「息子さんは会社があるからお嫁さんのほうに、みたいな…」“嫁”として義父母の介護に挑んだ村井理子さんが語る、親の介護で「共倒れ」しない方法は?
〈「女の人が中にいる」寝ている義父をいきなりリモコンで…翻訳家・村井理子さんが語る、義母の介護で「ギョッとした」浮気・物盗られ妄想〉から続く
「どちらさま? 誰かに似ているようですけれど」
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作家の村井理子さんが、認知症になった義理の母の視点で実際に起きた出来事を綴った『全員悪人』(CEメディアハウス)。昨年12月に文庫版が刊行された本作には、支えてくれるヘルパーさんやケアマネさん、家族までもを“見知らぬ悪人”として敵視してしまう認知症当事者のリアルな内面世界が映し出されている。
ここでは、変化していく義母を近くで見守り続けた村井さんに、認知症になる前の義母との関係性や「嫁」に重くのしかかる介護の負担、実際に介護制度を利用して見えた資金管理の重要性などを詳しく伺った。(全2回の2回目/最初から読む)

村井理子さん
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本人は「私は絶対に認知症にならない」って言っていた
――認知症になる前の義理のお義母様は、どんな方だったんでしょうか。
村井理子さん(以下、村井) かなりしっかりした人でしたね。リーダー気質で、本をたくさん読んでいて時事問題に詳しかったし、年齢にしては珍しく社会人経験もあった。主婦としても完璧で、常に家の中はピッカピカでした。
それに、本人は「私は絶対に認知症にならない」って言っていて。8歳年上の義父に「あなたがボケても私が面倒見るから」とも言ってました。それで私も「あーよかった」なんて思ってた。結果、全然そうならなかったんですけど(笑)。ダブル介護になりました。
もしも正気のときに今の状況になるって知っていたら、彼女はやっていけなかったんじゃないかなと思います。それぐらい別人のようになってしまいましたね。
――もともと、それほど「仲の良い嫁姑」という感じではなかったんですよね。
村井 若い頃は義母が何か押し付けてきて、私がそれを拒絶する……の繰り返しでしたね。バッチバチでした。彼女は私のことを半分娘のように思っていて、ただその思いがすごく空回りしてた。例えば「私の思う可愛い服を着せてあげたい」とか。嫁の立場からすると悪夢ですよね。
義母だけじゃなく義父も含めて、他者に対する支配欲みたいなのがすごい強い人たちで、だから当然私にもいろいろ強要があった。家にも突然来るし。夫がいてもいなくても関係なく来る。私1人の時に義父が1人で来たこともあった。
あんまり親の束縛なく育った私からすると、理解できなかったです。うちの母に話したらすごくびっくりしてました。「えっ、そんなことあるの?」って。でも義理の母は年をとるにつれて丸くなってきてましたけどね。これからっていう時の変化だったんで、それも可哀想でした。
介護を負担する覚悟のようなものを固めた「シスターフッド」
――しっかりした方だったからこそ、認知症とわかった時のショックは大きかったでしょうね。
村井 周囲に与える影響は大きかったですね。100パーセント義理の母に依存していた義父が、洗濯物が出てこなくなってご飯も作ってもらえなくなったから、暮らせなくなったんですよ。妻が認知症になってつらいというより、まず家事をする人間がいなくなってつらい……という理由で大打撃だったんだと思います。
同じ女としてそれを見ていて、家事ができなくなったくらいでこんなに否定されるなんて、たまったもんじゃないと思いましたけど。でも確かにどんどん家が荒れていくんですよ。
どこから持ってくるのか、Amazonの段ボールがいつの間にかたくさん増えていて、壁に沿ってバリケードみたいに積まれていく。夜中にずっと物を集めているみたいで、「ホーダー」っていう認知症の症状らしいです。謎の紙の束もどんどん増えていく。すごいですよ。一緒に家に住んでる人にとっては、かなり圧迫感があると思います。
――義理のお母様の介護について、村井さんが関わろうと思った理由の1つに「シスターフッド」があると、別の本に書かれていましたよね。「同じ女として」という気持ちも動機になった?
