「東北道で逆走死亡事故」で浮上する「トゲトゲ装置」導入の声…逆走すれば「グサッ!」究極の逆走対策なぜ実用化しないのか 委員会も「物理的手段を検討すべき」の声!?

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一向に無くならない逆走事故

 高速道路での「逆走」が、もはや深刻な社会問題となっています。
 
 正しく走行しているクルマに対して正面衝突し、ドライバーを死亡させる案件も多発しています。
 
「自分のほうが正しくて、周囲が変な向きで走っている」という認識で逆走する案件もあるなか、逆走車を「物理的に止める方法」を求める声も上がっており、国土交通省でも検討の議題に上がっています。

逆走を止める有効手段は…

 2025年4月26日午後10時頃、栃木県那須塩原市の東北自動車道の上り線で、逆走してきたクルマが接触事故を起こし、さらに3キロ近く走行を続け、別のクルマと正面衝突しました。

【画像】「なんとぉぉぉぉぉぉぉ!」これが実際の「トゲトゲ装置」です(24枚)

 これにより逆走車を運転していた40代の男性と、正面衝突された車両を運転していた50代の男性の双方が死亡。

 また事故に関連した渋滞で大型トラックなど6台が絡む事故が発生し、追突された車両に乗っていた60代女性が死亡したほか、一連の事故によって10人が怪我をしました。

 負傷者のうち2人は骨盤や腰の骨を折る大怪我をしたとのことです。

 逆走車は事故現場近くの黒磯板室インターチェンジから進入して3キロあまり逆走したとみられ、警察は今後、高速道路の監視カメラ映像やクルマのドライブレコーダー映像などから逆走の原因や事故状況を詳しく調べるとしています。

 また警察は追突事故を起こした54歳のトラック運転手を自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで逮捕しています。

 黒磯板室インターチェンジは入口ランプと出口ランプが交差するような構造ですが、逆走防止のために路面に塗り分けがおこなわれ、もちろん一方通行や進入禁止の標識が立てられています。それにもかかわらず、逆走が実際に発生してしまいました。

 こういったことから、「逆走をしでかすドライバーは、そもそも周りの声や案内を見聞きしようとしない」という声も見られます。

 国や高速道路各社では、逆走防止として「逆走ですよ!」看板や、路上ペイントなどの現地施策が行われ、ETCなどで車内警告を行うシステムの開発も視野に入れていますが、「どうせそもそも無視するだろ」という諦めの声も依然少なくありません。

 そうしたなか、注目されているのが「逆走車にだけ物理的ダメージを与える」装置です。

逆走事故の決定打!?「物理的阻止」装置

 それは、英語圏で「トラフィック・スパイク」などと呼ばれる、路上埋め込み型の装置です。路地の一方通行を無視するクルマを阻止するためのものです。

合流部のボラード。逆走件数がが約8割減少したというデータも(画像:国土交通省)。

 通称「トゲトゲ」と呼ばれるこの装置は、逆走車に向けて道路いっぱいにトゲを並べています。逆走車がそのまま走ろうとすると、両方のタイヤにそのトゲが刺さり、パンクさせます。いっぽうで正しい方向からクルマが来ると、素直に踏まれて地面に埋め込まれ、また元に戻るという仕組みになっています。

 これを高速道路の出口手前やSA・PAの入口に埋設しておけば、再三の警告を無視して逆走を続ける暴走車を、無理やり停止させることができるのではないか。そんな議論がネット上を中心に起こっています。

 では、肝心の国土交通省はこの「物理的手段」に対して、どう考えているのでしょうか。

 相次ぐ逆走事故をうけ、2015年12月に「高速道路での逆走対策に関する有識者委員会」が発足。これまで7回の会議が開かれ、実証実験と振り返りが行われています。

 その中で、この「トゲトゲ」は、第1回目の議論ですでに登場しています。

 他にも注意喚起看板やハンプなど様々な事例が紹介され、最終的にやるべき試験内容が公募され、取りまとめられました。

 その試験に、「トゲトゲ」はありませんでした。代わりに盛り込まれたのは「路面埋込型ブレード」です。トゲトゲは「刺さる」ものですが、このブレードは単純に「車両に衝撃を与え注意喚起する」だけで、無視してそのまま逆走を強行できるものです。

 しかもこのブレードは、廃止された高速バス停に試験設置されたのみ。その結果「設置前:逆走0件、設置後:逆走0件」と、設置効果がよくわからないまま終わろうとしています。

 委員会発足からすでに7年半が経過し、議論は「いかに逆走車へ有効に注意喚起するか」「いかに周囲に危険を知らせるか」に収束しつつあるなか、一向に逆走案件は減りません。ついに委員の中から「物理的阻止」以下の意見も出るようになりました。

「本線や出口部の逆走に対しては道路上のハード対策が有効である。海外では車両を痛めつけるようなハード対策もあり、そこまででないとしても。何かしらの対策を社会実験として実施できないか」(第6回)

「国内で車両を損傷させ停止させるようなハード対策は難しく、特に本線上のスピードが出ている箇所で実施するべきではないが、逆走が発生した後の重大な事故を考えると、スピードの出ていない箇所での実施は可能性の1つとして考えてもよいのではないか」(第6回)

「公募テーマIにもあるが、逆走車を物理的に制止させるような、ボラードやハンプなど、海外事例を参考に検討してはどうか。海外の事例をそのまま日本に導入はできないと考えられることから、導入にあたっては、国も開発等に関与してはどうか」(第7回)

なぜ日本で「トゲトゲ」は導入されないのか

 こうした委員会の意見をうけ、いよいよ国の方針として「物理的阻止」が俎上に乗せられる可能性があります。

逆走した事故車両(画像:国土交通省)。

 しかし、「トゲトゲ」導入には、やはり国が二の足を踏む背景があります。

 まずは、第1回に海外事例で紹介された時の「デメリット」です。それは、トゲトゲはあくまで路地で発揮できるものであって、高速道路に導入すると「交通量が多すぎて、すぐに壊れてダメになってしまう」「メンテナンスが大変」というものです。

 実際、海外の路地で設置されている「トゲトゲ」を見ると、踏まれすぎて地面にめり込んだまま戻らなくなったトゲや、根元からちぎれて消失したトゲ跡も、よく見られます。高速道路だと、さらにダメージが早々に蓄積してしまうというわけです。

 しかし、やはり大きな懸念点となるのは、「道路のせいでクルマが壊れた」「物理的に止められたクルマが、さらに別のクルマに当てられた」といった事例で、賠償責任はどうなるのかということかもしれません。

 こうした背景もあり、日本の道路行政では、走行車線上に走行を阻害する構造物を置くことには古くから消極的です。近年ようやく、生活道路にスピード出し過ぎの注意喚起をおこなう「ハンプ」を設置する施策が、各地で進められ始めたところです。

 果たして逆走防止の「決定打」である「物理的阻止」は、実用に向かうことになるのでしょうか。