トラックドライバーの労働環境を改善するため、2024年4月から時間外労働の年間上限が960時間となった。当事者に働き方が変わったかどうかを質問すると、意外な実態が浮かび上がった。物流ジャーナリストの坂田良平さんがリポートする――。
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■「2割長く、2割安い」過酷な職業

「物流の2024年問題」では、働き方改革関連法によってドライバーの残業時間に上限規制が課され、結果としてトラック輸送リソースが低下、一般市民の生活においても「モノが届かない」「店頭でモノ不足が発生する」といった懸念が大きな話題を集めた。

これに関連し、各種法令が公布・施行され、またドライバーの待遇改善に対する機運も高まっている。

かつては「2割長く、2割安い」(※一般的な職業に比べて、労働時間が2割長く、給料が2割安いという意味)と言われたドライバーの働き方は改善したのだろうか?

物流スタートアップHacobuが2026年3月に実施した、トラックドライバー1516人へのアンケート調査から紐解こう。

※Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」
なお、筆者への調査データ供与に際しては、個人情報を除き提供されている。

■荷待ちが減っても、拘束時間は変わらない

質問「直近1年間で、荷待ち時間はどのように変化したと感じますか?」については、約半数(55.3%)が荷待ち時間の短縮を体感している。

ただここで不思議なのが、労働時間に関する調査結果である。

質問「直近1年間で、拘束時間はどのように変化したと感じますか?」では、「大幅に短くなった」(6.5%)と「やや短くなった」(36.9%)を合算しても43.3%であり、荷待ち時間の短縮実感と比較して、12.0ポイントの差が存在する。加えて言えば、「変わらない」との回答が50.5%存在する。

では荷待ちで短縮された時間は、どこに消えたのだろうか?

考えられる理由はいくつかある。

まず、これまできちんと実施できていなかったコンプライアンス遵守に費やされている可能性である。

・始業前・始業後の点呼や日常点検に費やしている
・430(※4時間運転すると30分休憩しなければならないというドライバー独自の労務ルール)によって、休憩時間が取れるようになった
・コンプライアンス研修などが増えた

あるいは、せっかく荷待ちや荷役時間が減っても、運行計画が効率化できておらず、結果的に一日の拘束時間が減っていない可能性もある。さらに言えば、ダラダラと事務所などで時間を浪費してしまっている可能性もあるだろう。

■66%が1日11時間以上働いている

ちなみに、今回の調査における拘束時間の分布は図表1のとおり。

最多の「11〜13時間未満(37.7%)」をはじめ、「13〜15時間未満(20.6%)」、「15時間以上(7.9%)」と、拘束時間は依然として長時間帯に集中していることが明らかになりました。(Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」より)

過去に行われた別調査を参照しよう。

「トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書」(令和4年1月、有限責任監査法人トーマツ)によれば、2019年度における「1年の拘束時間が3,300時間以上の運転者数割合」は26.6%とある。

年間稼働日数を260日(隔週週休2日制)の場合、一日の労働時間は12時間41分程度になるので、2019年の調査よりも、今回の調査結果のほうが長時間労働は悪くなっている(長時間化している)可能性が高いことになる。

もちろん、アンケート元が違うので単純比較はNGなのだが。

つまり、「物流の2024年問題」は当時大騒ぎされたものの、結局のところドライバーの長時間労働はあまり是正されていない可能性が高いというわけだ。

■「10%前後の賃上げ」と言ったのに…

では、収入のほうはどうか?

質問「直近1年間で、あなたの収入はどのように変化しましたか」を読み解くと、収入が上がったドライバーは3割強に留まり、4割は変わらず、逆に下がったというドライバーも2割いることになる(図表2)。

「変わらない(44%)」、「少し下がった(15.2%)」、「下がった(6.5%)」の合計が6割以上で、賃金が上がった実感を持てない層が中心となりました。(Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」より)

2024年2月16日、岸田文雄首相(当時)は政府が行う物流革新政策の意義と成果を「2024年度、トラックドライバーに対する10%前後の賃上げが期待できる」とアピールしたが、今回のアンケート結果から考えれば、とんでもないハッタリ発言だったことになる。

日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が2026年4月30日に公表した「2025年度物流コスト調査報告書(概要版)」によれば、92.8%の企業が物流事業者から運賃・倉庫費・荷役費などの値上げ要請を受けたと回答、そのうちの97.2%の企業が値上げに応じたと回答している。

「物流の2024年問題」以降、運送会社が行う運賃交渉には追い風が吹いており、すべてではないにせよ多くの荷主が交渉に応じ、そして運賃アップを実現しているはずだ。

にもかかわらず、6割以上のドライバーの収入が上がっていないというのはどういうわけなのだろうか?