村井 そうですね。義理の母は服装もきっちりした人だったんですが、自宅で暮らしていた最後の方は身だしなみが整えられなくなっていて、かなりの薄着で外に出てしまうことがありました。トイレの失敗も徐々に増えました。
女としての共感というよりは、そういう女性としての尊厳が損なわれるようなところを見て、「嫌な人だったから面倒見ないわよ」というわけにはいかないなって思いましたね。
あとは、女性のヘルパーさんが来ると義父との浮気を妄想して怒るんだけど、男性のヘルパーさんが来ると義理の母の中で淡い恋に発展しちゃって。そういう時も私は笑って済ませられる。でも夫や義父は全然笑えてない、みたいな。
――それで、介護を負担する覚悟のようなものが固まるんですね。
村井 「介護はプロに任せよう」ってよく言われるけど、結局今の介護制度で100パーセントプロに任せようと思ったら、介護保健の支給限度額は超えてしまいます。超えた分は全額負担になりますから、とんでもない金額になる。それに、介護業界に従事する全員が天使のように良い人たちとも言い切れないし。「家に行った」って報告しながら、行ってない人がいたんですよ。
家族の負担…期待されるのはやっぱり妻であり嫁
――えっ、ヘルパーさんがですか。
村井 そうです。そういうことする人がいるなんて思いもしなかった。厳しい仕事で退職する方も多いので、介護のメンバーは次々変わりますし。だから「プロに任せます」って割り切れない部分はかなりありますね。自分たちでやらざるを得ない。
今って介護制度がすごく充実していて、老人ホームもいくつも種類があるんですよ。でも、どんな施設に入れるかは、最終的にはお金なんですよね。どれくらい自費で払えるかによって、老後の暮らしは全く違ってくると思います。グループホームみたいなところに行けたら、ラッキー。ほとんどの人は、まずは特別養護老人ホームが選択肢になるでしょう。
特養は今、どこも待機人数が多いし、個室はなかなか難しい。それに負担金も上がっていて、介護度が進んだ人が入ろうとすると月10〜15万円ぐらいかかります。それを負担できるかっていうと、できない家庭も多い。
じゃあどうするか? 家族が見る。子どもが、妻が、嫁が……となってくるんですよね。いずれにせよ、誰かが犠牲になる。お金払うのも大変だし、自分で見るのも大変だしっていう。
――そこで「嫁」にも負担がかかってきてしまうんですね。
村井 そう。いくら世の中が変わってきたって言っても、期待されるのはやっぱり妻であり嫁である、っていうのがまだまだありますよね。うちの義理の父なんかもそんな感じで固まってるから。今は施設にいるんですけど、この前夫に「テレビ持ってきてくれ」って言い出して、「お前は仕事で忙しいから、家で仕事をしている理子にやらせればいい」って言ってたらしくて。
――うわー……。
村井 「お前は会社があるからいいよ、嫁に持ってこさせろ」なんて、さらーっと言いますよ。92歳のおじいちゃんなんで、もう抜けないですよ。無視するしかないです。
介護施設側も「息子さんは会社があるでしょうから、じゃあお嫁さんのほうに」みたいな。そういうのが全然普通なんですよ。嫁は専業主婦で家にいますっていうのがベースで動いてる。でなければ動かないシステムになってるから。
最終的にはお金が勝負に…親の資産状況を把握しておく
――少しずつでも変わっていってほしいですね。これから直面する両親の介護のことを考えて、不安に思ってる人も多いと思います。村井さんからアドバイスはありますか。
村井 現実的なアドバイスとしては、親の資産状況を把握しておかないと本当に潰れます。親がどこにどれだけの資産を持っているのか、持っていないのかを知って備えないと、子どもの生活にまで浸食して共倒れしますよ。たとえばどんな老人ホームにどうやって入るかにしたって、最終的にはお金が勝負になってきます。
だから、どれだけ早めに親と話しておけるかが大事になってくる。「そういう時期になってきたけど、どうなってる?」って。
