企業のリアルを知りたい、という要望に応えるクチコミサイトが増えている。採用マーケティングサービスを提供するダトラ社長の草深悠介さんは「ネガティブなコメントは求職者の企業選びに大きく影響する。普段から自社に対してどのようなクチコミがあるのか定期的に確認したほうがいいだろう」という――。

※本稿は、草深悠介『採用マーケティングの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Thapana Onphalai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thapana Onphalai

ネガティブな書き込み、どうすればいい?

IT業 D社の相談
Q 取引先の営業担当者から、「クチコミサイトに御社の業務について悪い書き込みがあった」という指摘を受けました。調べてみると求人に関するサイトで、一部にあまり良くない評判が書かれていました。営業活動はもちろん、採用にも悪影響がありそうです。どのような対策が必要でしょうか?

A 問題解決のポイント
クチコミサイトのネガティブコメントは、企業にとって大きな影響を与える可能性があります。STEP1でクチコミの内容が求職者に与える影響について解説します。また、STEP2では、適切な対策を講じることで、ネガティブな影響を最小限に抑え、企業のイメージ回復を図る方法について解説します。

■求職者がクチコミを確認するのは当たり前

商品の購入や飲食店を選ぶ際に、ネット上の「クチコミ」を参照する人は少なくありません。メーカーや店舗の宣伝文句だけではわからない情報源として、利用者のリアルな感想は大いに参考になるからです。

それは会社選びにおいても同様です。求職者は応募の際に、企業に関するクチコミサイトを確認する人が増えています。会社選びは、商品の選択以上に「失敗したくない」と考えるのは当然のことで、慎重になるのも当然です。

図表1にもあるように、全体の半数、20代では6割近くの人がクチコミサイトを「見る」と回答、年代が低いほどクチコミを確認していることがわかります。

出所=『採用マーケティングの教科書』

■「社内の人間だけが知らない」はまずい

クチコミサイトを見ると回答した人の9割が応募前に確認していることもわかりました。そして、クチコミの影響で応募を「辞めた」と回答した人は、実に7割近くもいるのです(図表2参照)。

出所=『採用マーケティングの教科書』

このように、クチコミにネガティブな情報が書き込まれている場合、応募者数に大きな影響を与えますし、普段から自社に対してどのようなクチコミがあるのか確認していないと、気づかないまま採用の機会損失になっている可能性もあるわけです。

クチコミサイトには、転職会議、キャリコネ、OpenWork、ライトハウスなど、採用に特化した「採用系クチコミサイト」と呼ばれるものと、Googleマップなどの採用系ではないものもあります。

まずは、「会社名+クチコミ」のキーワードで検索して採用系クチコミサイトを確認します。中小企業であればクチコミの数もそう多くはないため、定期的にチェックしておきましょう。

■事実と異なる内容には毅然と対応する

採用系クチコミサイトに書き込んだり、投稿された内容すべてを読むためにはサイトに登録する必要があります。投稿者も事前に個人情報を入れて登録しているわけですから、誹謗中傷や虚偽の投稿は基本的にはありません。

それでも、会社への不満などネガティブなクチコミがあれば、「いいね」や「参考になった」をチェックする人は多く、上位に表示されてしまいがちです。

万が一虚偽の内容、例えば「残業代の未払いがあった」や「パワハラを受けた」などの投稿があり、それが事実と異なる場合は運営者に削除依頼をするなど、毅然とした態度で臨みましょう。

そしてまた、虚偽の書き込みによって企業のイメージを著しく損なう場合、業務妨害や名誉毀損に該当する可能性があります。削除依頼が受け入れられない場合は顧問弁護士等に相談し、法的対応を検討する必要もあります。

■否定的な返信は火に油を注ぐだけ

一方のGoogleマップなどに投稿されたクチコミは、会社側から返信することが可能です。返信する際は、書き込み内容を否定するのではなく、「ご意見ありがとうございます……」など丁寧に接することが肝心です。

わざわざクチコミを投稿する人には会社に対するネガティブな感情がありますが、書き込むことによって、ある程度は悪感情が収まっている状態にあります。否定的な返信をするのは、再び悪感情の火に油を注ぐようなものです。

最悪なのは、企業と投稿者で意見の応酬が始まってしまうことです。企業からの反論に対して、さらに投稿者から辛辣な意見が書き込まれれば、自社のクチコミが荒れるだけです。

■「見てますよ」というメッセージを送る

あくまで返信する目的は、投稿者の意見を正すことでないことを認識しましょう。「会社の人間も見ていますよ」ということを知らせればよいのです。投稿者は会社の人間は誰も見ていないだろうと思って辛辣なことを書いている可能性も高く、「見ていること」「真摯に受け止めていること」を知ってもらうことが重要です。

草深悠介『採用マーケティングの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)

一方で、投稿者のコメントの内容が事実であれば、その問題に対する具体的な改善策を講じて企業の透明性をアピールします。例えば、労働時間に関するネガティブコメントがあれば、残業時間の削減、ワークライフバランスの改善などの対策を講じることをアピールします。

「ご意見は社内で共有させていただき、今後はこのようなことがないよう対策を講じていきます」など返信しておくと、投稿者のみならずクチコミを見た人にも好印象を与えることができます。

そして、コーポレートサイトや採用サイト上で、企業としてどのような対応をとったのかを公表します。改善策を具体的に示すことで、求職者に対する誠意を示すことができます。

■「放置」しない姿勢が評価される

以下の調査において、数は多くはありませんが「社員クチコミへの企業からの返信(コメント)がある」ことで、「選考に進みたい」と約10%の人が回答しています(図表3)。クチコミサイトの投稿内容に関して、会社ができる対策は限られているものです。それでも、決して「放置」はしないことが、もっとも効果的な対策といえるでしょう。

出所=『採用マーケティングの教科書』

クチコミによる厳しい意見は、誰もがネガティブな印象を受けるとは限りません。例えば、「報酬重視」タイプの営業力や稼げる自信がある人にとっては、多少ノルマは厳しくとも、そのぶん報酬が高ければ魅力的な会社に映ります。

逆にワークライフバランスを重視するタイプにとっては、「働きたくない会社」に見えるでしょう。このように、クチコミによって「入社後の自分の姿」をより明確にイメージできるようになるため、採用のミスマッチを防ぐことにもつながるわけです。

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草深 悠介(くさふか・ゆうすけ)
ダトラ社長
大学卒業後にオーストラリアへ渡航し、現地で広告営業に従事。2004年に帰国後、株式会社リクルートに入社し、ブライダル領域でのキャリアをスタートさせる。2011年には株式会社ユニクエスト・オンラインにて、主力事業「小さなお葬式」の取締役として事業責任者を務める。2014年、株式会社ダトラを創業。以降、Webマーケティングと採用マーケティングを軸とした事業を展開し、中高年向け転職支援サービス「FROM40」や採用管理システム「トルー」などを開発・提供。2020年4月にはYahoo特別認定パートナーに認定される。「ITの力で社会課題を解決し、多くの人々が充実して暮らせる社会を実現したい」という理念のもと、日々新たなサービス開発に取り組んでいる。
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(ダトラ社長 草深 悠介)