『レンタル・ファミリー』 HIKARI監督&ブレンダン・フレイザー来日インタビュー
もし家族をレンタルできるとしたら、誰を選ぶ?
劇場を出た後、きっとそんな会話がしたくなる映画『レンタル・ファミリー』が2月27日に全国公開されます。
主人公は、東京で暮らす落ちぶれた俳優のフィリップ。自分を見失いかけていた彼が出会ったのは、 家族や友人を貸し出す“レンタル家族”の仕事。最初は戸惑いを隠せなかったものの、他人の人生に入り込み、仮の家族として役割を演じていく中で、彼自身も思いがけない人生の一部を体験していきます。
メガホンをとったのは、2020年公開の映画『37セカンズ』で長編デビューを果たし、Netflixのドラマ「BEEF/ビーフ」に監督として参加したことも話題となった、アメリカを拠点に活躍するHIKARI監督。『ザ・ホエール』で第95回アカデミー賞主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーを主演に迎え、全編日本ロケを敢行したハリウッド作品です。国内外で活躍する平 岳大や山本真理、さらには名優・柄本明らが脇を固め、心温まるヒューマンドラマが完成しました。
ギズモード・ジャパンでは、日本公開を前に凱旋来日したHIKARI監督とフィリップ役のブレンダン・フレイザーにインタビューを実施。兄妹のように仲の良い2人から、作品に込めた思いをたっぷりと伺いました。
初対面で6時間も過ごして築いた関係
――『レンタル・ファミリー』の日本公開おめでとうございます。ブレンダンさんは『ザ・ホエール』でアカデミー賞主演男優賞を受賞された後、出演オファーが殺到したのではないかと想像しますが、なぜこの作品を選んだのですか?
ブレンダン・フレイザー(以下、ブレンダン):実は今作のオファーをいただいたのは、アワードシーズンの数か月前だったんです。あの頃の僕は、まだ“オスカーのブレンダン”ではありませんでした(笑)。とても良いユニークな脚本でしたし、『レンタル・ファミリー』というタイトルも気になって、家族をレンタルするってどういう意味? なぜ家族をレンタルする必要があるんだろう? 倫理的に大丈夫なのだろうか?……など、いろんなことを考えました。
また、これは長年の夢を叶えられるチャンスでもありました。20年以上前に映画のプロモーションで初来日した時から、僕は日本が大好きで、どんな形でもいいから日本で仕事がしたいと密かに熱望していたんです。それも今作に参加したいと思った大きな理由の一つです。
――監督は主人公のフィリップ役をキャスティングする上で、ブレンダンさんのどのようなところに魅力を感じたのでしょうか?
HIKARI監督:ブレンダンは本当に素晴らしい役者さんで、その演技からは、彼の感じていることがすべて伝わってきます。それは私が常に役者さんに求めているクオリティなんです。『ザ・ホエール』の上映後のQ&Aで彼を見たときに、優しそうだな、すごく素敵な人だな、と思いました。みんなに気を遣っていて、「ここにフィリップがいた!」と感じたんです。お友だちになりたい、この人と一緒に仕事したい、という気持ちになりました(笑)
ブレンダン:僕らは初めて会った日に6時間にわたってミーティングをしたのですが、すぐに意気投合したんです。
――6時間も…!
ブレンダン:最初はコーヒー1杯で退散しようと思っていたんだけどね…というのは冗談だよ(笑)
HIKARI監督:私はその間ずっと、引き受けてもらえるかな、いつオファーしようかな、と考えていました。でも、話している時間が楽しくて止められなかったんです。
ブレンダン:そうだったね。僕たちは映画に関係のない話ばかりしていました。もちろん、日本のどのエリアを舞台にするのかといった話も聞きましたが、それ以上に僕が興味を持ったのは、レンタルファミリーというビジネスそのものだったんです。「これは本当に存在するビジネスなの?」と聞いたら、40年ほど前から続いていると言われて。想像力を刺激されて、もっと深く知りたくなりました。
――今作を観るまで、レンタルファミリーのようなビジネスについて知らなかったので驚きました。なぜ監督はこの物語を伝えようと思ったのですか?