でも50、60になったって、自分が年をとっているって自覚を持ちながら生きてる人の方がやっぱり少ないですよ。「自分だけは絶対倒れない」とか「私は認知症にならない」と思ってる人が大半なので、子どもに言われても「なんでそんなことあんたに言われなきゃいけないの」ってなってしまう。難しいですよね。介護ってどんなに仲の良い親子であっても、仲違いしちゃうものなんです。
70歳になったら介護について一度考える、とかそういう指針があればいいですよね。今って65歳になったら免許返納について一度考えようっていう方針になってるじゃないですか。そういう感じで。ファイナンシャルプランナーならぬ、介護プランナーに相談しながら、5年ごとに介護計画を考えるサービスとかあったら良いビジネスになりそう。
うちも使ったんですけど、有料老人ホームのマッチングサービスはあるんですよ。そういう介護関連のサービスって今すごく増えてきてる。だから早々にそういう業者に相談してみるのも手かもしれないですね。
――確かに、そういう前向きな提案なら言いやすいかもしれません。
村井 ちょっとモデルルームを見に行く感じでね。だって、介護が始まってからの人生も長いですよ。うちだって介護が始まったのは7年前で、こんなに長くなるとは思わなかった。義父は元気なので、多分100歳超えると思います。そういう時代になってきたのかも。
あと、今介護もサブスクになってきていて、グループホームで使用するおむつとかサブスクなんですよ。
介護もサブスクに…想像以上にかかるお金
――え、おむつのサブスク?
村井 一定金額払えば何枚まで使える、みたいな。点数制で金額が上がっていくんですよ。うちは義理の父の金額がめちゃくちゃ高い。どんだけ使うの、このお爺さんと思って(笑)。月に1万7000円ぐらいになるんですよ。それを払わないと、じゃあご家族が持参してくださいって話になる。でもなかなか持っていけないじゃないですか。きれいなビジネスモデルができてますよね。
昨年の秋ごろにグループホームに入所してからはすごく楽になったんです。通院もしなくてよくなったし、正直ほったらかしにできるんですけど、やっぱり利用料がすごくて。早々にショートしそうになってます。どうするかって昨日も夫と話して夜中まで眠れなかった。
年間で数百万円ってなると、ちょっとヤバい数字ですよね。義理の両親は90代で年金が多い世代とはいえ、足りないですよ。彼らの預貯金から補填してるけど、あ、これは近々来るぞ……みたいな。もう2年はキツいなって見えてくる。チキンレースですよね。
――想像以上にお金がかかるんですね……。
村井 みんなかかると思っておいたほうがいいですよ。あるいは、家族が自分の時間を売るか。夜も寝れなくなりますけどね。介護保険制度はうまくできてると思うんですけど、やっぱり家に誰か介護する人がいる前提の補助だから。誰かの犠牲が土台になっているように思えてならないです。
「できたら親に怒っちゃう前に読んでほしい」
2030年問題ってあるじゃないですか。国内人口の3人に1人が65歳以上の高齢者になるっていう。今すでに詰んでるのに、どうなっちゃうんだろう。
――考えれば考えるほど怖いですが、本書『全員悪人』を読むと心構えができる人もいるのではないかと思います。
村井 私もね、言えば言うほど自分はなりたくないって思いますね。これから介護を経験する人もそうだし、介護従事者にも、高齢者にもこの本を読んでほしいです。認知症って正直良いところなんてなくて、なっちゃったら家族も本人も大変なことばかりです。でも、この本の中で予習はできるかなと思います。
できたら親に怒っちゃう前に読んでほしい。認知症の人の大きな特徴の1つに「しつこい」っていうのがあるんですよ。同じことを何度も何度も言ってくる。しかも内容は荒唐無稽で、何言ってるのかわからない。そういうのでフラストレーションが溜まって、子どもがキレちゃう。それをやってしまう前にちょっと立ち止まることができたらいいなと思います。
(「文春オンライン」編集部)
