Alexandra Chihiro SAKURAI

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第35回Tour Autoが、5月3日から9日にかけて開催された。今年最大のニュースは、5年ぶりとなるグラン・パレへの帰還だ。2000年代から長らくポルト・ド・ヴェルサイユのパヴィヨン6を会場としてきた書類・技術検査が、鉄骨とガラスのボー・ザール建築に戻ってきた。ナポレオン3世時代のパリ万博を起源に持つこの建物は、Tour Auto発祥の源流であるTour de France Automobileとも縁の深い場所だ。19世紀末から競技車両の舞台であり続けたグラン・パレへのカムバックは、単なる会場変更ではなく、イベントの歴史との再接続を意味する。筆者は5月3〜4日のグラン・パレ展示を取材した。5月4日月曜日の昼前には、BMW公式スタンドにて記者会見も行われた。

【画像】まるで博物館!グラン・パレに集った「走ることのできるクラシックカー」の競演(写真35点)

ガラスの天蓋の下に整然と並んだ約240台のクラシックカーは、静止した状態でありながら、すでに圧倒的な密度を放っていた。壁沿いに連なるFerrari 250の各バリアント、BMW 2002の10台超のエントリー、Porsche 356から911、さらにはプロトタイプレーサーまでが肩を並べる光景は、通常の自動車展示会では到底再現できないものだ。観客は各車両に間近まで近づくことができ、エクアトールを一周するような時間の旅が、あのガラスのドームの中で展開されていた。

技術検査を終えた約240台は、5日火曜の早朝にパリ南方約60kmのクーランス城を公式スタートとして西南フランスへと向かう。17世紀初頭に建設が本格化し、18世紀に現在の姿に整えられたこの城館を起点に、5日間・総行程約2,200kmの旅が始まる。終着地はバスク地方ビアリッツの大西洋岸、「シテ・ド・ロセアン」だ。

ルートは10のスペシャルステージと、4つのサーキットでの計時走行で構成される。初日の計時ステージはCircuit de Nevers Magny-Cours。1991年から2008年にかけてフォーミュラ1フランスGPの舞台となったこのコースは、低速テクニカル区間と高速コーナーが組み合わされた設計で、クラシックカーに相応の技量を要求する。3日目はCircuit d'Albi、4日目はピレネー山麓の谷間に位置するCircuit de Pau-Arnos。そして最終日に控えるのが1960年代に開設されたCircuit de Nogaroで、高速複合コーナーと技術的な区間が入り交じるレイアウトが特徴だ。サーキット区間はすべて一般公開・入場無料で観戦できる。

コース中の風景も変化に富む。2日目、オーベルニュのサンシー山塊を越えた先にはオーブラック高原のビュロン・デュ・ブルガ(標高1,160m)での昼食休憩が待つ。3日目はローマ時代の土木技術の粋、ポン・デュ・ガール(ガール水道橋)の真下でパルク・フェルメが開かれ、4日目にはコル・ド・ペイルスールド(標高1,569m)とコル・ダスパンを越えてピレネーの峠に挑む。ビアリッツ到着前には、バスク地方の典型的な集落ラ・バスティッド=クレランスと、地域の象徴的な山ラリューヌの麓での最終ステージが組まれている。

今年イベントが「名誉」車両として掲げるのは、Ferrari 250ファミリーとBMW 2002だ。Ferrari 250は、1950〜60年代のTour de France Automobileにおいて最多勝利を重ねたシリーズとして、このイベントとの歴史的な親和性が最も深い。コロンボ設計の3.0L V12はすべての派生モデルに共通し、今年のエントリーには250 GT SWB、250 GT California LWB、250 GT Berlinetta Lusso、250 MM、さらに1963年型250 GTOの出走も予定されている。ひとつのラリーでこれだけの250バリアントが一堂に会する機会は、世界的にもきわめて稀だ。

BMW 2002は1968年のデビュー以来、「4人乗りのスポーツカー」という概念をコンパクトセダンの形で具体化した一台だ。TIはツインキャブ仕様で120ps、TIIはケーゲルフィッシャー製機械式インジェクション搭載で130psを発揮し、その後のMシリーズへと連なる「駆け抜ける歓び」の源流に位置する。今年のエントリーには標準仕様からアルピーヌ製Gr.2レース仕様まで複数台が名を連ねた。

グラン・パレの展示には、この2台の「主役」以外にも見どころが多い。ル・マン仕様のロングテールを持つPorsche 907 LH、フォードがフェラーリとの「ル・マン戦争」を制したFord GT40、WRCを三連覇したLancia Stratos Gr.IV、そしてFIA GT選手権を戦ったFerrari 308 Gr.IVといったマシンたちが、フランスの一般道と山岳路を自走するために静かに準備を整えていた。Tour Autoとは、走ることのできるクラシックカーだけに許された、フランスという国土そのものを使った生きた博物館だ。

文:櫻井朋成 写真:櫻井アレキサンドラ智優
Words: Tomonari SAKURAI Photography: Alexandra Chihiro SAKURAI