長門裕之さんと南田洋子さん夫妻

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 俳優の長門裕之さんが77歳で死去したのは、2011年5月21日。ちょうど15年の歳月が流れたことになる。長門さんは芸能界随一の「おしどり夫婦」として知られ、認知症になった妻の故・南田洋子さんを献身的に介護したことでも話題となったが、そこには「裏」もある。長門さんには、妻に対して長年感じていた「負い目」があったのだ……。「週刊新潮」では、南田さんが亡くなった2009年、夫婦の来し方を取材している。長門さんの女性関係と暴露本騒動について記した【前編】に続き、【後編】では、妻に対する「もうひとつの罪」について詳述する。長門・南田夫婦の生きざまを振り返ることは、多くが将来経験する可能性のある「老老介護」生活をスムーズに生き抜くヒントになるはずだ。
【前後編の後編】
(「週刊新潮」2009年11月5日号記事を一部編集の上、再録しました。文中の年齢、肩書き等は当時のものです)

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義父の入浴も介護

 妻に対する夫の“負い目”は、浮気や暴露本騒動だけではなかった。60年に脳溢血で倒れた長門の父・沢村国太郎を、14年間に亘って介護したのが“嫁”の南田さんだった。98年の著書『介護のあのとき』で、彼女は当時をこう回顧する。

長門裕之さんと南田洋子さん夫妻

《目の回るような毎日だった昭和四十年代。スタジオでは眩しいばかりのライトを浴び、当代きっての名優や人気タレントと共演する日々は女優として、最もあぶらの乗り切っていた時期かもしれません。そんな私が女優の仮面を取ったとき、手にはゴム手袋をし、トレーナーの上下を着て、寝たきりの義父の世話をしていたことを何人の人が知っていたでしょう》

 仕事から疲れて戻っても、義父の世話や洗濯物を済ませるまでは休めない。入浴の際、男性自身を元気にさせた義父へのとまどい。そして、こんなこともあった。

《その日はいちだんとひどい汚臭がしています。ちょっと覚悟を決めてお父さんの部屋の戸を開けてみたら、ふとんやシーツに汚物がなすりつけてあるのです。さらに、便の付いた一万円札が散乱しています。(中略)思わず涙が出そうになりましたが、それをこらえて汚れた一万円札をかき集めました。そして、風呂場に飛んでいき水をざぶざぶ掛け、粉石けんで何回も何回も洗いました。(中略)「お父さんね、私洗濯はずいぶんしてきたけど、一万円札を洗ったのは初めてよ」と笑うと、お父さんも久しぶりに声を出して笑いました》

連日の徹マン

 ある時、遅れて楽屋に入った妻から消毒液クレゾールの臭いを嗅いで、長門は“洋子に一生頭が上がらないと思った”という。だが、当時の長門が取ったのは、そんな思いとは裏腹な行動だった。都知事選である候補を一緒に応援しようという誘いを妻が断ると、

《長門は「バカヤロー」と同時に私の頬を叩いたのです。結婚して以来、初めての暴力でした。それは冗談や粋狂のような張り手ではなく、私の軽い体がソファーにふっ飛んでしまうほど強烈なビンタでした》

 耳鼻科で診断を受けると、鼓膜が破裂していた。ある芸能記者からは、こんな話も聞こえてくる。

「夫妻の世田谷の豪邸の地下には、サウナやホームバー、仮眠室まで備えたプレイルームがありました。南田さんが仕事と介護でいっぱいいっぱいだった時期にも、“麻雀命”だった長門さんはそこで連日のように徹マンに耽っていたんです」

 ほかにも、夫が思いつきで始めたステーキハウスの赤字を、妻は陰ながら補填し続けた。夫の“映画道楽”で生まれた4億円もの借金も、妻は我が事として返済に努めたのである。

洋子の復讐が怖い

 もっとも、妻の偉さは当の長門が一番分かっていたようだ。『待ってくれ、洋子』には、こんな一文がある。

《おしどりどころか、まったくのダメ亭主である僕を、唯一無二の夫として愛してくれた洋子。洋子の大きな手のひらの中で、僕はアッチコッチと飛び回っていただけだ。いつも女王様のように鷹揚に構えていた洋子は、妻、女優、家族の介護と、陰でどれぐらい苦しんだんだろう》

『婦人公論』98年5月7日号の手記にある次の一節は、まさに長門の本音だろう。

《(もし自分が介護を受ける立場になった場合)最後の瞬間に行われる洋子の復讐。それが僕は怖い。自分が今までやってきたことがわかるだけに》

 最後の最後に、認知症の南田さんを懸命に介護することで何とか“罪滅ぼし”を果たした長門……彼岸の妻は苦笑しているかもしれない。

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 この記事の2年後、2011年に長門さんは妻の後を追って鬼籍に入った。南田さんより先に逝かなかったことは幸いと言えるだろう。2人は今、東京・中野の高徳寺にある墓地に共に眠っている。あの世では、どのような夫婦を演じているのだろうか。

【前編】では、長門さんの女性関係と暴露本騒動について記している。

デイリー新潮編集部