担任が決まらないまま新学期が始まる異常事態…元校長が明かす「少子化なのに教員不足」が起きるワケ

■部活動は勤務時間に入らない“ボランティア”
クラス減にともない、いくつかの問題が生じていた。その1つが、部活動の存廃だった。
来年度から3クラスになり、さらに2年が経過すれば、全学年が3クラスとなる。つまり、生徒数は現在の4分の3に減る。そうなれば、現在の部活動を維持できないことは明らかだった。わが校には以下の部活動があった。
【文化部】書道、吹奏楽、情報処理、簿記、広報、茶道、ボランティア
どの部活を削減するか。生徒から人気がないもの、つまり部員数が少ないものを対象にするしかない。部員が1名の「剣道部」と、部員が5名の「女子バスケットボール部」「卓球部」が廃止の候補となった。
わが校には、野球部の富田監督のほかにも部活動に人生を捧げている教諭が数名いた。なかでも「女子バスケットボール部」の玄岡監督の“熱さ”は学内にも知れ渡っていた。
30代、本校に来て4年目の玄岡監督は担当する6限目の授業を終えると表情を一変させて部活動へと飛び出していく。授業よりも部活に持てる力のすべてを注ぎ込んでいるように見えた。
部活動において顧問は、練習指導から部費や遠征費の調整、試合の手配、部員のケアまでをこなす。しかもそれは勤務時間に含まれないボランティア(※1)だ。
赴任した当初、部活動に尽力する教師たちの姿を見て、尊敬するとともに疑問を持った。「一銭にもならない」のになぜそこまでできるのだろう?
※1 ボランティア
スポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018年策定)」では部活動を「生徒の自主的・自発的な参加によって行われる、学校教育の一環としての教育活動であり、特別活動の一部を構成するもの」と定義している。
つまり、部活動は「授業」ではなく「教育課程外の教育活動」と位置づけられる。教員に対しては「部活動手当」として月5000円程度が支給されるだけで実質ボランティアといえる。
■教師が部活にハマるワケ
部活動を見守る中で私はいくつかのことに気づいた。部活動には、生徒の成長を間近で感じられる瞬間があるのだ。
女子バスケットボール部の活動でいえば、入部当初パスを受けても戸惑ってばかりだった生徒が、顧問の指導により徐々に力をつけていく。指示を理解し、ポジション取りやシュートがみるみる上達していく。そして、チームの仲間同士で悩み励まし合い、勝利という目標に向かって団結していく。そこには学校の授業では得られない人間ドラマがあふれている。私もだんだんと教員たちが部活にハマっていく(※2)心理を理解できるようになっていった。
※2 部活にハマっていく
他校の校長から、「私は部活の指導だけできたらいい」と断言する教諭の話を聞いた。その校長が「いや、あなたは学校の先生なんだから、まずは授業をがんばらないと」と諭しても本人には刺さらなかったという。どう対応したものかとボヤいていた。
■存在意義が揺らぐ大事件
だから、「女子バスケットボール部」を廃部にするのに迷いがなかったわけではない。しかし、そんなことをいっていれば、物事は進まない。私は学校運営会議で案を示し、職員会議で討議したいと伝えた。

