国特別史跡・熊本城跡(熊本市中央区)は2016年4月14日と16日の熊本地震で被災した。崩落した石垣、倒壊した櫓(やぐら)。震災直後に現地で見た惨状は忘れがたい。あれから10年。復興に向けた工事と発掘調査が続く城を訪ねた。(文・野村大輔、イラスト・河辺瑞樹)

熊本地震から10年を迎える熊本城。まだ震災の爪痕が残る 

 石垣全体の約3割(約2万3600平方メートル)が壊れ、モルタルを吹き付けて応急処置を施した石垣があちこちに残る。特別公開のルートを歩くと、最初に数(す)寄(き)屋(や)丸二階御広間が見えてきた。一部崩れた石垣はそのまま。震災の爪痕は今なお痛々しい。

震災直後の数寄屋丸二階御広間(2016年5月11日撮影) 数寄屋丸二階御広間の石垣は今も壊れたままだ

 肥後入りした加藤清正は1590年に隈本城の改修を始め、1607年に熊本城を完成させた。傾斜や石の形状、積み方が異なる石垣が並ぶ「二様の石垣」。震災前は見上げるだけだったが、特設の空中回廊のおかげで高所から眺められる。

新旧の石垣が並ぶ「二様の石垣」。特別公開では見学通路の上から眺められる

 大小の天守は5年前によみがえった。6階の展望フロアへ。眼下にモルタルだらけの石垣があり、奇妙な石門が目に留まった。石垣の反対側に通じ、中之石門、外之石門と呼ばれる。

天守の石垣も地震で壊れた(2016年5月11日撮影) よみがえった天守。復興のシンボルとなった

 秘密の抜け穴、有事の脱出路…。石門の機能は謎めいていたが、震災後の調査で内部の高さが約1・6メートルと分かった。大人が歩いて通れる。平櫓の方へ延びる江戸時代の排水溝も見つかり、通路と排水を兼ねていたとみられる。

天守から見下ろす石門

 「清正は次々と最新技術を取り入れ、貪欲に城を改善していった。戦いだけではなく、雨風に耐えることも考え、結果的に秘密の通路のようになった」。名古屋市立大の千田嘉博教授(城郭考古学)はこう推測する。

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 宇土櫓は天守の西側に位置する。中核となる高さ約19メートルの五階櫓は、城内に現存する唯一の多層櫓。通常の城郭であれば天守に匹敵する大きさで、「第三の天守」とも称される。

震災後の宇土櫓。続櫓が倒壊した(2016年5月11日撮影)

 付随する続櫓は倒壊。揺れでゆがんだ五階櫓も解体され、昭和の修理以来、100年ぶりに地下部分の穴蔵が姿を現した。素屋根の下で発掘調査が続く。

解体後の宇土櫓。石垣で囲まれた地下空間「穴蔵」があらわになった(昨年8月撮影)

 加藤家は清正の息子、忠広の時に改易。1632年、代わって熊本藩主となった細川忠利は新たな居城を見て「江戸城の他に、これほど広い城を見たことがない」と驚いた。加藤時代の地震で傷んだ城の修理に尽力したという。

 穴蔵の調査では、慶長4(1599)年の年号が記された瓦が出土し、細川時代の石垣修理の痕跡も確認。これまで表面観察で推定されていた石垣修理が考古学的に裏付けられた。

 実は、宇土櫓の建築年代は判然としない。「石垣は1607年前後に造られ始めた」と熊本城調査研究センターの増田直人さん(考古学)は話す。今後の調査で年代を絞り込み、修理歴などが分かれば文化財的な価値は高まるだろう。

 国宝の天守は姫路城や彦根城など全国5カ所だけで、櫓はない。国重要文化財の宇土櫓が「櫓で初めて国宝になる可能性がある」と千田教授は調査成果に期待を寄せる。天守など主要建物が焼失した西南戦争でも奇跡的に残り、1960年の天守再建まで熊本城の“顔”だった宇土櫓。2032年度予定の復旧が待ち遠しい。

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 城内で復旧したのは天守や長塀など一部に限られる。城全体が元通りになるのは52年度の見通し。道のりは長いが、今だからこそ見られる城の姿がある。

解体された馬具櫓では石垣内部を見ることができる

 増田さんのお薦めは行(み)幸(ゆき)橋近くの馬具櫓。石垣の復旧工事が行われており、内部に敷き詰める栗石や盛り土が見える。どうやって大量の石を用意・運搬し、積み上げたのか。重機を前にすると、築城や改修に費やした途方もない労力に驚く。加藤家が築き、細川家が守った城。「この時代に預かった私たちが、どのように次へ渡すか」と増田さん。現在の復興に携わる人々の思いは強い。

重機を使った石垣の復旧工事が続く

 千田教授は震災後の調査の意義を説く。「清正が何に悩み、どこを弱点と捉え、最強の城に到達したのか。その思考の過程が見えてきた」。400年間にわたる人々の熊本城にかける熱意を、あちこちで実感できる。

熊本市役所の展望ロビーから望む熊本城

 メモ 熊本城特別公開の開園時間は午前9時〜午後5時(最終入園は午後4時)。入園料は高校生以上800円、小中学生300円。熊本地震10年に合わせ、4月18、19日は無料開園する。熊本城運営センター=096(223)5011。