ドジャースの大谷翔平【写真:ロイター】

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日ハムの選手教育ディレクター、本村幸雄氏が高校野球監督に転身

 この春、異色の高校野球部が活動を開始する。有名予備校を運営する四谷学院(東京)が、茨城県に校舎を持つ広域通信制高校に硬式野球部を創部するのだ。夏の選手権から、甲子園を目指して戦う予定となっている。監督に就任したのは、プロ野球の日本ハムで選手教育ディレクターを務めた本村幸雄氏。高校野球の指導には、2010年以来16年ぶりの復帰となる。異例のキャリアを歩む中で見てきた、大谷翔平投手(ドジャース)をはじめとした活躍選手、逆に活躍できなかった選手の特徴を教えてもらった。

 本村監督はかつて、光明相模原高(神奈川)の監督を務めていた。この間出会ったのが、選手の目標達成を助けるツール「原田メソッド」だ。大谷が花巻東高時代に目標設定を書き込んでいたシート「オープンウィンドウ64」を知る人も多いだろう。

 四谷学院高の理事に就任した原田隆史氏が考案したもので、選手は自身が立てた目標達成のために何が必要かをこれに記し、日誌で振り返ることを繰り返す。本村監督がこれを導入してからの9年間で、野球部の雰囲気は大きく変わった。やらされる練習がなくなり、選手たちが自身の目標達成のため、主体的に動く姿が目に付くようになった。

 ここに目を付けたのが日本ハムだった。3年間にわたって口説かれた本村監督は教師を辞し、2011年から今季まで15年間、千葉県鎌ケ谷市にある日本ハムの球団寮で若手選手の教育を担当した。そこで出会った1人が大谷だ。花巻東高でもこのメソッドを導入しており、目標設定や日誌の記入は手慣れたものだったという。

「入団してきたときには、もう自立していたわけです。高校でずっとやっていたので、プロでも同じことをしていただけと言えるのかもしれません。ただ、彼がすごいのは、やると決めたことは絶対やり切ります。それが一番でした」

 大谷は花巻東高時代に「8球団からのドラフト1位指名」を目標とした。そのために必要な要素として体づくり、コントロール、キレ、球速160キロ、変化球、メンタル、人間性、運を掲げ、それぞれを向上させるための具体策まで「オープンウィンドウ64」に書き込んでいった。大リーグ志望を打ち出したためにドラフトでの指名は1球団にとどまったものの、ほとんどを叶えてプロへの扉を叩いた。では、日本ハムに入ってから作成したシートには、一体何を書き込んでいたのか。

「目標が変わるので、中身は全然違います。プロへは二刀流として入ってきたから、もちろん目標は二刀流でした。打率と勝利数で具体化していたのは覚えています」

目標設定をきちんとできない選手は「一発屋が多かった」

 2013年にドラフト1位で日本ハム入りした大谷は、開幕戦に右翼手としてスタメン出場するなど、1年目からほぼ1軍に帯同していた。そのため本村監督が目標シートの提出を求めたのは1年目だけだった。任せられるだけの素養をすでに備えていたため「基本的に、あまり人に見せませんでしたね。2年目からは『紙ください』って自分から言いに来るだけだった」。言われなくても、新たな目標を見つけて進化していく。さらに記入したシートの縮小コピーをとっていた。

「そういうところもやっぱり人と違いました。だいたいみんな部屋に貼って終わりなんだけど、彼はちゃんと手帳にも貼っていた。あとはタイムマネジメントが上手で、無駄がないんです」

 目標をかなえるための道筋も、まっすぐだった。「何をやるかっていう計画を立てているから、そこが全くブレなかった」。先輩からの誘いがポンと入っても、自分がやるべきことを優先する姿を何度も見た。「ちょっと行ってきます、ってなりがちなところだけど、一切それがなかった。だから世界一にもなれたんだろうと……」。

 大谷であまりにも有名になったこの目標設定法だが、本村監督がいた時代に入団してきた日本ハムの選手は全員が取り組んでいた。いつしか、選手の活躍と取り組み方の濃淡が目につくようになる。「近藤(健介=ソフトバンク)とか、有原(航平=日本ハム)とかもすごかった。ちゃんとできる選手は野球でも成績を残せるし、できない選手は活躍できない傾向があるというのは感じましたね。あと……」と続けるのは、成功できる、できないを分けた違いだ。

「できない選手は一発屋が多かった。早く花が咲いても続かない。そういう選手たちを見ていると、自ら取り組むことがすごく大事なんだというのに改めて気付きました。1軍で長く活躍する選手は、やらされてる感もないんです」

 さらに、やらされ感が出ている選手の目標設定を見ると、共通点があった。「同じことを書く」のだという。「5年目も1年目と同じ内容を書いたりする選手もいる。ということは、成長できていないということなんです」。選手の取り組みが浮き彫りになるこのメソッドが、今春からは四谷学院高の選手たちにも導入される。伸び盛りの選手はどのような成長を遂げるだろうか。

(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)