【ドラマ座談会】生方美久&吉田恵里香の共通点は? 宮藤官九郎ら脚本家のいまを考える
かつて、シナリオ本は売れないと言われていた。シナリオはあくまで設計図で、完成品(映像)ではないと認識されていたからだ。ところが最近は違う。坂元裕二、生方美久や吉田恵里香のシナリオ本が好評である。脚本家の言葉(セリフやト書き)をある種、余白を伴った詩のように受け取っているのかもしれない。
参考:『海のはじまり』生方美久脚本ならではの優しい連鎖 “終わりのない海”が見つめるもの
ドラマにとって脚本が要であることは間違いない。この脚本家だからドラマを観る、という求心力になる。2024年7月期にドラマを書いている脚本家たち、生方美久、吉田恵里香、宮藤官九郎、岡田惠和、大石静の5人を中心に、昨今求められているドラマ脚本とはなにか。ドラマ評論家の成馬零一、田幸和歌子、木俣冬が語り合う。
●『海のはじまり』の凄さと脆さ
ーーまずは若手の生方美久さんの『海のはじまり』(フジテレビ系)をどう観ていますか?
成馬零一(以下、成馬):生方さんはいま、一番先鋭的な脚本を書いている方だと思います。これまでの『silent』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)ではその先鋭性が感情的にならずに理性的に対話しようとする「静かで優しい世界」の構築に向かっていて、それがコロナ禍を経由した今の若者の気分とマッチしていたと思います。対して、『海のはじまり』は自分たちが作ってきた優しい世界の外側を描こうと試行錯誤している。第8話で夏(目黒蓮)の血の繋がったお父さん(田中哲司)が登場した場面にそれがすごく表れていました。あと、今回はモノローグやナレーションがなく台詞も最小限で、映像と俳優の芝居を引き出すことに特化しています。
田幸和歌子(以下、田幸):確かに、生方さんは人間の心のざらついた部分をすくい上げることがとても巧みです。そして、刺さる強い言葉を次々と投げかけて、SNSユーザーが拾いやすい作り方をされているという印象があります。その一方で、『海のはじまり』は、ご本人のインタビューによると、子宮頸癌の検診を勧めたいというような明確なメッセージを打ち出しているにもかかわらず、産婦人科関連の描写のリアリティが不足しているように感じます。例えば、産婦人科で、いままさに命を生む者(水季(古川琴音))と消した者(弥生(有村架純))が、自由にメッセージを書くノートを通して邂逅する場面には、こんな無神経なクリニックが実際にあるだろうかと首をかしげました。また、初回で、葬儀の時に大人が子供をひとりにした場面にも疑問を感じました。海(泉谷星奈)の早熟さと幼さのバランスも不思議で。子どもは大人たちがどんなに隠そう・守ろうとしても、身近な「死」の気配に敏感です。メキシコ映画『夏の終わりに願うこと』の7歳の少女にとっての死のリアルを同時期に観ていたので、どうしても比較してしまい、子どもの解像度が低いな、と。出産経験があったり、身近に幼児がいたりする人から見ると、ヒヤヒヤする場面が多く、ドラマの評価としては良いところと引っかかるところが半々だなという印象です。
成馬:津野(池松壮亮)の描き方は、見方によっては怖いですよね。池松さんの愛嬌で誤魔化されてますが、僕みたいな未婚の中年男性が外で幼い子に話しかけてたら声かけ事案で即、警察に通報されますよ。だから津野も海ちゃんとの接触を避けてたんだと思いますが。
田幸:そうなんですよ。彼がストーカーのように捉えられる危険性も現実にはあるわけで。
成馬:生方さんは性善説の人で人間の善意や優しさを描きたいんだと思うんですよね。昔のドラマは逆で、90年代の野島伸司を筆頭に、社会に蔓延する綺麗事を否定して偽悪的に本音をぶちまけるところに作家性が表れていた。今はそれが反転していて、社会があまりにも酷いから、綺麗事でもいいから、自分たちだけの静かで優しい世界を作ろうと試行錯誤をしているのだと思います。
田幸:でも、生方さんはインタビューを読むと、『海のはじまり』はファンタジーではなく、本当のことを描くとおっしゃっていますよね。そうだとすれば、現実を透明化している部分がいささか多い懸念があります。