職員会議の数日前のことだった。海斗市の教育長が私に会いたいと言って本校を訪れた。彼とは旧知の間柄だ。世間話もそこそこに教育長が切り出した。
「わが県では数年後に大規模なスポーツ大会が開催予定で、海斗市はバスケットボールの競技会場となるんです。その際には各学校のバスケットボール部関係者が大会運営を手伝います。海斗商業高校の女子バスケ部が廃部になってしまうと、他校の負担が増えるので廃部を思いとどまってほしいのですが……」
教育長の話の途中で気がついた。
「もしかして、玄岡先生から頼まれたんですか?」
教育長も玄岡教諭も県のバスケットボール関連団体の役員に名を連ねていた。
教育長は苦笑いしながらそれに答えず、続けた。
「ほかの部活をなくすとか、なんとかなりませんかね?」
「3年後には生徒数が4分の3になるので、同じように部活も減らさないといけません。部員数からいって女子バスケ部しかないのです」
しばらく堂々めぐりの話が続いた。埒が明かないと思ったのか、教育長は不承不承(ふしょうぶしょう)といった態(てい)で帰っていった。
その翌日、剣道部顧問(※3)の大河原教諭が校長室に直談判に来た。
「校長先生、お願いですから剣道部をどうにか残していただけませんか」
「3年後には生徒数が4分の3になるので……」
私は昨日と同じ説明を繰り返した。部活に命を懸ける教員にとって、廃部は自らの存在意義が揺らぐ大事件なのかもしれない。
※3 剣道部顧問
海斗商業高校はかつて剣道が盛んだったが、人事異動により指導者に恵まれなくなって弱体化し、私の赴任時は休止状態だった。顧問の大河原教諭から「剣道部を復活させたい」という強い要望を受けて復活させた経緯があったため、私も剣道部には思い入れがあった。ただ特別扱いはできないので廃止の俎上に載せざるをえなかった。
■部活再編案の決着
部活動の廃止を議論する職員会議がスタートした。校則を話し合ったときとは違って、明確な反対意見は出てこない。たぶんすべての教員が、生徒数が減るのだから部活動も減らすべきということを理解している。なかには、部活動は大きな負担(※4)になっているのでさらに削減すべきと考えている教員もいるだろう。
それでも玄岡教諭ら削減対象となる部活動顧問の気持ちをおもんぱかり、様子見をしている状態のようだ。私はここで新たな提案をした。
・女子バスケットボール部の玄岡顧問は、男子バスケットボール部顧問を兼務する
剣道部は部員1人で、卓球部は剣道部と同じ武道場で活動していた。バスケ部は顧問が違うからコートを半面ずつ使っていたが、顧問が2つを兼ねれば必要に応じて一面を使える。教員たちの視線が大河原教諭と玄岡教諭に注がれる。彼らの反応をうかがっているのだ。
2人の教諭から反対意見は出なかった。なんとか部活再編案をまとめることができ、肩の荷を下ろせた気がした。

※4 部活動は大きな負担
部活動が教員の長時間労働の要因になっていて、「働き方改革」の流れに逆行していると考える人もいる。教員組合なども「部活動は教育課程外であり、本来の勤務範囲外」とし、教員の長時間労働を是正し、部活を任意・有償にすることを主張している。
■「教員不足なのに、なぜ正規採用しないのか」
「なぜ県は正規の先生をもっと採用しないのですか?」
2学期の終わり、「学校評議員会」で責めるような口調で質問された。
地域住民・保護者・有識者などが評議員として参加する「学校評議員会」は年に1、2回開かれる。校長が学校運営方針や教育活動について説明し、評議員が意見や助言を行なう「助言・意見交換の場」だ。
「正規の先生を採用しても、途中で首を切らなければならなくなるからです」
私がそう答えると、質問した評議員は驚いていた。
案外知られていないが、学校に配置される教職員の人数は法律に定めるルールにより、生徒の数に応じて決まっている。
たとえば、公立高校の学級編成の基準は、「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」〔通称:高校標準法(※5)〕によって規定されている。1クラスの上限人数は40人であり、1学年の生徒数が120人なら3クラス、121人なら4クラス(※6)となる。各クラスに担任の教諭が1人ずつつくほか、生徒数や設置する学科の数や内容などにより、その学校の教員の定数が決められる。
少子化により子どもの数が年々減少し続けている。今の子どもの数にもとづいて正規職員を採用すると、将来、子どもの数が減少した場合に配置できる教員数が「法律によって」減らされるため、解雇しなければならない。そうした場合に備え、全体の2割程度を非正規職員で対応しているというわけだ。
※5 高校標準法
全国の公立高等学校における教育水準の均衡を保ち、地域間格差を是正することを目的として制定された法律。条文で「高等学校の学級の編制の標準は、1学級の生徒数をおおむね40人とする」とされている。
※6 121人なら4クラス
50年以上前、私が小学校低学年のころ、教室の後ろの棚にはすでに引っ越していった級友の名前が貼られたままになっていた。私が教師に「この人は引っ越したよ」と言うと、「これはいいのよ」と言われた。当時は何がいいのかわからず、不思議なことがあるなと思っていたが、1クラス増やし、配属される教員を増やすための裏ワザだったのかもしれない。
■非正規職員探しは校長の仕事
そして、これに関して校長にはたいへんな仕事がある。正規職員については教育人事課が配置してくれるのだが、非正規職員については校長がどこからか探してこないといけないのだ。
わが校では、体育、音楽、美術、書道の4人が臨時教員または非常勤講師だった。
私の2年目、「書道」を担当する臨時教員から「中学校で国語の臨時教員として働くこととしたため、講師を辞めたい」という申し出があった。とても申し訳なさそうな様子だったが、私はそのほうがいいと答えた。臨時教員は1コマいくらという契約だ。「国語」なら週にたくさんの授業があり、1つの学校だけで常勤職員として働いて生活できる。これが「書道」となるとコマ数が少ないため、生活のために複数校を兼務して働かざるをえないのであった。
3月になって教育人事課から人事異動の内示表が来た。非正規職員で対応していた音楽・美術・書道は相変わらず正規職員の配置はなかった。音楽と美術は現任の講師に継続をお願いできたが、書道の後任は私が探さなければならない。
県庁の教育人事課には、就職を希望する非常勤講師の名簿があるのは知っていたので、連絡して名簿を送ってもらい、住所がわが校に近い人から順に電話をかけていった。

