漫画「正直不動産」の累計発行部数は400万超(提供)小学館

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 不動産価格の高騰、マンション不足、空き家問題、再開発による街の変化。不動産をめぐる現実そのものが、事件や悲喜劇を生み、エンタメの題材にもなっている。そのひとつ、映画「正直不動産」の試写会に参加してきた。

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 私は映画自体には関わっていないが、原作漫画に企画協力している縁で招待された。

 主人公は、嘘がつけなくなった不動産営業マン・永瀬財地(山下智久)。かつては巧みな話術で契約を取っていた男が、「正直」だけを武器に顧客と向き合う。シンプルだが、不動産業界を描くにはこれ以上ない設定だ。原作は「ビッグコミック」連載中で、累計発行部数は400万部を超える。

 2022年にNHKでドラマ化され評判を得たが、今回の劇場版では物語のスケールが大きくなった。永瀬は顧客が巻き込まれた海外不動産詐欺を追ってアメリカ・テキサスへ渡り、言語や商習慣の壁に直面しながらも正直営業で巨大な不正に立ち向かう。

 一方、日本ではライバル企業・ミネルヴァ不動産との対立が激化。違法すれすれの手段も辞さない鵤聖人(高橋克典)、カリスマ営業・神木涼真(ディーン・フジオカ)らが仕掛ける地上げ問題と対峙する。過疎と巨大開発の現実に、さまざまな思惑が交差する中で、正直営業はどこまで通用するのか。

 スクリーンで久しぶりの永瀬財地と再会した感想は、「相変わらず損な役回りだな」という愛着とともに、不動産業界の闇を真正面から描きながらコメディーと人情のドラマに昇華させた演出と、素材としての原作の持つ底力を改めて実感した。

 ここ数年、不動産を題材にしたコンテンツが目立って増えている。Netflixで世界的ヒットとなった「地面師たち」、ホラー作家・雨穴の「変な家」が広げた間取りホラー、民家内で人が死亡した物件を指す事故物件ホラー、そして相続をめぐる泥沼の人間関係を描く作品たち。

 ジャンルは違っても、根底にあるのは「家」や「土地」への執着と不安である。持てる者と持てない者の分断、情報格差、財産をめぐる家族の亀裂。住まいと資産をめぐる切実さが、人々を不動産エンタメへと引き寄せている気がする。

 社会問題をエンタメに翻訳する作品が増えることは、時代の成熟の証しでもあるし、それだけ現実が追い詰められている裏返しでもある。

 そんな中にあって「正直不動産」は、笑いと知識と誠実さを武器に選んだ。尽きない不動産業界の歪みを描きながらも、不動産は人の営みそのものという本質から目をそらさない。そのバランス感覚に、この作品の強さがある。映画は今週末から公開される。

 (ニュースライター・小野悠史)