『ばけばけ』髙石あかり×北川景子が放つ“親子”の温もり トキとヘブンの確かな一歩も
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第39話では、ヘブン(トミー・バストウ)の家で女中として働き始めたトキ(髙石あかり)が、“武家の娘としての自分”をもう一度見つめ直そうとする姿が描かれた。失敗を繰り返しながらも必死に前へ進もうとするその姿は、これまで以上にトキという人物のひたむきさと健気さを際立たせていた。
参考:『ばけばけ』第40話、小谷(下川恭平)、正木(日高由起刀)、丈(杉田雷麟)とクイズ大会
女中としての仕事はまだ不慣れなトキだが、生け花の心得や細やかな気遣いがヘブンの目に留まり、少しずつ評価を得始めていた。ヘブンが片言の日本語で「モア、ブシムスメ ネガイマス」と伝えると、トキも負けじと理解しようと努める。言葉は通じにくくとも、互いに歩み寄ろうとする姿がどこか微笑ましい。
そこでトキは、ヘブンの期待にどうにか応えようと生け花やお茶をもう一度きちんと身につけようと決意し、タエ(北川景子)を訪ねる。久しぶりの再会に、タエは女中を介さず自らお茶を用意するという変化を見せ、トキを驚かせる。さらには、三之丞(板垣李光人)が社長になったという話まで飛び出し、二人の会話には久方ぶりの温もりが満ちていた。パイナップルを前に悪戦苦闘しながらも一緒に笑い合い、最後は豪快にかぶりつく二人の姿は、これまでの親子のしんどさを忘れるほどの柔らかい時間だった。トキにもタエにも、確かに笑顔が戻っていた。タエがようやく前を向き始めたことに気づいたトキは、ほっと胸を撫で下ろす。嬉しさのあまり、帰り道ではできないスキップをぎこちなく踏みながら喜びを噛みしめる姿も微笑ましい。
そんなある日、ヘブンのシャツを丁寧にアイロンがけしていたトキは、自らの技術が少しずつ上達してきたことに小さな自信をのぞかせていた。武家の娘として身につけた所作や気遣いが、ようやく仕事として形になり始めているという実感もあっただろう。しかしそこへ、糸蒟蒻を手にしたウメ(野内まる)が突然訪ねてくる。急に来客が現れたことで焦ったトキは、慌ててアイロンをシャツに置いたまま対応してしまい、気づいたときには衣類が焦げ、家中に白い煙が充満。自分の不注意で大切なものを台無しにしてしまったと青ざめるトキ。女中としての自信が一瞬で崩れ落ちるような気持ちだったはずだ。しかし、そんなトキを前にヘブンは怒鳴るでもなく、失敗を責めるでもなく、落ち着いた声で「ケガ、ナイ?」とトキとウメの身を案じる言葉をかける。叱られると思っていた場面で差し出された思いやりは、トキにとって何よりの救いであり、ほんの少しずつ築かれていく信頼の確かな一歩となっていた。
そんな第39話の空気感を表していたのが、ラストに描かれた松野家がパイナップルに悪戦苦闘している場面だ。葉がまげに似ているだの、ペリーが食べたものは口にできないだの、あれこれ話しながら不慣れな南国の果物に四苦八苦する一家。結局は笑い合いながらかぶりつく姿がなんとも微笑ましく、重さのあった物語にふっと温かい息を吹き込む締めくくりとなっていた。
ヘブンのまっすぐな優しさと、タエとの再びつながり直す時間。トキが女中としての成長と武家の娘としての誇りのあいだで揺れながら、少しずつ自分の居場所を築いていく姿が丁寧に綴られた回だった。(文=川崎龍也)