1人目の人は「本当ならお受けしたいのですが……」とすまなそうな声を出した。「金曜日は他校での授業を受け持っており、お受けできません」
2人目にかけると、「ぜひぜひ」と前向きで「日程調整して折り返します」ということだったが、3日後に「調整がつきませんでした」と断りの連絡が入った。
3人目と4人目にも断られ、1週間がすぎても教員の手配がつかなかった。新年度まであと3週間。このまま見つからなかったらどうしようと不安になってくる。
■担任が決まらないまま新学期
5人目でようやく受諾してもらえ、ほっとしたが、他校の校長も同様の苦労をしているらしい。とくに英語については、そもそも非常勤講師の数が少なく、教員探しは相当苦労するようだ。
ある高校では、英語の教員がなかなか決まらず、最後は英語塾の講師に臨時の教員免許(※7)を発行して採用したと聞いた。最近では教員数が少ない小学校で担任が決まらないまま新学期が始まることも珍しくなくなった。小・中・高、どこの学校も先生探しに苦労しているのだ。
※7 臨時の教員免許
普通免許状所持者を採用できない場合に限り、例外的に授与する「助教諭」の免許状をいう。似たような事例として、「免許外教科担任」がある。これは、どうしても必要な教科の免許状を持っている教師が採用できない場合に、都道府県教育委員会の許可を受けて、その教科の免許状を有しない教師が当該教科の授業を担任するもの。
■同じ仕事で「150万円の差」はおかしい
子どもの数の減少にともない、正規で採用する教員の数を制限するのは仕方ないだろう。
しかし、「フルタイムでの学級担任」など、非正規教員を正規教員と同じに働かせるのであれば、給料も同じにすべきである。

わがX県の教員の平均年収は約640万円。非正規教員だと常勤講師であっても正規教員とくらべて150万円ほどの差がある。同じ年数働いても昇給が正規教員より遅い。非常勤講師であれば、時給3000円〜4000円でボーナスなどもない。
現場ができることは、任期(基本的に3年間とされていた)が終了する非正規教員が失業しないようにほかの学校にあっせんすることくらいなのだ。結果的に毎年度末になると、求人情報や求職情報のメールが校長間で飛び交う。
民間企業では同一労働同一賃金の原則(※8)の導入と人手不足により、賃金は多少なりとも上昇している。このままだと、非正規教員の中には教員をあきらめ、ほかの仕事に従事する人が増えていくだろう。
タコは空腹になると自分の足を食べるという。人件費抑制のため、教員になりたい人を安価で酷使する現状は、教員を目指す若者を消費し、教育そのものの体力を削っている気がする。
※8 同一労働同一賃金の原則
非正規社員であっても正社員と同じ内容の仕事をしていれば、同じ賃金が支払われるべきという原則。「同じ内容の仕事」が何かを明らかにすることが一般的には難しいとされるが、教員の場合、臨時教員が学級担任をしたりするので、正規職員とほぼ同じ内容といえるだろう。
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川田 公長(かわだ・きみなが)
元県立高校校長
1965年生まれ。大学卒業後、地方公務員として某県県庁に入庁。その後、30年超にわたり行政職として各課に勤務。55歳のとき、教員免許もないまま突如、県立高校の校長への異動を命じられる。
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(元県立高校校長 川田 公長)
