働く障害者への「合理的配慮」模索の10年…専従スタッフ配置や週1回面談など定着支援の工夫
働く障害者への「合理的配慮」が事業主の義務となってから、4月で10年となった。
相談を受ける専従スタッフの配置など障害者が働きやすい環境整備が進むが、配慮を巡るトラブルも起きている。(広瀬誠)
「仕事量は多すぎないですか」。総合人材サービス会社「ランスタッド」のオフィス(東京都豊島区)で3月中旬、社員の石井由佳さん(37)が、精神障害がある石沢良記さん(31)に声をかけていた。石沢さんは「同僚と協力しているので大丈夫」と応じた。
同社は2017年、障害のある社員を支援する専従の担当者を配置。現在は石井さんら6人が「定着支援者」として、日報を基に社員の体調を確認したり、面談したりしている。毎年入社する精神障害者は専従担当者を配置する前の2倍以上に増えたという。
21年に入社した石沢さんは契約書類の確認などを担当。障害の影響で幻聴を感じることがあるが、その際は上司に伝えて作業のペースを落とすことが認められている。石沢さんは「いつでも周囲に相談でき、とても働きやすい」と話す。
2016年から事業主に義務付け
働く障害者への合理的配慮は、日本が14年に障害者権利条約を批准したことに伴い導入された。16年4月施行の改正障害者雇用促進法では、過重な負担にならない範囲で、障害に配慮した施設整備や援助者の配置などを企業や自治体に義務づけ、能力を発揮できる環境を整えるよう求めている。厚生労働省は具体例として▽車いす利用者の机の高さを調節する▽発達障害者への業務指示を明確にする▽知的障害者には習熟度に応じて業務量を徐々に増やす――などを示している。
事業主側は、対応を工夫している。作業用品店を展開する「ハミューレ」(札幌市)では、精神障害者ら18人がレジ打ちや事務補助を担う。会社側は、業務項目を8段階に分けたシートを作成。達成状況や体調を確認する面談を週1回行う。同社人事課の寺田ひかるさんは「シートで自分ができたことを確認できれば、やる気も高まる。人手不足が続く中、多様な人材を受け入れて戦力にすることが大事だ」と語る。
広島県竹原市役所では、対人緊張で来庁者の視線が気になるという職員に配慮し、机の脇にパーティションの設置を認めている。
解雇され「相談体制なかった」と提訴も
一方で、配慮を巡る雇用主と障害者側の摩擦も生じている。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)がある埼玉県の男性(52)は、21年に勤務先の東京国税局から勤務実績が悪いことを理由として、解雇にあたる分限免職処分を受けた。男性は「援助体制などの合理的配慮が欠けたまま処分が行われた」として、処分取り消しを求めて昨年9月、東京地裁に提訴した。
男性は「日常的に上司からどなられ、頭が混乱してミスを繰り返す悪循環だった。第三者に定期的に相談できる体制がなかった」と主張。国税局側は「面談を何度も行うなど配慮は尽くされていた」としている。
全国の公共職業安定所に寄せられた合理的配慮に関する相談件数は24年度が340件で、前年度の1・6倍に増えた。しかし、具体的な相談内容は公表されていない。企業側に問題があれば厚労省は勧告や指導ができるが、「個人情報に関わる」として具体的な事例の中身を明らかにしていない。
障害者雇用に詳しい慶応大の中島隆信名誉教授(経済学)は「どこまで配慮すべきかは曖昧で、事業主と従業員間のトラブルや解決できた事例が参考になる。国は、より現場の参考となる情報を発信すべきだ」と指摘する。
働く障害者、10年前の1・6倍…精神障害者は4・8倍
厚生労働省によると、企業で働く障害者は昨年6月時点で約71万人と、10年前の1・6倍に増加。伸びが大きいのが精神障害者で、4・8倍の約17万人となった。2018年から精神障害者も雇用義務の対象になったことが背景にある。
法定雇用率が今年7月から0・2ポイント増の2・7%に引き上げられ、働く障害者はさらに増える見込みだが、必要な配慮を言い出せない人も少なくない。
一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」(東京)が昨年12月〜今年1月、就労経験がある精神障害者に行ったアンケートでは、回答者181人のうち、8割が働く上で障害による困難を経験していたが、職場に合理的配慮を求めたことがある人は4割にとどまった。求めづらい理由は「トラブルにならないか不安」などだった。
ポルケの山田悠平代表理事(41)は「企業側は担当者や窓口を明確化し、相談しやすい仕組みを作る必要がある」と指摘する。