■社長の本音「給料アップはキリがない」

収入が上がらない理由として、主に2つ挙げられる。

・昨今の燃料費・採用広告費・トラック購入費用などの上昇に、運賃上昇が追いついていない
・業界の大半を占める中小運送会社の経営者は先行き不安から、ドライバーの待遇改善に踏み切れていない

補足しよう。

2024年3月末現在、国内運送会社は6万2848社である。

しかし従業員が1000人を超える大企業は92社、割合にして0.1%しかなく、逆に従業員が30人以下で81.7%、50人以下で90.2%という巨大な中小企業の集合体が、運送会社の実態である。

確かに最近は「長距離ドライバーで年収700万円以上可能」といった景気の良い求人広告も見かけるようになったが、こういった高収入をアピールできるのは限られた大手運送会社がほとんどだ。

筆者が取材したある中小運送会社社長は、ある程度までドライバーの収入アップを実現したが、それ以降は社員旅行などの福利厚生を充実させる方向に経営転換したという。

「給料アップはキリがないよ。そのうえ、もし経営が厳しくなって一度上げた給料を下げようとしたら、いろいろと問題が生じるし。だったら中止しやすい社員旅行などを増やして、ドライバーのロイヤリティを高める経営を目指すべきだと思う」

■「ドライバーを続けたい」が6割超え

長時間労働はむしろ増えたのに、収入が上がっていない人が6割以上。そんな環境で、ドライバーたちは仕事を続けたいと思えるのだろうか。

今回のアンケート結果で意外だったのが、質問「今後もドライバーを続けたいと思いますか?」への回答だ。「続けたい」「できれば続けたい」は合わせて65.4%、「できれば辞めたい」「辞めたい」の13.5%を大きく上回った(図表3)。

Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」より

厳しい労働環境にもかかわらず、なぜ継続意向に差が出たのか?

質問「仕事で負担に感じることを教えてください」を確認しよう(図表4)。

Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」より

■引き金は「待機場所問題」より「給料」

上位から、「待機場所を見つけるのが困難(61.7%)」「給与が労働に見合わない(53.8%)」「付帯作業(荷下ろし・積み込み等)(41.1%)と続く。

この順位そのものは、今後もドライバーを続けたい人、辞めたい人においても違いはない。ただし、その割合は大きく異なる(図表5)。

Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」を基に筆者作成

例えば、不満として「給与が労働に見合わない」と答えた人は、継続意向者では45.1%だが、非継続意向者では77.2%、その差は32.1ポイントも開いている。

同様に、継続意向者と非継続意向者で差が大きかった不満は以下のとおりである。

「拘束時間が長い」 26.5ポイント差
「運行スケジュールが厳しい 」 16.5ポイント差
「荷待ち時間が長い」 16.4ポイント差
「腰痛や身体的な疲労がつらい」 16.3ポイント差

この結果はとても興味深い。

まず継続意向者、非継続意向者のいずれも不満がもっとも多かった「待機場所を見つけるのが困難」である。これは運送ビジネス(トラック輸送ビジネス)における構造的な課題ではあるが、離職意向のトリガーにはなっていないと考えられる。

一方で、継続意向者と非継続意向者で差が大きかった不満は、総じて生活の質や自己犠牲の度合いに直結するという共通点が見られる。

もっとも差が開いた「給与が労働に見合わない」については、「これだけやって、たったこれだけか」という納得感の欠如が離職意向を強く高めていると考えられる。

■「もっと人間らしい働き方をさせて」

また、「拘束時間が長い」「運行スケジュールが厳しい」「荷待ち時間が長い」については、理不尽さやストレスを感じやすいポイントであり、これらが積もり積もって「給与が労働に見合わない」という不満に収束している可能性がある。

