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『ベランダにさっきまでなかった「たまご」落ちてるんだけど』

【写真を見る】ベランダにポツンと…「卵」の写真を送ってきた母とのやりとり 

突然、スマホに届いた母からの写真付きメッセージ。「いきなり何を言っているんだ?」と思いつつ開いてみると、確かに、ベランダの溝にコロンと一つ「白い卵」が転がっていた。

続けて母からメッセージ。

『ハトの仕業?』

自宅マンションのベランダには、ほぼ毎朝ハトが飛んでくる。「クルックー」と聞こえたら母がすかさず網戸を開けて、お引き取り願っている。

母に詳しく聞くと、午前中に洗濯物を干した後、午後3時ごろに乾き具合を見ようとベランダを覗いたら発見したそうだ。

そういえば、けさもハトを一羽追い払ったばかりだったな…そんな“犯鳥”らしき姿を思い浮かべつつ、興味本位で「帰ったら見せて」と伝えて帰宅しながら考えた。

「一通り眺めて、満足したらビニール袋に入れて捨てよう」

この時はまだ、そう思っていた。これは記者が「ハトの卵」を1つ処理するまでの10日間の記録である。

ニワトリより「小さい卵」…これ、捨てたらマズい!?

見つけた卵の大きさはピンポン玉程度だった。定規をあてると、直径4cm弱。試しに冷蔵庫にあったニワトリの卵を隣に置いてみると、落ちていた卵の方が一回り小さいことが分かる。

殻には少しひびが入っていて、おもちゃなどではないことが分かる。ベランダをくまなく見渡しても鳥の巣は見当たらなかったので、この点は一安心。

これは実際、ハトの卵なのだろうか?インターネットで調べてみると、色や大きさといった特徴は一致しているようだ。

卵の正体に納得すると同時に、やけに気になる検索結果が目に留まった。

『ハトの卵を勝手に捨てると法律違反になる』

えっ…もしかして、そのままポイっと捨てたらマズい?記者としても市民としても法を犯すわけにはいかないので、市役所に確認を取ってみた。

市役所に聞いてみたら…

担当者 「ハトの卵を市の許可なく捨てることは、『鳥獣保護管理法』で禁止されています」

熊本市の鳥獣対策室に電話で尋ねると、確かに法律違反だった。

生物の多様性の確保や自然環境保護などのため、ハトに限らずヒナを含めた野生鳥獣を捕獲することや、卵を採ること、動かすことも原則として禁止されている。

違反すれば1年以下の懲役か100万円以下の罰金を受ける可能性もある。

一体、どうすれば…

「空っぽの巣」ならすぐに捨てても問題ないが、卵やヒナなど“命”がある場合、話は別だ。

市によると、対処法は原則として「巣立ちを待つことに尽きる」。

しかし騒音やフンなど生活に影響が出る場合は業者に依頼するか、今回のように卵だけの場合は、市に「捕獲・採集」許可を取って、燃やすゴミとして処理する場合もあるという。

一度、電話を切り、母に「見守るか」「許可を取って捨てるか」を尋ねると、即答された。

「えーっ!あのまま放置はいやだよ」

残念ながら卵には既にヒビが入っているので、巣立ちを見届けられる可能性は低いだろう…衛生上、このまま放置するわけにもいかない。

改めて、市に「卵を捨てる許可を申請したい」と伝えると、まずは現地調査が必要だと告げられた。

そこで翌日の午前9時半に予約を取った。担当者が自宅へ来るという。

調査、そして申請へ

翌日の午前9時半、青いジャンパーを着た鳥獣対策室の担当者2人がカメラを携えて自宅にやってきた。

担当者「あー、あの転がっているやつですね」

担当者は卵の存在を確かめると何枚か写真を撮り、続けてベランダ全体を見渡した。

担当者「ちょっとフンも落とされていますね、ハトは室外機の裏に巣を作りがちなのですが…今回は無いみたいです」

ベランダに来るハトは、主に「ドバト」という種類だという。

調査が終わると、申請書の記入へ。住所や名前などのほか、今回は「何を・いつ・どうやって処理するか」を6項目、担当者のアドバイスと記入例を参考に埋めていく。

担当者「この『処理する対象』という項目には『ドバト 卵1個』と書いてください」

その他にも
▼目的:「有害鳥獣捕獲(環境衛生維持)」
▼採る方法:「手捕り」
▼その後の処置:「焼却」 

など、すべて記入を終えたら手続きは終了。ここまで15分ほどだった。

許可が出るまで1~2週間ほどかかるとのこと。卵を眺めながら洗濯物を干す日々は、もう少し続きそうだ。

増えるハトのアレ

まさか市の職員まで出動させる事態になるとは…意外とすんなり手続きできたので一安心、と思ったのもつかの間。

翌日、いつもより多くハトの鳴き声が聞こえるのでベランダに出てみると、2羽のハトが仲睦まじく壁の隙間で身を寄せ合っていた。

私の存在に気付くと、すぐにバサバサッと飛び去った。

床にはフンも増えている。これはいよいよ“住み家”として目をつけ始めているのでは…?

