とても妻には言えません…〈年収650万円・都内勤務〉朝7時過ぎ、スーツに身を包み出勤する49歳夫「いつもの光景」に隠された秘密

写真拡大

都内のIT企業で働く49歳の会社員・鈴木さん。妻と高校生の娘との3人暮らしで、共働きの安定した生活を送っていました。しかし、ここ数ヵ月、彼の「出勤先」は会社ではなく、カフェや図書館に変わっていたといいます。その理由とは――。

平日の朝、カフェに直行した49歳会社員が「まさかの対面」

「あなた、なにやってるの?」

平日、都内のカフェ。ノートパソコンを開いていた鈴木直樹さん(仮名・49歳)は、その声に顔を上げて固まりました。

目の前に立っていたのは、仕事中のはずの妻でした。

鈴木さんは都内のIT関連企業に勤めていました。法人営業として働き、年収は約650万円。妻と高校生の娘との3人暮らしです。

妻もフルタイムで働いており、年収はおよそ360万円。世帯年収は1,000万円強。購入したマンションには住宅ローンが約1,800万円残っていましたが、夫婦二馬力で生活を維持していました。

平穏な生活が破られたのは、3ヵ月前。会社の組織再編に伴い、鈴木さんにはこれまでとは畑違いの部署への異動を告げられました。役職も外れ、業務管理部門に。実質的な“降格”といって差し支えない状態でした。

「一生懸命働いてきたのに、なぜこんな目に」

そう感じた鈴木さんは、退職を選びます。これまでの経験を活かせる環境で働きたいという思いが強かったためですが、納得できないという気持ちもありました。

転職活動をするも、決まらない

しかし、転職活動は想像以上の厳しさでした。書類選考で落ちることがほとんどで、提示される条件も年収で100万円から200万円ほど下がるものが中心でした。

「厳しいだろうとは思っていたけれど、ここまでとは。でも、この条件で決めていいのか?」

焦りと同時に、迷いも生まれていました。安易に決めてしまえば、経歴として後に残る。次の選択肢を狭めるのではないかという不安もあったといいます。

その一方で、鈴木さんはこの状況を妻に一切伝えていませんでした。夫婦別財布だったこと、待期期間のあとに失業保険(雇用保険)も受け取れて、即座にお金に困ることがないことも、“すぐにはバレない”と思った理由です。

「変にプライドがあったんだと思います。前の会社より良いところに転職して、華々しく報告しようなんて思っていたときもありましたね」

これまで大きな失敗なく働いてきた“安定した夫”という評価が崩れることへの抵抗があった――。鈴木さんはそう振り返ります。

その結果、これまで通り“会社員”としての生活を続けることに。退職後も毎朝スーツに着替え、同じ時間に家を出る。ただし向かう先は会社ではなく、カフェや図書館、コワーキングスペースなどです。

求人を探し、応募し、時間をやり過ごす。夕方になればゆっくり移動を始めて帰宅する。そんな毎日に精神は疲弊していました。

「行く場所がないことが、あれほど辛いとは思わなかったです」

「あなた、なにやってるの?」妻の登場に驚愕

一方、妻は妻で、違和感を覚えていたようです。弁当を断る日が増えたこと。帰宅時間が早くなったこと。仕事の話をまったくしなくなったこと。

「やっぱりおかしい。まさか浮気をしているなんてこと、ないわよね?」――有給休暇をとって鈴木さんの後をつけた妻。行先はオフィスではなく、商業施設のカフェでした。

営業職であれば、外出先でパソコンを開くこと自体は珍しくありません。そのため、この時点では「やっぱり仕事かな」と感じていたといいます。ただ、気になったのはその後の様子でした。

コーヒーを飲みながらパソコンを操作するものの、誰かと会う気配はなく、電話をする様子もない。席を立つこともなく、同じ場所に座り続けている――。気づけば、1時間、2時間と時間が過ぎていました。

「これはおかしい」

そう確信した妻は、店に入り、鈴木さんの席へと近づきました。そして、静かに声をかけたのです。

「あなた、なにやってるの?」

鈴木さんは観念し、退職したこと、転職活動が思うように進んでいないこと、日中はこうして過ごしていたことを話しました。

話を聞いた妻は、「浮気かと思ったのよ」と大きなため息をつきました。その様子に、自分の行動がまったく違う意味で受け取られていたことに気づいたといいます。

「変なプライドと心配をかけたくないという気持ちが、結果的には一番不安にさせる形になってしまった。申し訳なかったです」

その後、とにかく仕事を見つけることが先決と妻と相談できたこともあり、鈴木さんは年収約480万円の企業に再就職することにしました。

妻の収入もあるため、収入が下がっても生活そのものが立ち行かなくなる状況は避けられています。ただ、住宅ローンと教育費の負担は変わらないことから、支出の見直しを進めながら、生活水準の調整を行っているといいます。

アラフィフ世代の「甘くない転職事情」―家族と共有することの重要性

公益財団法人産業雇用安定センター「転職経験のあるミドルシニア世代の転職に関する意識調査(2025年、40歳〜59歳対象)」によると、転職先が決まった時期について「離職する前に決まっていた(32.6%)」「離職から1ヵ月〜3ヵ月以内(21.4%)」と早期に決める人も多い一方で、離職から「6ヵ月〜1年以内(7.2%)」「1年経ってから(8.0%)」という人もます。

また、転職で年収がアップした人が46.3%と半数を占める一方で、下がった割合が28.4%にのぼっていることも見逃せません。「すぐに転職を決めたい」「今よりもいい会社に」といった希望が叶わないケースも少なくないのです。

鈴木さんは、「そもそも異動の内示のときに妻に相談していればよかった。惨めに見えても、元の会社で家族のために踏ん張ることも、1つの選択肢だったかもしれません」と振り返ります。

「心配をかけたくなかった」という思いと、「うまくいっていない自分を見せたくない」というプライド。そのどちらも自然な感情ですが、結果として最も近い存在である家族との距離を広げてしまうこともあります。

働き方が不安定になりやすい時代だからこそ、状況そのものだけでなく、「どの段階で共有するか」もまた、人生を左右する重要な判断といえるのかもしれません。