わずか2%だけ。ワインの複雑な味わいを決める成分。…収穫年や産地で味を激変させる、ブドウ果実に由来する成分の正体
一滴の雫に満たされている、数千年にわたる叡智……。
もはや国民的な飲み物の一つとなったワイン。近年、日本産ワインも急成長していることはご存知の方も多いと思いますが、さらに注目を集め始めているビオワイン、オレンジワインはご存知でしょうか。
ワインは、単なる嗜好品にとどまらず、人類が長い時間をかけて磨き上げてきた文化の産物として多くの人々を魅了し続けています。しかし、グラス一杯の背後には、ブドウ樹の生理、発酵微生物の働き、果汁やワインに含まれる化合物の化学反応、といった、さまざまな科学的要素が複雑に絡み合っています。
ワインの原料となるブドウの最新の栽培技術、醸造技術から、おいしさ、香り、健康効果はもちろん、温暖化によるブドウ栽培の変化など、ワインの魅力を科学の言葉で説明した『最新 ワイン科学』(講談社・ブルーバックス)。本記事シリーズでは、この書から、興味深いトピックを選りすぐってご紹介していきます。
今回は、ワインに含まれる成分について解説します。
*本記事は、『最新 ワインの科学 芳醇な香りと味わいはどのように生まれるのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
ワインを形づくる魅惑の成分たち
ワインは、その見た目や香り、味わいのすべてにおいて、私たちを魅了してやみません。その奥深さをひも解く鍵は、ワインに含まれる成分たちです。
ワインの構成成分を図「ワインの主要成分組成」に示します。ワインの98%は水(86%)とエタノール(12%)です。
そのうちエタノールは、ワインの味わいに決定的な役割を果たす重要な成分です。エタノールは、舌や軟口蓋にある味蕾(みらい)に直接作用し、味の知覚を増幅させるとともに、他の成分の溶解と拡散を促進します。具体的には、アルコール分が高いほど辛口で重厚な味わいを生み出し、低いと柔らかく軽やかに感じます。
グリセロール(1%)もワインの味わいに影響を及ぼします。ワインに滑らかな甘みのある口当たりを与えるとともに、ボディ感や濃厚さを増強する効果があります。高品質のワインほど、グリセロールの濃度が高い傾向にあります。
残りたった1%…複雑な風味を生み出す成分
水とエタノール、グリセロールを除いた残りたった1%が、ワインの風味の複雑さを生み出す成分となります。有機酸(0.4%)には酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、クエン酸が含まれ、特に白ワインで重要な酸味の輪郭を形成します。
フェノール類(0.1%)として、赤ワインの骨格を生み出すタンニンや、赤ワインの色調を決定するアントシアニンがあります。白ワインにもポリフェノールは存在しますが、赤ワインほど味わいへの影響は大きくありません。むしろ、不快な苦みや渋みの原因となることもあります。
その他の化合物(0.5%)として、揮発性物質と微量要素がワインに含まれています。揮発性物質は、フーゼルアルコール、エステル、ケトン、脂肪酸、アミドなどから成り、香りの多様性を生み出しています。
微量要素は、糖、ビタミン、窒素化合物、各種イオンで、繊細な風味をワインに加えています。
酸味が奏でる味わいのハーモニー
ワインの98%は水とエタノールで構成されていますが、それだけでは奥深い味わいは生まれません。ワインを特徴づけているのは、残りわずか2%に含まれる成分たちです。なかでも、ひときわ重要なのが「酸味」を生み出す成分です。グラスを傾け、口に含んだ瞬間、酸味は果実味を引き立て、ワイン全体の印象をきりっと引き締めてくれます。爽やかさやフレッシュさ、そして飲み飽きないバランス感覚を生み出しているのも、酸味によるものです。
ワインの味わいに欠かせない酸味を支えるのが、ブドウ由来の有機酸という小さな分子たちです。ワインに含まれる主要な有機酸として、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、酢酸が挙げられます(図「ワインに含まれる主要有機酸の構造と特徴」)。
これらのうち、酒石酸とリンゴ酸、一部クエン酸はブドウ果実由来で、他は発酵過程で生まれる酸です。
産地によって酸味が変わるわけ
ワインに多く含まれる酒石酸、リンゴ酸がワインの酸味を主に決定していますが、乳酸菌の働きでリンゴ酸を乳酸に変換するマロラクティック発酵(MalolacticFermentation:MLF)により酸味を和らげることも日常的に行われています(図「マロラクティック発酵による酸の変換」)。
リンゴ酸と酒石酸はブドウ果実由来であるため、収穫年の果実の良し悪しが大きく影響します。酒石酸とリンゴ酸は、果実の生長に合わせ気温とともに劇的な変化を遂げます(図「ブドウ果実の生育ステージと成分変化」)。特に、夜温が高いと、細胞の呼吸作用(酸素を取り入れ、二酸化炭素を出す)によってリンゴ酸が多く消費されます。
実際、日本各地の調査データを見ると、有機酸の含有量は地域によって大きく異なることがわかります。
ブドウ産地としては平均的な気温を示す山梨県で栽培されたシャルドネの果汁中リンゴ酸含有量は0.26〜0.43グラム/100ミリリットルであるのに対し、冷涼な気候の山形県、長野県では、それぞれ0.48グラム/100ミリリットル、0.28〜0.57グラム/100ミリリットルと、リンゴ酸含有量が高くなります。一方、山梨県より気温が高い九州地方のシャルドネでは、0.22〜0.30グラム/100ミリリットルとリンゴ酸含有量が少ない傾向にあります。
これこそが、冷涼な気候で栽培されたブドウから造られる白ワインが、リンゴ酸のキレのよい酸味を生み出せる理由なのです。
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次回は、赤ワインの奥深い味わいと複雑な風味を生み出すポリフェノールの、驚きのパワーについてご説明しましょう。
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