「なんで正月飾りや門松なんて売るんです?」 兄貴分に命令されても「ネット検索」で“ウラを取る”若手ヤクザ 暴力団“ジェネレーションギャップ”の実態
俗に言う“世代間のズレ”というものがある。例えば「昭和世代」と「ゆとり世代(1980年代後半〜2000年代前半)」や「Z世代(1990年代半ば〜2010年代初頭)」のズレが話題になることは多い。仕事やプライベートに関する考え方の違いから、上司がタイパ重視の部下を一方的に横着者だと決めつけたり、上司の熱血指導を部下が威圧的なパワハラと受け取ったり……。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】(全2回の第1回)
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上司と部下の間にズレが生じたのは、育った時代の政治や教育、経済状況や技術環境の違いが原因だ。互いに「ズレが生じたのは時代背景が異なるだけ」と肝に銘じることで世代間の軋轢が軽減されることもある。

だが、「違うものは違う!」、「おかしいものはおかしい!」と上司と部下が激しく衝突し、両者の会話が完全に途絶えた、というケースも珍しくない。
現代の世代間ギャップは、高齢化社会とデジタル社会の影響も大きい。そして“ずれ”が生じるのは学校や職場といった誰もがよく知る場所ばかりではない。実は暴力団業界も例外ではないのだ。暴力団員同士でも、暴力団員と一般人の間でも、様々な“ジェネレーションギャップ”が散見される。
暴力団には一般社会とは異なる作法や哲学がある。多くの場合は物事をわきまえたベテランが新米を指導する。例えばベテランが「正月の飾りや門松を売るのもヤクザの伝統だ」と新人に教えたとしよう。
最近、若手の暴力団員は組長や先輩組員から指導を受けると、すぐにスマホのネット検索で確認する。デジタルネイティブ世代と言われるだけあり、彼らは子供の頃からネットに触れている。
先輩よりネットを信用する若手組員
ごく当たり前のように検索エンジンにアクセスし、組長や先輩の指導が事実に根差しているかどうか“裏を取る”のだ。
正月のお飾りや門松の種類や歴史的意味などの情報は、ネットで検索すれば簡単に表示される。しかし「お飾りや門松を売ることはヤクザの伝統である」という解説はなかなか見つからない。理由は簡単で、そんなことはネット上のどこにもアップされていない。
ヤクザがお飾りや門松を扱うのはその昔、彼らが神主の下働きをしていた時代の名残なのだ。そのためベテランの暴力団員にとっては「カネ儲けのために売るのではない」が常識であり、世俗習慣の保存・継承を担っているという意識が強い。
ところが若手の暴力団員は「先輩が言ったことはネットで裏が取れない」と不信感を抱く。そして「要するにカネ儲けのためにお飾りや門松を売らされるのかよ」と憤慨してしまう。
組長やベテランは「ヤクザには世俗習慣の保存や継承という役目もあることを知ってほしい」、「無闇に暴力や犯罪に手を染めるのではなく、ヤクザである自分たちの原点は何か見つめ直してほしい」という想いから若手に「正月のお飾りや門松を売ってこい」と命じたのだ。
一般人と組員のギャップ
ところが、どんなに丁寧な説明を心がけても、若手は「ネット上に載っているか、載っていないか」を重視する。お飾りと門松とヤクザの意外な関係などどこにも書いていないので「うまい話を持ちかけて若手の自分たちを利用し、儲かったカネを搾取しようとしている」と解釈してしまう。要するにすれ違ってしまったわけだ。
こうした世代間の“溝”は、暴力団員と一般人の間でも目立つようになっている。暴力団は反社会的勢力と呼ばれようと、一般人から相談を持ちかけられることが今もある。
主な内容は警察や弁護士に相談しても「いい社会勉強になったと思って今回は諦めなさい」と諭された詐欺案件や理不尽なトラブルに関するものが多い。
泣き寝入りするぐらいなら暴力団に頼もうとなり、相談を持ちかけられた暴力団は快く引き受ける。だが、その際に一般人が気にするのは「本当にこの暴力団が相談先でいいのか?」という疑問だ。
その後の人生を決める「相談相手」
暴力団と言っても様々な団体がある。警察庁の集計では指定暴力団だけでも全国に25団体。非指定を加えればその数はもっと増える。全暴力団員数は約1万8000人とされている。
これほどの人数ともなれば、相談の内容に関して暴力団の得意・不得意もある。暴力団員の実力差もバラバラだ。極端な例を挙げると、漢字が読めず、字も書けないという暴力団員もいれば、複数の外国語を流暢に操る暴力団員もいる。無職の暴力団員もいれば、実質的に会社を経営している暴力団員もいる。
だからこそ、どの暴力団員に何の相談をするかは、相談者のその後の人生にとっては、まさに運命の分かれ道となる。
暴力団の縄張りが古くからハッキリしている関東では、縄張りを基準に相談先の暴力団を決める場合が多い。縄張り意識が低い地域では既存の人間関係や暴力団それぞれの評判や実績を見て相談するのが一般的だ。
こういう場合、暴力団業界では昔から「ヤクザの器量は人それぞれ」という口伝がある。組の名前、いわゆる“看板”や肩書きと、そのヤクザ自身の実力は別物であり、たとえ小さな暴力団でも誰もが認める一角の人物はいるのだ。
暴力団員と一般人でも“ズレ”
「小さな暴力団だと組織力で大きな暴力団には敵わない」と言う人もいる。だが、いくら大組織だからといっても、所属する者たちが組織の金看板にぶら下がることしか考えず、修行や自己研鑽を怠っていたのなら、それは単なる烏合の衆でしかない。大組織であることがかえって弊害になってしまうだろう。
言い方は色々と可能だが、とにかくヤクザは人による。暴力団員も人による。
その見極めが大事になるわけだが、ここにジェネレーションギャップの問題が加わると、その見極めが一段と不透明なものになってしまう。
つまり近年、この見極めを行う際にインターネットの情報だけを重要視する一般人が増えているのだ。例えばA会とB組を比べた場合、A会のほうが知名度は高く、組員数も多いことがネット検索で分かったとする。すると一般企業を比較するような感覚でB組よりA会のほうが優れていると判断し、「A会の人に相談しよう」と決めてしまう。
相談内容や、相談する相手の実力などは考慮せず、一般人が表面的なネット情報を頼りにして暴力団の「看板」を頼ろうと依頼してしまうのだ。
第2回【「不良外国人から店を守ってください!相談料も払います」 ヤクザ組長がやり手の飲食店オーナーからの頼みを断った“納得の理由”】では、インターネットの検索結果を鵜呑みにし、無礼な相談を行った若き飲食店のオーナーに対し、ベテラン組長はどんな態度を見せたのか、詳しくお伝えする──。
藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』、『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(以上、太田出版)など。
デイリー新潮編集部