焦りを感じたその日の夕方、市から電話があった。「卵採取の許可が出ました、許可期間は5月9日から1週間です。これから許可証の郵送準備をします」

待っていました。

申請から7日が経った5月8日、郵便受けにA4サイズの封筒が入っていた。

さらば、卵 

5月9日の朝、ついにハトの卵を捨てる時が来た。封筒から取り出した許可証には、申請時に記入した情報が印刷されている。

さっそく卵を回収しよう。ハトの卵やフンには雑菌などが付着している可能性があるため、ビニール手袋を着用して手に取ってみる。

やはり軽い。ビニール袋に入れてはかりに載せると、袋の重さを除いて17gだった(ニワトリの卵は平均約60g)。

小さな命の重みを感じ、心の中で「ごめんね」とつぶやきながらゴミ袋へ。月曜日、卵は「燃やすゴミ」として収集された。

捨てて終わり…ではない

実は、最後にもう一仕事残っている。許可証の右下にある「報告欄」に、改めて「採取した場所」「採取した数量」などを記載。許可期間終了後から30日以内に、市役所宛に返送する必要がある。

4月30日の発見から10日、長かった卵との共同生活が終わった。母はしみじみ語る。

「こういう法律があるなんて知らなかったなあ。卵は小さくてちょっとかわいいけど、やっぱり困るよね」

卵・巣は「危険度マックス」

この10日間でハトのフン被害は次第に落ち着いていったが、やはり、毎朝変わらず元気な鳴き声が聞こえてくる。この状況にどう対応すべきか、専門家に聞いた。

マンションや工場などでハト対策を施工する「三勢(日本鳩対策センター熊本)」の岩下満さんは、我が家の状況は既に「危険度マックス」だという。

卵が見つかったということは、ハトがそこを自分たちの巣として認識し、定住を始めている証拠。さらに厄介なのは、ハトの執着心の強さだ。

岩下さん「ハトにとってはもう、そこを住み家として認識しちゃってるんで。執着心が強いので、同じハトが来ちゃいます」

つまり、一度卵を産み付けた場所には、同じハトが繰り返し戻ってくる可能性が高い。ベランダにCDやテープなどキラキラ光るものを下げて、ハト対策をしている家も多いだろうが、一度“住み家”にされたら、効果には限界があるという。

最終的には、やはり物理的に侵入を阻止する事。具体的な対策として、岩下さんは以下のような方法を紹介した。

1. ネット:ハトの侵入を全体的に防ぐ

2. スパイク(剣山):ハトが止まりやすい場所に設置し、着地を防ぐ

3. 忌避剤:ベタベタする感触と、ハトが危険と感じるにおいを発して追い払う

4. 電気ショック:ハトが止まろうとした際に軽い電気ショックを与え、追い払う

ただし、これらの対策を実施する際は、状況に応じて適切な方法を選ぶ必要がある。

【まとめ】ハトの卵を処理するまで

最後に改めて、ハトの卵の発見~処理まで10日間の流れを振り返ろう。

1. 4月30日: 卵発見
→熊本市役所(鳥獣対策室)に電話で相談
 捕獲・採集許可を申請するため「現地調査」を予約

2. 5月1日: 申請手続き
→市職員が自宅を訪問・現地調査 申請書を記入(かかった時間は15分程度)

3. 5月2日: 許可が下りる
→市職員より電話で連絡 許可期間と、許可証の送付予定が伝えられる

4. 5月8日: 許可証が送付される
→指定された許可期間(今回は5月9日から1週間)以内に処理する

5. 5月9日: 卵を処理
→許可期間終了後30日以内に許可証を返送、もしくは市役所に直接持参する

熊本市には2024年度、ハトに関する捕獲・採集許可の申請が35件、相談が51件寄せられた。

今回の手続きは、あくまで一例だ。ハトの卵や巣、ヒナを自宅で見つけたら基本は見守ること。どうしても生活上、困る場合に「捕獲・採取」許可の相談を自治体にすること。これを覚えておきたい。

個人的な感想としては、やはり時間と手間はかかる上、市職員が自宅に来るのはなかなか緊張する。

しかし、ヒトにとっては「有害」でも、生き物たちにとっては種をつなぐ営みだ。それを人間の都合で断つのなら、一連の手続きは命への最低限の敬意を示す方法なのかもしれない。

卵を捨てる時に手のひらで感じた、17gの重みを思い出した。