M-1王者、笑い飯・哲夫が生きづらいと感じる人に知ってほしい仏教の4つの言葉

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「人間が死を乗り越えるための本を書いてほしい」

そんな依頼をきっかけに、お笑いコンビ「笑い飯」の哲夫さんが書き上げた『頭を木魚に』が、このたび刊行された。M-1グランプリの王者として知られる一方で、仏教への深い造詣を持つ哲夫さん。この作品は、その豊かな知識が集結した一冊になっている。

刊行のタイミングで実現したインタビュー第1回では、この作品を「死を乗り越える」だけでなく、「死の“誘惑”を乗り越える」という視点を軸にしたと話してくれた。その根底には、現代を生きる私たちが抱える生きづらさや、何気ない日常の中で感じる不条理や自己嫌悪を常々感じているからだと話す。こうした感情に対し、人はどのように向き合えばよいのか……。哲夫さんは小説を通し、仏教の思想を素にしながら、堅苦しくならずユーモアを交えてそのヒントを伝えようとしている。

インタビュー第2回となる本記事では、さらに一歩踏み込んで、小説に込めた仏教的な視点や人生観、そして哲夫さんからの読者へのメッセージをお届けする。物語の根底に流れる哲夫さんの思想を知れば、『頭を木魚に』が単なるフィクションにとどまらない作品であることを感じてもらうことができるかもしれない。

哲夫さんが大切にする仏教の言葉

『頭を木魚に』では、主に終盤、主人公や他の人の言葉として「諸行無常」を始め、物語のキーワードとなる仏教の根本思想が度々、登場してくる。その中でも特に重要なものについて、哲夫さんに改めて解説をしてもらった。

「まずは、最初にもご紹介した 『諸行無常』ですね。これは、すべてのものは移ろいゆく、ということです。世の中の現象や物質は、すべて移り変わっていき、永遠であるものは何一つない、ということ。次に、『諸法無我(しょほうむが)』。これは、すべてのものがそのものとして成立していない、ということ。つまり、すべての物事(命あるものを含めて)は、周りと繋がっていて、周りの変化によって自分も変化し、在り方や考え方が変わっていく、という考え方です。そして『涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)』。これは『諸行無常』と『諸法無我』のことを知って、それらすべてを把握すると、何があっても一喜一憂することなく、安らぎの境地に行ける、ということです。さらに、この3つに加えてもう一つ、仏教の大事な考え方として『一切皆苦(いっさいかいく)』があります。これは、生きてたら必ず苦しいことがあるよ、ってことですね。以上の4つが、仏教では基本となる大事な考え方とされています。

つまり、生きていたら苦しいことや思い通りにならないことがあって、その苦しみを乗り越えるのが仏教のテーマなんですね。そして、苦しいことも必ず移り変わって、やがてしぼんでいくのだと考えたら、いつまでもそこに囚われていることはないのではないか、ということなんです」(「笑い飯」哲夫さん、以下同)

たとえば、作中では息子がお坊さんと話すシーンがある。お坊さんから“あなたが使っている鉛筆も同じ形を留めているかというとそうではありませんよね”と言われた息子は、

色鉛筆の青が好きで、よく使っているとすぐに短くなって、青で絵を描くときにイライラしていたことを思い出す。

(以下、抜粋)“「鉛筆が短くなってイライラしたその気持ちって、今この時間も同じくらいイライラしているかい」こちらの考えていることがわかる人だと思った。「いいえ、今は鉛筆の短さでイライラしていません」「そう、そういうこと。イライラする気持ちにしても、いつまでも続かないの。それが諸行無常。そんな続かないイライラする気持ちって、大事にしたほうがいいと思うかい」「いえ、思いません」”『頭を木魚に』より

息子は自分の体験を通して仏教の思想に馴染んでいる部分もあるようだが、さて、別のところで迷走の旅を続ける主人公は、息子のように「諸行無常」や「諸法無我」の境地にたどり着くことは、あるのだろうか……。

仏教マニアになったきっかけ

自身が仏教マニアになったきっかけについて、哲夫さんは著書『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』(2009年)で、こんなふうに書いている。

(以下、抜粋)“うちの家には仏壇があって、先祖の命日にはいつもお坊さんがいて、仏壇に向かって般若心経を唱えてはりました。普段の言い方でいうと、命日におっさんがきてお経あげてはりました。それを子供の時から、月一回見てきました。ずっと、それどういうことやねん、先祖に何を言うとんねん、また、死んだ人らに向かってどういう意味のことを言うとんねん、と思っていました。その瞬間が、自らに般若心経の内容研究を促してくれたんだと思います。”『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』より

さらに、高校時代、子供の頃に好きだったテレビドラマ『西遊記』の三蔵法師が般若心経を書いた人だと知って驚き、昔から我が家の仏壇の上で安坐しているあの般若心経が、「あんな面白い西遊記に出てくる三蔵法師が書いたなんて、なんてロマンチックやねん」と思ったことが因縁で、般若心経の意味を調べ始めるようになったのだそうだ。

以来、哲夫さんは仏教の奥深さと面白さに魅了され、知識を増やし、その思想をお笑いを通して多くの人たちに届けてきた。そんな哲夫さんはラジオ番組『サタデーナイト仏教』でパーソナリティを務め、「笑って、楽に、ためになる」仏教の知識や考え方をリスナーに届け続けている。

その中でも人気を集めているのが、リスナーから寄せられる悩み相談のコーナーなのだ。

後編「生きづらいなんて人生もったいない。M-1王者、笑い飯・哲夫「これがわかって生きやすくなった」考え方とは」では、そんな悩みに寄り添い続けてきたからこそ見えてきた、現代人の悩みや課題について、哲夫さんが感じていること、そして生きづらさを感じたときに知ってほしい仏教の思想についてお伝えする。

【笑い飯 哲夫】

1974年、奈良県桜井市生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒。2000年に西田幸治と「笑い飯」を結成し、2001年吉本興業に入社。2010年には「M-1グランプリ」で優勝を果たす。コンビとしての活動にとどまらず、自称“仏教マニア”としても知られ、さまざまな番組出演や講演、執筆など多方面でも活躍。著書に『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』『ブッダも笑う仏教のはなし』などがある。

撮影/大坪尚人

ヘアメイク/鎌田亜利紗(アートメイク・トキ)

スタイリスト/黒田匡彦

衣装協力/Psycho Bunny、The DUFFER of St .GEORGE(ジョイックスコーポレーションTel.03-5213-2510)

【後編】生きづらいなんて人生もったいない。M-1王者、笑い飯・哲夫「これがわかって生きやすくなった」考え方とは