HIKARI監督:レンタルガールフレンドとか、添い寝のサービスについては聞いたことがあったのですが、私もレンタルファミリーについては知らなかったんです。実際に家族のメンバーを演じるなんて、不思議だけれど新鮮に感じました。ブレンダンと同じように、なぜこの仕事があるのか、どんな人が利用するのかなど、クエスチョンマークをつけながらリサーチを進めていく中で、とある男性のエピソードを聞いたんです。
その方には疎遠になっている娘さんがいて、過去に起きた出来事について、生きているうちにどうしても謝りたいと願っていたそうです。ただ、連絡手段もなく、どうやってつながればいいのかもわからない。そんな状況の中で、レンタルファミリーのような派遣会社の女性の社長さんが、娘さんの代わりに役者の方を病院へ向かわせました。彼は亡くなる前に「ごめんなさい」と謝ることができたそうです。
その話を聞いたとき、別に嘘でもいいやん、と感じたんですね。彼が謝りたいと思っている時点で、もう償いは終わっている。謝ることで頭を解放して、気持ちよく次のチャプターに行ける。私にはそれで十分だと感じました。そのことがきっかけとなって、このテーマでストーリーを書きたいと思いました。
――“東京在住のアメリカ人”という主人公フィリップの設定は、どのように思いついたのですか?
HIKARI監督:高校時代にアメリカに留学したのですが、周りは白人ばかりで、私は唯一のアジア人でした。孤独を感じたこともあったけど、それ以上に友人たちが家族のような愛情で受け入れてくれたんです。彼らの家族や両親もみんなが受け入れてくれて、それが私にとってのアメリカの第一印象でした。だから、レンタルファミリーというビジネスを通して、日本を舞台にあの頃に感じた優しさを描けたらいいなと考えたんです。
シチュエーションはまったく違いますが、主人公のフィリップもいろんなことに触れていくうちに、もっと知りたい、もっと学びたいと思うようになります。そして、彼が一歩踏み出すことで、周りもどんどん変わっていくんです。ドミノエフェクトというか、人生ってそういうものですよね。隠れていても何も変わらないけれど、前進する人には背中を押してくれる存在が現れ、環境も変わっていく。それを映画として描くことで、世界中で孤独を感じている人がどんどん前に進んで行こうと思えるような、そんなメッセージを与えられたらと思いました。
名優・柄本 明との共演で受けた刺激
――ブレンダンさんは、フィリップ役を演じるために日本語を勉強したそうですね。今も日本語は覚えていますか?
ブレンダン:きっと僕は、君のペットの犬と同じだと思います(笑)。何を話しているのかは理解できるのに、どう返せばいいのかわからないんです。おかしなことに、撮影が終わる頃になって、ようやく日本語が耳に入ってくるようになりました。ネイティブスピーカーに囲まれていると、自然と理解できるようになっていくものなんですよね。
――日本語の台詞が多いフィリップ役を演じてみていかがでしたか?
ブレンダン:僕にとって重要だったのは、単に日本語を学ぶことではなく、ネイティブではない外国人が日本語を話すとどう聞こえるのかということでした。意思疎通はできるものの、深い感情や心情を表現するには言葉が追いつかない。その微妙なニュアンスを意識して演じました。フィリップには、感情を言語化する力がまだ備わっていないのです。
そして、そのような言葉にできないフラストレーションは、フィリップを演じる上で非常に重要な要素でした。それにより、彼の抱える疎外感が増すのです。アパートでひとり過ごす姿を見れば、彼が孤独な男であることは伝わってきます。ただ、彼がなぜ日本に来たのかは明確ではありません。もしかすると誰かとの関係で心に傷を負ったのかもしれない。でも、その理由は、はっきりとは映画の中では知らされていない。
今作では、そんな彼がレンタルファミリーというビジネスと出会い、少しずつ変わっていく姿を描いています。最初は気乗りしなかったフィリップが、たとえ前提が偽りであっても生き生きと役割をこなし、この仕事に自分の適性を見いだしていく。この仕事を通して、初めて正直になれるんです。レンタルファミリーというビジネスが存在する意味も、この映画のタイトルが示すものも、まさにそこにあるのだと思います。
――ブレンダンさんと、ベテラン俳優の喜久雄役を演じた柄本 明さんの共演シーンが特に印象的でした。
ブレンダン:柄本さんは長いキャリアを経た今も、俳優が本来大切にすべき基本的なこと、つまり、観客と意味のある形でつながり、言葉だけではなく感情を届けることを実践しています。そして、役者という仕事に対する深い情熱を失っていません。
彼は劇団を主宰し、毎朝パフォーマンスを行っているんです。僕も観に行ったのですが、本当に素晴らしかったです。僕らがそもそもこの仕事をしている理由を、今も体現し続けている人がいるのだと感動しました。
――柄本さんとは、どのようにコミュニケーションを取っていたのですか?
