有者は嬉しく感じていると思いますね。
今回、2件とも兵庫県の民家が国宝第1号になったわけですが、それで終わらずに、各地方の代表的な民家が国宝に指定されてほしいですね。九州、中国、四国、関西、北陸、東海、関東、東北、北海道……と、民家の国宝指定が進み、ゆくゆくは国宝民家を巡るルートのようなものができてほしいと思っています。
――鈴木さんの家も、東北地方で最古級といわれています。
鈴木:東北地方でもっとも古いと考えられているのが、矢島(秋田県由利本荘市)の土田家と、我が家の2件です。特に、我が家は全国的にも珍しい“実際に住んでいる重要文化財の民家”だということを主張したいと思います。
――箱木家の箱木さんは、現在は別の建物に住んでいるそうですし、古井家は姫路市の所有になっているので事実上の空き家です。現代の暮らしでは不便も多いといわれるなかで、鈴木さんが家に住み続けるのはなぜですか。
鈴木:それは単純な理由で、私の父が管理棟(事実上の新築の家)を造らなかったためです。我が家も、修理をしたとき、文部省(現在の文部科学省)から管理棟を建てて暮らすように通達がありました。でも、父は「管理棟なんか造る金がない!」と、半ば強引に住み続けたのです。
ただ、結果的に、その判断が家にとってはとてもよかったと思います。生活を続けることでメンテナンスが行き届きますし、何より“古民家”ではない、現役の家としてあり続けているわけですから。何より、現在では文化財を使いながら維持するという考えが、広まってきましたからね。
囲炉裏でバーベキューをやる
――とはいえ、それはお父さんの決断であり、鈴木さんは新しく家を建ててもよかったわけですよね。
鈴木:我が家は、家のまわりの環境、山林なども昔の面影を残していて価値があるという理由で、平成6年に“土地”そのものも重要文化財に指定されました。そのため、逆に管理棟を建てるのが難しくなってしまったのです。ただ、家も広いし、嫁さんが「私もここに住みます」と言ってくれたので、喧嘩しながら住んでいますよ。
子供も3人いて、今でも家族6人で住んでいます。小学校のときなんかは息子の友達がいっぱい来て、「家の中が広くていいな!」と言っていました。何しろ天井がなく梁がむき出しなので余計に広く感じますし、雨が降っても家の中で走り回って遊べるなどのメリットはありますね。
――さらに、鈴木さんの家は囲炉裏に毎日、薪がくべられ、火が焚かれています。囲炉裏の煙は茅を長持ちさせる効果があるため、民家の保存のためには大切なことといわれています。
鈴木:今でも囲炉裏は普通に使っていますよ。年に2〜3回、家族で囲炉裏を囲んでバーベキューをやったりします。また、我が家は民泊もやっていますが、宿泊した方には、囲炉裏を使って魚や肉を焼いてもらったりしています。コーヒーを飲んだり、スパゲッティを食べたり、コンビニで買ってきた食事を食べたりするのも自由です。
――江戸時代の民家のなかで、現代的な暮らしが送られていることに驚きます。しかし、秋田は豪雪地帯ですし、家の中が氷点下になることもありますよね。
鈴木:いや、寒さはもう、慣れっこですよ。寒ければ服を着ればいいだけですから、大したことはありません。そのぶん、夏は最高。風が家の中を通り抜けるので、クーラーは要らない。この快適さを味わうために日々生きているようなものです。
古い家のほうが新築より頑丈
――大変なことは。
鈴木:やっぱり維持管理の費用をどう捻出するか、ですね。維持費として国から年間数十万円の補助は出るのですが、冬囲いなどの環境整備などはこちらで行わなければいけません。今年、我が家では屋根の修理を行うのですが、自己負担する部分も大きいです。屋根の全面葺き替えなど、数千万円という規模の修理になると、国からお金が出るといってもかなりの負担になります。それは、国宝になっても同じだと思います。
重要文化財の民家のなかでも一般公開している家は少なく、我が家は住みながら一般公開している全国的にも稀な例です。40年以上前から公開は続けていますが、家の中で昼寝しているところを覗かれたりとか、仏像が盗難に遭ったりしたこともありました。しかし、重要文化財に住むというのはそういうものだと思って、割り切っています。
――今回の箱木家、古井家の国宝指定で、民家への関心が高まることは間違いないと思います。その一方で、希少価値が高い民家が取り壊される例も相次いでいます。保存の機運が高まり、活用が進むためには何が必要だと考えますか。
鈴木:私は、住み続けることが一番の保存だと思っています。重要文化財の民家には、人が住んではいけないという考えが未だに根強くありますが、昔からずっと住んできたのだから、今でも住むのは当然だと思います。逆に住まないのはもったいないと思いますね。
昔の家はすぐに壊れるのではないか、災害に弱いんじゃないかと考える人もいますが、そういった不安も払拭したい。私が思うに、古い家はこれまで数多くの災害を乗り越えてきているわけですから、実は丈夫なんですよ。
新築で建てた家も、30年くらいで建て替えてしまう例が多いそうですが、あまりにもったいない。それだったら、100年経った家を買って住めばいい。私の家には、古い家に住みたいという人がよく来ますし、以前より関心が集まっているのがわかります。文化財や民家のイメージを変えていくことが、うまく利活用するために大切だと思います。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
