RSK

写真拡大

宿泊客など10人の女性が被害に

自身が経営する岡山県里庄町のゲストハウスで、宿泊客など女性9人に睡眠作用などのある薬物を飲ませて、性的暴行を加えるなどしたほか、女性客1人を盗撮した罪などに問われている男の裁判です。

【写真を見る】送検時にサムズアップする男(51)

9月24日、岡山地裁は懲役26年(求刑懲役28年)の判決を言い渡しました。

判決を受けたのは、里庄町のゲストハウス経営の男(51)です。準強制性交等、準強制わいせつ、準強制わいせつ未遂、岡山県迷惑行為防止条例違反の4つの罪に問われています。

送検時に男はテレビカメラを見つけると、テレビカメラに向かって親指を立てていました【画像①】。

岡山県里庄町 オーナーの男は女性泊客をターゲットに

人口約1.1万の町・岡山県南西部にある里庄町【画像②】でゲストハウスを経営していた男。

判決などによりますと、男は2018年から2022年の間に、自身が経営するゲストハウス【画像③】の宿泊客など女性あわせて9人に、睡眠作用などがある薬物をカクテルなどに混ぜて摂取させて抵抗できない状態にし、性的暴行やわいせつな行為などをしたほか、女性客1人を盗撮したとされています。

今年6月3日の裁判で男は、
「当時は『黒い影』から脅迫され、命令されていた」
「犯行当時は記憶がない」
「犯行時は心神喪失状態だった」

と2024年の初公判から一貫して、“無罪”を主張していて、責任能力の有無が争点となっていました。

※関連記事(これまでの裁判傍聴録より)
【第1回】「きっかけは約20年前 そして知人女性に」
【第2回】「検察が指摘する『計画的かつ狡猾な手口』とは」
【第3回】 「心も体も踏みにじられた」女性客の訴え
から続く

検察が指摘 ゲストハウスは「性欲を満たすための罠」

これまでの裁判で、検察は、

「ゲストハウスを性欲を満たすための罠として利用した」
「他に類を見ない極めて卑劣で悪質な犯行」
「被告は『黒い影に命令されていた』などと荒唐無稽な弁解に終始し、規範意識は根本から欠如している」

などと指摘。

男に反省の態度が一切見られず、再犯のおそれが大きいことから、徹底した矯正が必要だと主張していました。

弁護側は「精神疾患の影響」と無罪を主張

一方で男は、最終陳述で
「当時は黒い影から脅迫、命令されていた」
「犯行当時は記憶がない」
「心を深く傷つけ、大変申し訳ないことをしたと反省しています」

などと手元のメモを確認しながら述べました。

弁護側は、

「当時、精神疾患の影響で善悪の判断がつかず、自分の行動をコントロールできない状態だった」

として、改めて“無罪”を主張していました。

裁判長「幻覚・妄想等の、異常な事柄が介在した形跡はうかがえない」

2025年9月24日に行われた判決公判に、男は「グレーと黒のツートーンのトップス」「グレーのジャージ」「マスク姿」で入廷しました【画像⑤】。

男は弁護人の前に着席したのち、無表情で一度傍聴席を見渡し、その後は真っすぐ前を向いていました。

9月24日の判決公判で、岡山地裁の本村曉宏裁判長は、

「男は、被害者に対して密かに睡眠作用などを有する薬物を摂取させ、抗拒不能の状態に陥らせた上で性行為に及んだり、その様子を撮影して被害者の氏名等に応じた名前のフォルダに保存するなど、目的達成のために極めて合理的に行動」

「幻覚・妄想等の、異常な事柄が介在した形跡はうかがえない」

などとしました。

「意識障害に陥っていたのであれば、『黒い影』の支持には従えない」

男が供述する「黒い影」についても触れ、

「意識障害に陥っていたのであれば、『黒い影』の指示に従えない」

「客観的な証拠があることから、行為自体を争えないものについて精神障害の主張を都合よくしている様子もうかがわれる」

などから、男が精神障害の主張を都合よくしている様子もうかがえ、犯行時に精神に障害があったとの疑いは一切生じないとして、男には完全責任能力があったと認定しました。

さらに裁判長は「目を背けたくなるおぞましさ」とも

また量刑について、岡山地裁の本村曉宏裁判長は、

「缶酎ハイやカクテルに入れるなどして、巧妙に女性に摂取させて抗拒不能の状態にさせて、性交やわいせつ行為に及ぶことを繰り返している」

「自宅や自ら経営するゲストハウス【画像⑥】という、他社の監視が及ばない場所において、被害者らの身体等に不足の危害をもたらすかもしれない方法を用いて各犯行に及び、その様子を逐一映像に残していた」

「被害者らの尊厳を無視した悪質極まりない犯行であり、その開業直後から犯行が繰り返されたゲストハウスは、被告人が自らの犯行のために用意した舞台装置であったとすら考えられる」

「一人旅を楽しもうとする女性たちを次々に誘い込み、その毒牙にかけていく様は、目を背けたくなるおぞましさである」

などと指摘しました。

「被害者らの楽しい思い出は、思い出したくもない悪夢に」

さらに本村裁判長は、被害にあった女性たちについても触れ、

「被害者らの楽しい思い出は、捜査機関から事実を知らされたときから思い出したくもない悪夢に転じたのであり、その精神的苦痛は甚大なものである」

「ゲストハウスに泊まったこと自体を非難されたり、宿泊場所の選択を悔んだりするなど、必要のない心痛にさいなまれている」

「被害がなければとても良い思い出になったはずが、嫌な思い出に変わってしまった、どれだけ時間が経ってもこの出来事をなかったことにすることはできないなどと述べ、一様に被告人の厳罰を求めるのも当然のことである」

などと述べました。

「刑を軽くすべき事情は見当たらない」男に下された判決は?

さらに、悪質な犯行を常習的に繰り返す男について、

「この種事犯に対する規範意識は微塵も感じられず、男に前科前歴がないことを踏まえても、自らの欲望のみに従って、被害者らを都合の良い物として扱う自己中心的な態度には、極めて厳しい非難が向けられなければならない」

「黒い影なる幻覚に命令されて一連の犯行に及んだ、などと荒唐無稽な弁解に終始し、反省はおろか、自らの責任と向き合うことすらせず、そのような態度が被害者らの心情を傷付け続けていることなども考慮すれば、一般情状において、量刑を軽くすべき事情は見当たらない」

などとして、懲役28年の求刑に対し、懲役26年の判決を言い渡しました。

判決を受けた男は、表情は変わりませんでしたが、控訴の説明を受けると、小さくうなずき、無言で法廷を後にしました。

男は判決を不服として、9月25日に控訴しています。

※関連記事(これまでの裁判傍聴録より)
【第1回】「きっかけは約20年前 そして知人女性に」
【第2回】「検察が指摘する『計画的かつ狡猾な手口』とは」
【第3回】「心も体も踏みにじられた」女性客の訴え