カスハラ対策が10月に義務化へ 理不尽な「キレる客」から従業員を守る“神法改正”の声
サービス大国、日本。これまで「お客様は神様」という名の暗黙の了解のもとで、現場の働き手たちは数々の理不尽に耐え忍んできた。典型的な例としては、欠陥がない商品の交換要求や、スタッフへの物投げ、唾吐き、土下座の強要、さらには長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)などが挙げられる。
こうした怒鳴り散らす、あるいは執ような説教で数時間を奪うカスタマーハラスメント、通称「カスハラ」の被害は、特にコンビニや飲食店で働く若い層を長らく苦しめてきた。
しかし10月1日、ついにその潮目が変わる。労働施策総合推進法の改正により、全業種でカスハラ対策が企業の「雇用管理上の措置義務」となるからである。法改正まで半年余りに迫った今、適切な対策を講じない企業の行政による指導や勧告、社名公表の対象となる時代へのカウントダウンが始まっている。
厚生労働省が提示した指針案によれば、企業には具体的な“柱”が求められている。まず、カスハラに対して毅然(きぜん)とした態度で臨むという方針の明確化と周知だ。次に、相談窓口の設置といった体制の整備、そして実際に被害が発生した際の迅速な事実確認と、被害を受けた労働者へのメンタルケアを含む配慮である。さらには悪質な客への対応を抑止するための具体的な仕組み作りも欠かせない。施行までの限られた時間の中で、店員が一方的に詰め寄られた際に組織が明確な防波堤となるための体制構築が、企業の公的な責務として急務となっている。
法が定めるカスハラの定義も、実態に即して整理が進んでいる。社会通念上許容される範囲を超えた言動として、人格を否定するような中傷や暴言はもちろん、大声を出す威圧的な言動、あるいは対応が著しく困難な不当要求などが挙げられた。現場での判断を助けるため、多くの企業では今後、どのような言動がアウトなのかを示す具体的なマニュアル作成や、研修を通じた意識啓発が必須となる。
また、同時に就職活動中の学生らに対するセクハラ防止策も義務化される。インターンシップでの性的な冗談や私的な食事へのしつこい誘いも厳格に禁止され、若者の労働環境はより多角的に保護される格好だ。
「バイトを辞めずに済む」
ネット上でも、この法改正を歓迎する声があふれ、「ようやくバイトを辞めずに済む環境が整う気がする」「お客様は神様ではなく、対等な契約相手だと法律が認めてくれた」「これで録音や録画を堂々と証拠にできる」「抑止力に期待したい」といった声が目立つ。
現場ではこれまで、一部の悪質なクレーマーに対し、責任者が平身低頭に謝罪し続けることで事態を収拾させようとする風潮が強かった。しかし、これからはそうした「事なかれ主義」こそが、企業側の安全配慮義務違反として指弾されるリスクになり得る。
もっとも、すべてが解決するほど世の中は単純ではないだろう。実効性を確保するためには、各事業分野の特性を踏まえたきめ細やかな対応が必要だ。また、労働者が一人でもいれば対象となるため、中小規模の店舗においてどこまで厚い体制が築けるかという課題も残る。それでも、国が「働く人の尊厳」を守るためにかじを切った事実は重い。理不尽な怒号におびえながらレジに立つ若者がいなくなる未来。「神法案」とも目されるこの改正法が疲弊した現場を救い、健全な接客文化を構築する一歩となるはずだ。
