貯金9,600万円だが、たまの遠出で「コンビニの130円のお茶」すら買えない…古民家で自給自足生活、年金30万円・72歳元国家公務員夫婦が沈んだ「節約病」の重症【FPが解説】
老後の備えとして「十分な資産」を築いたにもかかわらず、いざそのときを迎えると、わずか1円の減少にさえ恐怖を覚える――。そんな皮肉な状況に陥る高齢者は珍しくありません。70代夫婦の事例とともに、老後不安の背景にある“固定概念”とその乗り越え方について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。
「お金はあるのに使わない」元国家公務員夫婦の暮らしぶり
地方の一軒家で暮らす、元国家公務員の田中正雄さん(仮名/72歳)と妻の和子さん(仮名/73歳)。2人は同じ職場で出会い、長年ともに国家公務員として勤め上げたのち、60歳で定年を迎えました。
現在の年金収入は夫婦合わせて月30万円ほどで、資産は貯蓄と退職金をあわせて約9,600万円あります。一般的に見れば、老後資金としては十分すぎるほどの水準です。
現在2人が暮らしているのは、正雄さんが幼少期から過ごしてきた築100年を超える古民家。最低限の修繕はされているものの、水回りは30年以上そのまま。木製の外壁は変色し、傍からはとても多額の資産を保有している家には見えません。
質素な暮らしを選ぶ背景には、夫婦の徹底した「節約志向」がありました――。
生活費は月15万円以下…徹底した節約の背景にある“恐怖”
正雄さんの家系はもともと農家だったことから、家の脇には広い畑があり、いまでも家庭菜園として活用しています。そのため、野菜が豊富に収穫できる夏〜秋はほとんど自給自足といっても過言ではありません。
肉や魚はスーパーで半額になるタイミングを狙ってまとめ買いし、冷凍保存するのが基本。「お茶は家で淹れるもの」という考えが強く、たまに遠出して喉が渇いても、コンビニで130円のお茶すら「無駄遣い」と感じてしまうほどで、食費は極端に抑えられています。
また、冬場の暖房も、近くの山で拾った薪や枝を使い、煙突ストーブで暖を取るため、電気代や灯油代は真冬でも2万円程度に収まっています。1億円近い貯蓄があるにもかかわらず、ひと月の生活費は15万円にも届きません。
しかし、夫婦は特に苦痛だとは感じていませんでした。2人にとっては、それが当たり前の生活スタイルだったのです。その結果、年金生活に入ってからも資産は減るどころか増え続けていました。
一方で、夫婦の子どもたちは、そんな夫婦の暮らしぶりに違和感を覚えていました。子どもたちは両親の資産状況を詳しく知らなかったため、お盆や正月に帰省しては、「お金に余裕がないのでは」と気遣い「俺たちが払うから、たまには外で食事しよう」と誘っても、「もったいないからいい」と頑なに断られてしまいます。
使えるお金があるにもかかわらず、「使わない」ことを選び続ける夫婦の姿は、節約というよりも「お金を使うことへの恐怖」に近いものでした。
資産があっても満たされない「節約病」の行き着く先
正雄さん夫婦のように、十分な資産を持ちながらもお金を使うことに強い抵抗を感じる人は少なくありません。
背景には、「将来への不安」や「お金は減らしてはいけないもの」という固定概念があります。また、“なんとなく”お金を使うことに抵抗があるから使えないという場合も多いです。
もちろん、質素な生活に満足しているのであれば問題はありません。しかし、「本当は使えるのに使えない」という状態は、「人生の満足度」という視点で考え直してみる必要があります。家族との旅行や外食、趣味など、「資産が十分にあるからこそできること」は多くあるでしょう。こうした経験は、人生の豊かさを大きく左右するものです。
お金は「貯めるためのもの」ではなく、「使うことで価値が生まれるもの」のはずです。生きがいや楽しみを無理につくる必要はありませんが、自分たちの人生において本当に大事なものはなにか、残された人生をどう生きたいのかを立ち止まって考えてみることが重要です。
またこのとき、自分らしい人生を送るために「ライフプランニング」による資金計画が役に立ちます。いつ、どのくらいお金を使いたいのか、何歳時点でどの程度の資産があれば安心か。こうした視点から計画を立て、場合によっては「お金の置き場」として金融商品を活用しながら管理することで、無理なく資産を維持しながら、豊かな暮らしを実現することができるでしょう。
貯まった資産は“豊かに使う”…老後を自分らしく生きるために
総務省「家計調査(高齢夫婦無職世帯)」によると、夫婦のみの無職世帯の平均支出は月25万円程度とされています。一方で、年金収入だけでは不足が生じるケースも多く、老後資金の重要性が指摘されています。
しかし今回のケースのように、資産が十分にあるにもかかわらず「使えない」こともまた問題です。老後の安心とは、単にお金を持っていることではなく、「必要なときに使えること」、そして「納得して使えること」にあります。お金を守ることと同じくらい、「どう使うか」を考えることが、豊かな老後を実現するために欠かせない視点といえるでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
