『名探偵コナン』萩原千速が体現する“令和のヒロイン像” MISIAの主題歌にも通じるテーマ性
劇場公開開始からおよそ1カ月半が経った劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』。5月22日には日本テレビ系『金曜ロードショー』にて冒頭12分の特別公開も実施されるなど、大きな話題を呼んでいる。
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すでに多くの人が鑑賞した同作について、本稿ではネタバレにも踏み込む形で作品のテーマを考察していきたい。とくに今回注目するのは、作中で徹頭徹尾“女性の闘い”が描かれているという点だ。
まずはあらすじから説明すると、同作は謎の黒いバイク“ルシファー”をめぐる事件が勃発し、コナンや神奈川県警の面々が奔走するというストーリー。メインキャラクターを務めるのは、白バイ小隊長の“風の女神様”こと萩原千速だ。
そして作中ではサブキャラクターとして、女子高生探偵・世良真純の活躍シーンも描かれることに。また警視庁交通課コンビの宮本由美と三池苗子も登場し、終盤で活躍を繰り広げる。さらに今回の事件は直接的に行動を起こす犯人と、その裏で糸を引く真犯人の存在によって成り立っているのだが、この2人はいずれも女性だ。
本編以外の要素に関していえば、主題歌は日本を代表する女性歌手のMISIA。エンドロールでは、神奈川県警の女性白バイ隊「ホワイトエンジェルス」に所属する実在の隊員がバイクを走行させる映像が流れている。
こうして見ると、どこまでも徹底して女性の活躍を描こうとした作品であることは一目瞭然だろう。とはいえ、同作の重要なポイントは女性を作品の中心に据えるだけでなく、その描き方に関しても工夫を凝らしていることにある。
※以下、劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』のネタバレを含みます
千速や真純は犯人にさらわれて人質になり、主人公に救い出されるような“守られるヒロイン”ではない。また現場に立つ男性を裏方としてサポートしたり、家族や恋人として男性を励ましたりする“ケア要員”でもない。
むしろ彼女たちは捜査の第一線に自ら繰り出し、勇猛果敢な活躍を見せる役どころだ。誰かを守るために能動的に行動するという意味では、少年マンガのヒーローに近いキャラクター造形といえるかもしれない。
■『ハイウェイの堕天使』千速と真犯人の女性との対比の面白さ とりわけ印象深いのは、千速と真犯人の女性との対比だ。2人とも大切な人を失った過去があり、そのことが人生に暗い影を落としている。しかし真犯人の女性が復讐のために破滅の道を突き進むのに対して、千速は過去という呪いに囚われていない。
もちろん今作では、千速が今は亡き弟・研二とその親友・松田陣平について想いを馳せる姿が何度も描かれている。だが彼女にとって、2人の思い出は自分の背中を押してくれるものだと捉えられている。今後の人生を前向きに生きていくための支えとして、過去の記憶に向き合っているのだ。
“家族愛が自分を縛る鎖になってしまった女性”という犯人像は、一歩間違えると類型的で時代錯誤なイメージにもつながりかねない。そんなキャラクターに対して、家族愛と正義との折り合いを付けながら働く千速を対置しているからこそ、同作は同時代の観客に響く鮮烈なストーリーになっているのではないだろうか。
なお、同作の脚本を担当した大倉崇裕は、これ以前も女性を軸とした物語を描いてきた。たとえば劇場版『ハロウィンの花嫁』は、『ハイウェイの堕天使』と同じく女性を犯人に据えた作品だった。
また同作のキーパーソンとして登場するエレニカ・ラブレンチエワという女性は、大切な家族を亡くしたことで復讐に生きるようになるが、最終的にその呪いを克服する……という役どころだった。ここで示されていたのは、まさに『ハイウェイの堕天使』に通じるようなテーマ性だ。
さまざまな形で女性の強さを描き出しているのが、大倉脚本の何よりも大きな魅力。今後『ハイウェイの堕天使』をリピート鑑賞する人は、あらためてそうした側面に目を向けてみてほしい。(文=キットゥン希美)