成馬:『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系/脚本:蛭田直美)も高校生が意図せず妊娠してしまう話ですが、綺麗な映像で静かなやりとりが多くて、主演の桜田ひよりが『silent』に出演していたこともあってか、『silent』以降の作品だなぁと思います。
田幸:いや、『あの子の子ども』はとてもリアルなんですよ。原作もよくできているのですが、ドラマのオリジナルの描写のほうがもっと細かかったりするんです。
成馬:避妊に失敗した高校生カップルが産婦人科を訪ねるくだりとか、「高校生が妊娠したら?」というハウツー的な情報の見せ方はとてもリアルで勉強になるなぁと思うのですが、登場人物が可能な限り理性的かつ倫理的に振る舞おうとする姿は、こうあってほしいという理想を描いているように感じて、昔のドラマだったら、もっと家族が感情的になって修羅場になるだろうなぁと思います。まぁ、そこが面白いのですが。
木俣冬(以下、木俣):おふたりの話を聞いていると、それぞれの個々の立ち位置の違い、生活環境の違いで、いろいろな見え方ができるドラマなのだと感じました。『海のはじまり』は、私はいい意味でCMっぽいドラマだなと思ったんですね。心地よくメッセージが伝わってくる。各シーンがパンやシャンプーやビールやカメラのCMみたいだし、なんなら子宮頸癌検診キャンペーンのCMにもなっているような気がするんですよ。
田幸:(笑)。
木俣:おふたりの話から、作家の毒をCMふうの画面が中和しているのかもしれないと気づきました。で、この両極感は、『虎に翼』(NHK総合)にも感じていて。『海のはじまり』は妊娠、子育て、『虎に翼』は法律、フェミニズムなど、取り上げられた題材にビビッドに反応する視聴者がいる反面、各々のリアリティに疑問を感じる視聴者もいる。リアリズムとちょっとファンタジーのいいとこどりができる才能を30代の作家に感じます。
●野木亜紀子と吉田恵里香の共通点
ーー吉田恵里香さんの『虎に翼』はいま世間で大絶賛されています。様々な題材の資料を丁寧に調べて、うまく調理するのが上手な人だから朝ドラもできると思うのですが、皆さんはどう見ていますか?
田幸:『虎に翼』は第1章の終わりまで(戦後、日本国憲法が改訂されたのを寅子が河原で読む)は最高傑作だと思った人が多いと思うんです。それ以降、主人公が年齢を重ね、力を持ち、権威の側に立ったことで、主人公の好感度がだだ下がりに(笑)。ヒロインではない周りの人たちが正論を言い、本来のヒロインの役割を担う一方、ヒロインが中堅~出がらしに向かうターンで無意識に次世代や子どもに対する加害側になっているところもこれまでの多くの朝ドラと異なります。
木俣:吉田さんはまとめる技術の高い方だと思います。法曹の世界のディテールは監修で入っている明治大学の方の知見、歴史的事件に関しては取材で入っているNHKの解説委員の清永聡さんが、著書『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』であらかじめ書かれているところや、そのほかの取材データからのチョイスと構成はうまい。でも、それ以外の法律の仕事場の様子や日常生活のディテールに手が回っていないような気がします。田幸さんが『海のはじまり』で指摘した物足りなさのようなものがある。『カーネーション』(2011年度後期)の渡辺あやさんの社会と日常生活の関わりの描き方と比べるのは酷とは思いますが。
田幸:私ももっと掘ってくれと思うところは正直ありますが、『虎に翼』は問題提起をいろいろしてくれて素晴らしいと感じています。朝ドラという長丁場をおそれず、半年ものドラマでどれだけ描けるかという意気込みが強いことも頼もしい。
木俣:先日、脚本開発チームWDRプロジェクトの取材をしたとき、共同脚本とひとり作家の違いという話で、一人の作家は縦に深く物事を掘り下げていて、共同脚本は複数の作家は横に手をつないで広げていくみたいな話になり、吉田さんはひとりだけれど、たくさんの要素を繋いでいく作風のようにいまは見えます。
成馬:『海のはじまり』や『虎に翼』に感じるCM的な世界って、小説でいうと村上春樹に対して多くの人が感じていたことだと思うんですよね。春樹の描く世界は日常を描いていてもどこか抽象的で、ジャズを聴きながらパスタを作る姿をおしゃれに描くみたいな。男が手際CM的な世界ですよね。一方で村上龍は固有名詞を多用して猥雑で生々しい世界を描こうとしていて、80年代はW村上とか言われて双璧でしたが、現在、国内外の評価で大勝ちしてるのは圧倒的に春樹ですよね。現在、村上龍的な世界をドラマで描いているのは宮藤官九郎さんだと思うのですが、そちらはどんどん分が悪くなっている。