一番わかりやすいのは「腰痛や身体的な疲労がつらい」であろう。腰痛や日常的な疲労の蓄積という自己犠牲を払っているのに、「給料が安すぎるだろう」と感じれば、不満が高まるのは致し方ない。

ドライバーと話していると、たびたび「もっと人間らしい働き方をさせてほしい」という声を聞く。

理不尽に待たされるのも、逆に急かされるのも人間らしい働き方とは言い難い。まして、それが「収入と見合わない」となれば、なおさらである。

これらの不満が一定のレベルを超えてしまうと、「もうドライバーなんてやってられない!」となってしまうのだろう。

■若手ドライバーは「理不尽」が許せない

最後に、30代以下を「若手」、40代以上を「ミドル・シニア」と分類し、それぞれ不満を感じるポイントの差を考察したい。

なお、アンケート調査では、「ミドル・シニア」1205人に対し、「若手」は311人に留まる。そのため、標本調査としては十分ではなく、以降の考察はあくまで参考程度であると理解してほしい。

質問「仕事で負担に感じることを教えてください」について、「若手」「ミドル・シニア」でクロス分析をかけた結果が図表6である。

Hacobu「【2026年】トラックドライバー実態調査」を基に筆者作成

「若手」が「ミドル・シニア」に比べて不満を感じやすい項目は以下の4つだ。

「休憩・トイレなどの環境が悪い」 6.5ポイント差
「付帯作業(荷下ろし・検品など)が多い」 3.3ポイント差
「荷主や関係者の対応が悪い」 3.1ポイント差
「拘束時間が長い」 3.0ポイント差

これらを勘案すると、「若手」ドライバーの方が「理不尽であることに対する感受性が高い」可能性が見えてくる。

例えば休憩場所やトイレの問題は、一般的な職業であれば当然のこととして提供されるべきものであって、ドライバーゆえに苦労しなければならないというのは理不尽である。「荷主や関係者の対応が悪い」というのも、「なぜ見下されなければならないのか?」と理不尽に感じるだろう。

付帯作業や拘束時間については、現在では国の方針として「改善しなさい」(輸送効率の向上に努めなさい)と法令(物流効率化法など)で指針が示されている。それを「行わないこと」はやはり理不尽であろう。

■熟練なのに収入に直結しない不満

逆に、「ミドル・シニア」では、これらの理不尽に悪い意味で慣れてしまっている可能性がある。

「ミドル・シニア」では「若手」に比べて、「給与が労働に見合わない」が5ポイント差で不満が高い。

これについては、トラック輸送ビジネスの構造的な問題がある。

トラックドライバーという仕事の性質上、熟練ドライバーだからと言って、生産性が2倍3倍に跳ね上がることはない。そのため、年功序列的な給与アップには限界がある。

これが、「若手」よりも「ミドル・シニア」が給与に対する不満を感じやすくなる一因ではないだろうか。

■「産業の血液」を滞らせないために

筆者がドライバーとして働いていた30年前の1990年代は、まだドライバーが誇りを持って働くことができる時代だったと思う。

確かに筆者も「お前ら肉体労働者だろ⁉」と蔑まれた経験を何度もしている。

しかし、相応の収入と、何よりも拘束されにくい自由な働き方ができたことから、職業に誇りを持つことができた。

しかし今は、働き方はギチギチに管理され、かつ収入も全産業の平均に比べると依然として安い。残念ながら、職業としての魅力は30年前と同じではない。

こういった待遇を改善するべく、「物流の2024年問題」以降発動した政府の物流革新政策だが、待遇改善の恩恵を実感しているドライバーや、拘束時間や収入アップという形でドライバーに反映できている運送会社は、まだ限られていることが今回のアンケート調査からは明らかになった。

「物流は産業の血液」と言われる。

ドライバーがモノを運ばなければ、すべての経済活動は滞ってしまう。ドライバーの数が減ることは、少子高齢化と人口減少が続く日本社会においては避けることができない。

だからこそ、せめてドライバーという職業を「嫌がられるもの」ではなく、魅力ある職業へと変化させなければならないのだ。

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坂田 良平(さかた・りょうへい)
物流ジャーナリスト、Pavism代表
「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載「日本の物流現場から」(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。
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(物流ジャーナリスト、Pavism代表 坂田 良平)