『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』©︎フジテレビ

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 11月19日に放送された『もしがく』こと『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)。物語も終盤に差し掛かった第9話にして、第1話以来の30分拡大放送となった。ところがオープニングから『出没!アド街ック天国』(テレ東系)風に八分坂横丁の紹介をしながら、これまでの簡潔なダイジェストをたっぷり3分以上見せる(そもそも『アド街』は1995年スタートの番組なので、1984年の舞台設定で当時の風俗にこだわった作風と齟齬が生じてしまっているのだが)。

参考:小栗旬、『もしがく』に蜷川幸雄役で出演 「このような役をお受けする日が来るとは」

 やっと本筋が始まれば、前回のトロ(生田斗真)との一件をもって急速に距離が縮まった久部(菅田将暉)とリカ(二階堂ふみ)が客席と舞台を使って夢を語るロマンスの模様が、これまたたっぷりと間を持たせて描写されていく。普段のようなテンポ感とは違う序盤、いったいどういうことかと思っていれば、観進めていくうちになんとなくその意図がわかってくる。今回は、オーナーのジェシー(シルビア・グラブ)に頼まれた危険な仕事で、公演直前に出なければいけないくなったトニー(市原隼人)を、舞台の幕を開けながら待つというエピソードだ。

 いつも通り里奈(福井夏)に踊ってもらって開演時間を遅らせたり、タイトにしていたセリフの間を充分に取り直してみたり、一度カットしたはずのおばば(菊地凛子)の出演シーンを復活させたり、フォルモン(西村瑞樹)とパトラ(アンミカ)で漫才をしたり、雪を降らせたり。さまざまな策を講じて、トニーの戻りを待つ。あたかもエピソード全体を使って、その間延びした――なにが起こるかわからないし、なんでもありの舞台を視聴者にも体験させるといったところだろうか。

 なので当然のように、トニーがWS劇場に戻ってきたら一気に混沌とした、それでいて器用に情緒を織り交ぜたいつもの『もしがく』へと回帰する。トニーを追って劇場に警察がやってくる。引き渡せば今後の公演に支障をきたすことから逃がそうとする久部だったが、トニーは自首することを決意。大粒の涙を浮かべながら久部に謝りながら、カセットテープを託すトニー。そして劇場に火種がいかないようにと、トニーをストリップを観にきた客と見立てて全員で大芝居に打って出るのである。

 ドラマ開始当初は強面で寡黙で、常に気怠そうな男だったトニーが、久部の舞台に役者として抜擢されることで変わっていく。誰よりもストイックに練習に打ち込み、今回明らかにされたように本番前にはウォーミングアップや瞑想を欠かさない。演劇によって以前とは別人のように変わった男が、過去の自分自身に与えられた抗うことのできない役回りによって劇場からドロップアウトせざるを得ないという宿命がもたらす悲哀。

 これはうる爺(井上順)やはるお(大水洋介)にも共通していたものであり、それはもしかすると、WS劇場自体にも振りかかってくるように思えてならない。いずれにせよ、トニーはこのドラマの大勢いる登場人物のなかでもっともドラマティックな存在であったことはいうまでもないだろう。大芝居のなかでパトラから平手打ちをされた時の表情、もちろん連行されていった後のパトラの苦しげな表情も然り。“もう一人の主役”と呼ぶべきトニーの再登場を願っておきたい。(文=久保田和馬)