木俣:勝ち負けでくくりたくないですが(笑)、独自のディテールをどれだけ積み重ねるか、その速度と熱の密度が要らない世界になってきているのは認めます。宮藤さんは『新宿野戦病院』(フジテレビ系)でトー横キッズの女の子が病院に搬送されて彼女の治療に必要な情報を友達に聞こうとすると、ハイチュウ青りんごが好き、御赤飯が嫌いで、推しがメンヘラなど聞いた側にとってはどうでもいいことを答えるのだけれど、当人たちにはどうでもいいことではないというようなことが大事だということを描いています。みんなが等しく興味あるものではなく、偏愛の領域を描くことは大事だと私は思います。
田幸:吉田さんはドラマガイドのインタビューなどで、メッセージ性とエンタメと両輪で行くことを諦めないとおっしゃっていて。おそらく、書こうと思うものが多すぎるのでしょう。『らんまん』(2023年度前期)の長田育恵さんも描きたいことがとてもたくさんある作家で、縦軸、横軸と同時に並行させて中だるみも尻すぼみもなく、最終的に見事にまとめ上げました。『らんまん』は朝ドラの中でも最高傑作のひとつだと私は思っています。長田さんや吉田さんのように描きたいことに溢れた脚本家さんが続々出てきていることは喜ばしいですよね。そのため、もはやなんとなくふわっと朝ドラを描くこと、物語をヒロイン至上主義の単線で描くこと、描きたいことが少ししかない人が半年間雰囲気でもたせることは許されなくなってきている感はありますけれど(笑)。
成馬:情報量の多さが吉田さんの作家性に起因するものなのか、いまの朝ドラに最適化した結果、イシューをどれだけ詰め込めるかという勝負をやっているのかがよくわからないんですよね。もちろん、性的マイノリティやフェミニズム思想の描き方も本人の内側から出てきたものだとは思うのですが、一方で時代のトレンドを読んで入れてるのかなぁとも感じて。それは決して悪いことではなくて、時代の空気や社会的テーマを入れることで作品のクオリティを高めていくことは、海外ドラマでは当たり前にやられていたことで、むしろ日本では長い間、社会的テーマを入れることに対する抵抗意識が強すぎた。それが、野木亜紀子さんの『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年/TBS系)あたりから流れが変わって、今はむしろどれだけ社会性のあるテーマを盛り込めるかが作品の評価と直結している。『虎に翼』はその流れの最終兵器みたいなインパクトがある。
田幸:たくさんの方々の要望を取り入れることを吉田さんが受けて立った、その覚悟はすごいことです。
成馬:原爆裁判も取り入れて、これまで朝ドラでやったことのないことをやっているのは、おそらく吉田さんだけの意向ではないでしょうね。いまのドラマがどれだけ社会性のある現代的なテーマを盛り込めるかという勝負になっている中での最適解だと思います。、逆に、個人の作家性が執筆の動機にあって自分を救うために物語を書いているような北川悦吏子さんのような脚本家は、今は書き辛い時代なのかなぁと感じます。
木俣:田幸さんが先ほど、ヒロインが悪者になっていると指摘されましたが、作家がヒロインに自分を投影しないで客観的に書いているからこそ成立する物語なのかもしれないですね。
成馬:『虎に翼』で描かれている怒りって吉田さん個人が抱えている怒りではなく、社会的な怒りに見えるんですよね。だから田幸さんが言うように、いろんな人の思いを引き受けて社会を変えようという気迫はすごく感じる。一方で、安達奈緒子さんの作品が僕はずっと大好きなんですが、彼女も社会的なテーマを扱っている作品が多いのですが、、最終的に他人とは共有できないすごく個人的な怒りや悲しみが滲み出ちゃうんですよね。だから視聴者から「よくわからない」と言われることが多いのですが、その共有できない断絶があることが僕は好きなんですよね。そこに彼女の抱える作家性を感じる。
木俣:それが安達さんの『おかえりモネ』(2021年度前期)と『虎に翼』の違いなのかもしれないですね。