ブレンダン:柄本さんは喜久雄役を演じるにあたって、僕が日本語を話せるようになった以上に英語を話せるようになったんです。僕たちは、非ネイティブの俳優のために用意された台詞に縛られることなく、お互いに有機的でリアルなコミュニケーションを取ることができました。
同じシーンの相手役として彼にリードされていると、25年以上前にイアン・マッケランと共演したときに抱いた気持ちがよみがえりました(※1998年の映画『ゴッド・アンド・モンスター』で共演)。柄本さんは、まさに日本のイアン・マッケランのような方です。
――アカデミー賞を受賞されたときに、過去にイアン・マッケランさんから受けた助言についてお話しされていましたよね。
ブレンダン:イエス! イアンの教えは、「これが最初で最後だと思って仕事に挑むこと」というものでした。あのアドバイスは今も僕の中に残っています。腕にタトゥーしたいくらいに(笑)。僕の魂のタトゥーなんです。
作品を通して伝えたい、孤独との向き合い方
――今作の登場人物たちが抱える孤独には、多くの人が共感できるのではないかと思います。まるでスパイク・ジョーンズ監督が2013年の映画『her/世界でひとつの彼女』で描いたように、最近では孤独を紛らわせるためにAIと会話する人も少なくありません。お二人が孤独を感じたときは、どのように向き合っていますか?
HIKARI監督:監督という仕事は、実は意外と孤独なんです(笑)。私自身は孤独を感じたら、とことん向き合うようにしています。悲しいときも、うれしいときも、とことん向き合って、体の感覚などをしっかり体験するんです。自分で味わった感覚があれば、次にお芝居するときに役者さんにもお話しできるし、インスピレーションにもなる。ただ、それを無理にするのではなく、あくまでも自然な流れでそうしています。
だから、孤独を感じている人へのアドバイスとしては、自分に向き合うことが一番大切だと思います。まずは向き合ってみて、何が必要なのかを丁寧に感じてみる。それが人とのつながりなのか、好きな食べ物なのか、とにかく自分が少しでも笑顔になれるものを探ってみて。そこからきっと、新しい何かが広がっていくはずです。
――ブレンダンさんは?
ブレンダン:映画を観るのもいいですし、動物は本当に癒してくれる存在だと思います。昔、メキシコで馬に乗って夜間の撮影をしたことがあるのですが、どうしても進んでほしい方向に行ってくれなくて困っていたんです。でも後になって、地面に裂け目があったことがわかり、暗闇の中で馬が僕の命を救ってくれたのだと気づきました。僕はその馬を引き取って、息子にプレゼントしました。
ペットを飼うこと、つまり、話すことができない存在と心を通わせることには、どこか癒されるものがあります。それに、自分の秘密をすべて打ち明けられる相手なんて、他にはいないですよね? 彼らは絶対に口外しませんから(笑)
――確かにそうですね。レンタルファミリーに依頼するとしたら、犬を借りたいです。
ブレンダン:東京なら借りられるんじゃないかな? 僕は東京でカピバラやハリネズミと時間を過ごしました。そのうち動物図鑑を制覇できるかもしれないな。
――もしレンタルファミリーに依頼するとしたら、誰をレンタルしたいですか?
ブレンダン:答えは簡単、姉か妹です。僕は4人兄弟の末っ子なので、男子がどんな悪さをするかはよくわかっています。子どもの頃から、ずっと姉妹が欲しいと思っていました。
HIKARI監督:私はずっとお兄ちゃんが欲しかったのですが、その願いはブレンダンに出会って叶いました。あとは、父親をレンタルしてみたいです。母には何の不満もないですし、とても良い関係なのですが、母子家庭で育ったので、父親がどういう存在なのか2時間だけでも体験してみたいんです。賢いアドバイスをもらったり、銀行口座の開設方法や株のやり方を教えてもらったり…そんなことをお願いしてみたいかな(笑)。
ブレンダン:ピクルスの瓶の蓋を開けてもらうとか、父親の重要な仕事をね(笑)。僕は今作を通じて、HIKARIをはじめとするファミリーと出会うことができました。映画を制作していると、まるで街にやって来るサーカスのように、奇妙な集団が一時的に形成されるんです。そして当然ながら、物事は終わりを迎える。撮影が終われば、みんな散り散りになり、またいつか会えるかもしれないと思ったり、お互いの噂を耳にしたりする。運が良ければ、再び一緒に仕事をする機会もあるかもしれません。
でも、いつだって残るのは、そこにいた証としての作品そのものなんです。映画づくりという行為がどこかジプシーのように儚い一方で、作品には確かな永続性が宿る。僕はそのコントラストが大好きなんです。
『レンタル・ファミリー』は2月27日公開。
Source: レンタル・ファミリー
