宇宙初期の極小銀河で元素組成を詳しく観測 “宇宙の化石”と呼ばれる銀河の起源に迫る
金沢大学の中島王彦准教授をはじめとする国際的な研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測の結果、宇宙誕生から約8億年後(今から約130億年前)の時代に存在した極めて小さな銀河「LAP1-B」から、観測史上最少となる酸素の存在比(水素に対する酸素の割合)を検出したと発表しました。
今回の成果は、現代の宇宙に残る「宇宙の化石」とも呼ばれる天体の形成現場を直接捉えた可能性があるとして注目されています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。

「初代星」の痕跡を探る難しさ
ビッグバン直後の初期宇宙には、水素とヘリウムといった軽い元素しか存在せず、生命の素でもある酸素や炭素などの重元素(水素やヘリウムよりも重い元素の総称)は、その後に誕生した恒星によって作られたと考えられています。
中でも、宇宙で最初に誕生した世代の星である「初代星」が、いつ、どのようにして重元素を作り出し、宇宙空間へと広く拡散させていったのかを探ることは、現代の天文学における最も基本的な課題の一つとなっています。
もしも初代星が作り出した元素の痕跡を直接捉えることができれば、現在の宇宙に見られる銀河や星の成り立ちを理解する大きな手がかりとなります。しかし、初期宇宙に存在する銀河はあまりにも暗く小さいため、その元素組成を詳しく調べることは極めて困難でした。今回ターゲットとなった極小銀河「LAP1-B」も、星の数が少なく、極めて暗い天体です。
重力レンズ効果とウェッブ宇宙望遠鏡で明らかにしたその姿
研究チームによると、今回の研究ではウェッブ宇宙望遠鏡の強力な赤外線分光観測(電磁波の波長ごとの強さの分布であるスペクトルを取得して、その特徴をもとに天体に含まれる元素の種類や量を調べる手法)と、銀河団「MACS J0416」の質量がもたらす重力レンズ効果を組み合わせることで、LAP1-Bの超高感度観測に成功したといいます。
重力レンズ効果とは、手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象です。今回観測されたLAP1-Bからの光は、重力レンズ効果によって約100倍に増幅されて捉えられました。
研究チームが観測データを解析した結果、LAP1-Bの星形成領域(ガスや塵をもとに新たな星が形成されている領域)における酸素存在比(基準となる水素に対する酸素の割合)は、太陽のわずか240分の1程度であることが判明しました。これは、星を生み出している銀河としては観測史上最少の値であり、銀河全体が化学的に極めて原始的な段階にあることを示しています。
また、LAP1-Bは酸素に比べて炭素の割合が極めて高いこともわかりました。研究チームによると、この元素組成は初代星が爆発を起こした際に生じると理論的に予想されてきた元素分布とよく一致しており、初代星によって作り出された元素が初めて銀河へ受け継がれる過程を捉えた可能性があるといいます。


「宇宙の化石」のルーツ解明へ
さらに、LAP1-Bは星の総質量が太陽の3300倍以下と非常に小さく、電磁波では観測できないダークマター(暗黒物質)で質量の大部分が占められていることも明らかになりました。
こうした特徴は、現在の天の川銀河の周辺に存在している「超低光度矮小銀河」(Ultra Faint Dwarf Galaxy、超低輝度矮小銀河とも)によく似ているといいます。超低光度矮小銀河は初期宇宙の情報を保持している「宇宙の化石」と考えられてきた天体ですが、その形成過程の多くは謎に包まれています。
今回の発見は、超低光度矮小銀河が誕生した仕組みを解き明かす上で、重要な糸口になると期待されています。研究チームは今後、さらに酸素存在比の低い天体の探査を進めるとともに、次世代大型望遠鏡などによる高感度な観測を積み重ねることで、初代星そのものが集まって輝く「初代銀河」の同定を目指すということです。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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