田幸:ただ、吉田さんの初期作であるアニメの『TIGER&BUNNY』(2011、2022年/シリーズ構成の西田征史との共同脚本名義)を観ると、ビックリするぐらい『虎に翼』なんですよ。差別に対する憤りみたいなものをずっと抱えてきた作家なのだとは思います。このテーマは吉田さんのライフワークみたいになっていくのではないでしょうか。
木俣:“差別”や“透明化”というテーマは、マイノリティに限らず、誰もが日常で、自分の意見や希望が無視されたり自分が誰かに選択されなかったりした苦い経験にも通じる気がします。
成馬:その消す側は、必ずしも絶対的な権力者だけじゃないですよね。リベラルな人たちが消しているものもいっぱいあるわけで、こういうものに対する怒りを感じることも時々ありますよ。それは寅子が偉くなった時に、無自覚なまま加害者になってしまう新潟編の前後によく表れている。個人的にはあのあたりから寅子のことが好きになりましたね。あれは完全に中年男性の悩みで、年取って偉くなると男も女もおじさんになるんだ、という発見がありました。
木俣:だからこそ『虎に翼』が刺さる人は多いのかもしれません。あるいは、吉田さんがラジオ番組で、CLAMPさんの漫画を好きで読んで、現実ではマイノリティとされている人たちが当たり前に存在していることに馴染んでいた、というようなことを発言されていたので、そういう感覚なのか。
成馬:野木亜紀子さんや吉田恵里香さんみたいな社会性を引き受けている作家が今後は主流になってくと思うんですよね。逆に個人的な動機で書いてる人はどんどん厳しくなっていくと思います。
木俣:10年後くらいにはまた反転して個人の思い入れの大事なドラマが人気になってほしい。
●宮藤官九郎は“ちゃんと古く”なろうとしている
ーー『新宿野戦病院』はどうでしょう? 『不適切にもほどがある!』(TBS系)ほどの話題にはなっていないようにも思いますが。
成馬:『虎に翼』で優三さん(仲野太賀)が人気ですが、同じ仲野太賀さんが演じていても、僕は『新宿野戦病院』の亨のほうが好きなんですよ。優三さんはあまりにも善人すぎて。
田幸:優三さんこそが憲法なんだという解釈になっていますよね。
木俣:理想の象徴的な存在。
成馬:人間を理想の概念として描くこと自体に抵抗があるんですよね。むしろそこから溢れ落ちる人間性を描くことがドラマの役割じゃないかと思ってしまう。宮藤さんが常に溢れ落ちる人間のしょうもなさを描いていて、そこはすごく信頼できます。
木俣:仲野太賀さん、岡部たかしさん、平岩紙さん、塚地武雅さん、余貴美子さんと『虎に翼』のキャストが『新宿野戦病院』ではノイズまみれに描かれていることが痛快な一方で、かなりヒューマンな話が色濃くなっていて、それはこれまでの宮藤ファンが求めるドラマではないということなのでしょうか?
田幸:演出との噛み合わせが悪いのではないかと思うんです。コメディと謳っているにもかかわらず、コメディの部分が笑えず、滑っている印象があります。とくに序盤はそうでした。第3話あたりからちょっと面白くなってきた気はしています。
木俣:驚いたのは、ガンダムのパロディセリフを入れてきたことです。「宮藤さんがガンダム? 意外」みたいな。
田幸:日曜劇場を観るシニア世代男性もつかもうとしているのでしょうか。『不適切にもほどがある!』で新たな視聴者を獲得したので、その流れを汲んでいるのかもしれないですね。
成馬:最近、宮藤さんは矢継ぎ早にテレビドラマや映画の脚本を書いていますが、そのなかで良くも悪くも一番バズったのは『不適切にもほどがある!』ですよね。あの作品が一番歪で間違ってることも多くて『新宿野線病院』のほうが描かれている価値観は極めて真っ当でとても現代的ですが、それが面白さに繋がっているかというと、難しいところですよね。。
田幸:『不適切にもほどがある!』がバズった理由は賛否がものすごく大きかったからですよね。
成馬:逆にそれまで「クドカンわかんねえな」と言っていたおじさん層が絶賛するようになった。
木俣:『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年/NHK総合)を敬遠した人たちが宮藤さんを評価しはじめましたよね。
田幸:それによって世間的評価はあがるんですよね。やはりまだまだテレビの世界も、世の中全体にも絶対的に権力を持っているのはおじさんなんですよ。だからこそ女性が声をあげていこうと描く『虎に翼』が支持されるのだと思います。
成馬:もっとも宮藤さんは基本、落語の世界の人だから、年齢が上がるにつれて保守化していくのは仕方ないのかなとも思います。
木俣:パンクや深夜ラジオなどのサブカルチャーの世界で青春を過ごした宮藤さんが小劇場の先端で活躍していたときに、映画『GO』(2001年)の脚本を書くことになって、主人公が落語をよく聞いている設定だったから落語を勉強し、それが彼のテレビドラマのベースになった。歌舞伎の世界にも入っていくし、尖った感覚と古典の教養が合わさっているのが強みだったのでしょうね。
成馬:今はむしろ「古さ」の方が味になっている。古典を継承することで宮藤さんは、ちゃんと古くなろうとしてるんだと思うんですよね。『パーティーが終わって、中年が始まる』(pha著)が象徴的ですが、ちゃんと「古くなる」ことが今の中年男性の課題なんですよね。宮藤さんは『新宿野戦病院』(舞台となる聖まごころ病院院長が『赤ひげ診療譚』の主人公と同じ「赤ひげ」と言われている)や『季節のない街』(テレビ東京系)で山本周五郎をやって、次は山田太一の『終りに見た街』(テレビ朝日系)のリメイクをやることでちゃんと古くなろうとしている。逆に三谷幸喜さんは、デビュー当初からクラシカルな作風だったから、古くならずにいち早く古典化することに成功している。
●変わらないで進化し続ける大石静&岡田惠和
木俣:ウェルメイドは廃れないのだなと感じます。息が長いといえば、『光る君へ』(NHK総合)の大石静さんがすごいと思っています。2000年の朝ドラ『オードリー』と、2024年の大河ドラマ『光る君へ』の根底にある愛憎みたいなもの、特にもの狂おしいような道ならぬ恋の描き方が時代劇の世話物とか浪花節みたいな世界観が変わってない気がするんですよ。でもそれが心を揺さぶる。また、『オードリー』に「伏線回収だよ」というセリフがあったのですが、24年前といまと視聴者が好むものは変わっていないのだと笑ってしまいました。当時SNSがあったらトレンド入りしていたでしょうね。
成馬:基本メロドラマの人なのだろうけれど、宮藤さんと組んでNetflixで『離婚しようよ』(2023年)をやったりしていて、レンジが広い。
田幸:配信ドラマのように次々観てしまう中毒性みたいなものが、大石さんのエンタメにはあります。話がテンポ良く転がっていくので、続きがとても楽しみになる。
成馬:岡田惠和さんは1994年に書いた『南くんの恋人』(テレビ朝日系)を30年後のいま、男女逆転させた『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)を書いていますが、ストーリーラインが94年版のストーリーをなぞっていて、セルフリメイクになっているのが面白い。
木俣:男女逆転したうえに、現代的な感覚が入ってきていますよね。
成馬:片方が小さくなった恋人関係にいろんなものを投影できると思うんですが、南くん(八木勇征)を最終的にどういう存在として描くのかが気になります。
木俣:南くんをちよみ(飯沼愛)のイマジナリーフレンドと勘違いした人たちが、彼女に寄り添おうとそれぞれイマジナリーフレンドを持っているふりするエピソードが最高に面白かった。
田幸:岡田さんは、世知辛い現実路線を描くか、ファンタジーで忘れさせてくれるか、その2つの路線を行ったり来たりしてきた作家だと思っているのですが、いま世知辛い現実路線がだいぶ侵食してきている気がしました。でも、『南くんが恋人!?』は久しぶりにファンタジーが来たなと思います。でも、ずっと死の影がつきまとうのも岡田さんらしい。
成馬:再放送中の『ちゅらさん』(2001年度前期)もファンタジーですよね。『虎に翼』とセットで観ていると、時代ってここまで変わるのかと思います。東京に行くために福引で旅行券を当てる場面を久しぶりに観たら凄くて、ファンタジーに徹すると、ここまで面白くなるんだと思いました。ああいう面白さは今のドラマからは失われつつあるものですよね。『日曜の夜ぐらいは...』(ABCテレビ・テレビ朝日系)でも宝くじに当選する場面があるのですが、宝くじが出たら当たるのが岡田さんのドラマなんだなって、改めて思いました。
木俣:チェーホフの銃のような、銃が物語のなかに出たら発射されないといけないみたいな(笑)。
●これからに期待の脚本家は?
ーー主に5人の脚本家のお話で、昨今のドラマ事情が浮かび上がってきたと思ったのですが、ほかに取り上げたい脚本家はいますか?
田幸:『わたしの一番最悪なともだち』(2023年/NHK総合)を書いた兵藤るりさん。とても若くて、それこそ新しい感覚で、若い人のリアルな会話を書くので、これからがとても楽しみです。10月期は『マイダイアリー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)を書かれます。
木俣:その兵藤さんと『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)のチェインストーリーをダブルで書かれた市之瀬浩子さん。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)の脚本を何話か書いています。坂元裕二さんの大学のゼミの生徒さんだから、生粋の坂元裕二のフォロワーという感じですよね。
成馬:『量産型リコ -最後のプラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系)の企画から脚本まで手掛けている畑中翔太さんに注目しています。『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のフォーマットを使って変わった趣味を見せる“趣味ドラマ”の描き方が毎回見事で、人間ドラマと両立できている。あとはNetflixの『地面師たち』の大根仁さんの脚本がすごくよかった。
木俣:脚本協力で黒住光さん、楠野一郎さん、二宮孝平さんと精鋭が3人も入っていますよね。
成馬:原作小説と比較すると、ドラマ向けに脚色された部分が見事なんですよね。『地面師たち』はNetflixでイッキ見されることに特化した作りで、一気に最終話まで観てしまう。冒頭で話した村上春樹と村上龍の話でいうと完全に村上龍の世界で、こういう作品は今は配信に行くんだなぁと改めて思いました。
田幸:『おいハンサム!!』(2022、2023年/東海テレビ・フジテレビ系)の山口雅俊さんも企画も脚本も監督もおひとりでやっていて、センスとベテランの技術とが絶妙に噛み合っていて、すごく面白いですよね。
ーーこうして挙げていただくと、若手の兵藤さんや市之瀬さんは、今後NHKではドラマ10やスペシャルドラマを経て、朝ドラや大河へ、という流れがあるのかなという期待が膨らみますよね。
木俣:大河はかなりハードルが高い気がしますが、朝ドラ作家候補がつねに求められているような気がします。
田幸:深夜でノンジャンルのドラマをハイペースかつハイクオリティーで量産してきた職人、次の『おむすび』の根本ノンジさんも楽しみです。
成馬:生方さんの朝ドラは観てみたいですね。
木俣:生方さんがやるとしたらセンスのいい演出家とセットにしてほしいです。脚本家の話から逸れるのですが、生方さんは風間大樹さんというとてもいい画を撮る演出と組んでいるから良かったわけで。吉田恵里香さんの出世作『30歳まで童貞だったら魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)も風間さんですよね。宮藤さんの『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)は堤幸彦さんの演出も大きかった。NHKは『ちゅらさん』の大友啓史さん、『あまちゃん』(2013年度前期)の井上剛さん、『ひよっこ』(2017年度前期)の黒崎博さんなどの主力が抜けて、脚本家だけでなく次世代の演出家が求められているはずです。脚本家にとって脚本を的確に読み解いて画にできる演出家との出会いは大きいです。
田幸:「つい脚本と俳優の芝居を見てしまいますが、演出の力によるところも多いでしょうね。『光る君へ』も、大河ドラマとしては異例の女性でチーフ演出を務めた中島由貴さんや、内田ゆきチーフプロデューサーが作り上げたところもあるでしょうし。
成馬:演出でいうとTBSの塚原あゆ子さんの次回作が気になりますね。映画『ラストマイル』を経て、その次は『1ST KISS ファーストキス』で坂元裕二さんと組ますが、この『1ST KISS』のプロデューサーが『ゴジラ-1.0』の山田兼司さんなので、塚原さんが『ゴジラ』をやる未来もあるのではないかと期待しています。『アンナチュラル』(2018年/TBS系)や『MIU404』(2020年/TBS系)みたいな社会派テイストの『ゴジラ』ができたら面白そうじゃないですか。その時は是非、野木亜紀子さんに脚本を書いてほしいですね。
田幸:野木さんは次期、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』も楽しみですが、野木さんの納得のいく題材とタイミングで、朝ドラをいつか書いてほしいですね。
(構成=木俣冬)
