浦沢直樹×手犲C遒量昇遏PLUTO』が遂にアニメ化、世界配信がスタート!

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手筭治虫の代表作『鉄腕アトム』の中で絶大な人気を博したエピソード「地上最大のロボット」を、『20世紀少年』『YAWARA!』『MONSTER』などで知られる漫画家・浦沢直樹と、長崎尚志のプロデュースによってリメイクした傑作コミック『PLUTO』(小学館ビッグコミックス刊)が、遂に待望のアニメ化。10月26日よりNetflixにて世界配信がスタートする。
この度「クリエイティブアドバイザー」という形で現場に関わった浦沢氏に、アニメ化への思いや本作の制作の裏側について語って頂いた。

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――アニメ化の話が最初に出てからずいぶん時間が経ちましたが、ついに「まもなく配信スタート」というところまで漕ぎつけました。率直に今のお気持ちはいかがですか?

浦沢 最初に話が出たのが十何年前ですからね。よくここまでたどり着いたなと思います。(話が)出ては消え、出ては消えみたいな状況がずっと繰り返されて、途中で正直「これはもう無理かな」と思ったときもありました。

アニメ化については、とにかく「『PLUTO』を漫画どおりにアニメにするにはどうしたらいいのか?」とずっと考えていたんです。その構想を実現させるのが、当時の状況ではとても難しかった。でも、Netflixさんみたいなメディアが出現して、幸運にも世の中の変化が構想を実現させてくれるような形になりました。「諦めずにやっていると実現するものですね、丸山(正雄/スタジオM2プロデューサー)さん」という気持ちです(笑)。
 
――十数年前に実現が難しかった理由は、具体的にどういうところだったのでしょうか?

浦沢 一番は尺ですよね。例えば、映画にする場合、尺は2時間半くらいが限界でしょう? 原作を2時間にまとめようとしたら話を変えなければいけなくなるし、連作というのも1作目がよほどヒットしない限り続編の製作は難しい。そこで「うーん」って、みんなで唸ってしまいました。

あとは予算ですね。作画のクオリティが高くないと安っぽい未来像になってしまうので、そこにはなるべく予算をかけたいという思いがあって。そういう意味では、TVシリーズでやるのもやっぱり無理だろうなと。いろんな問題が立ちふさがっていて、「これはなかなか熱意だけで突破できるものではないな」と感じていました。

――その「解」が1話1時間で、しかも8話構成という現在の形だったと?

浦沢 そうですね、理想的な形になったと思います。

――アニメ化が実現して、制作がスタートする際は、どういう気持ちだったのでしょうか。

浦沢 『PLUTO』は、僕がしんどい思いをして命懸けで描いた作品だったので、それを「アニメ制作の皆さんがこれから追体験するのか」と思うと、なんだかつらい気持ちになりました。過酷な登山をして下りてきた者が、「これからみんなで登るんです」という人たちに対して「やめたほうがいいんじゃないの」と思うような感じといいますか(笑)。でも……完成しましたからね。本当にすごいと思います。スタッフの皆さんの、お仕事を越えた熱意を感じました。

――完成した映像には、どのような感想を持ちましたか?

浦沢 見る画面、見る画面、みんなびっくりしちゃいますよね。CGの時代になってから、技術面では僕なんかよく分からないことになっているんだけれど(笑)、「この場面がこんなふうに表現されるのか」という驚きがあらゆるシーンにあって、もう感心することばかりでした。

――今回のアニメ版では、浦沢さんは「クリエイティブアドバイザー」という役職名でクレジットされています。具体的には、どのような関わり方をしていたのでしょうか。

浦沢 まず脚本のチェックはさせていただいて、キャラクターの造形も、上がってきたものには全部、「もう少し体が大きいほうがいいんじゃないか」というような、わりと細かい注文を一個一個出させていただきました。
 あとは、美術に関しても、「僕はこう思います」「僕だったらこういう風にします」みたいな意見を、いろいろなところで言わせていただきました。

――脚本を監修するときに、どういったところを意識してチェックしていたのですか?

浦沢 例えば、ストーリー構成の部分ですね。尺が1時間あっても、まだ漫画のエピソードが入りきらない回もあるので、そこをどういうふうに再構成するかについて、僕も参加して相談させていただきました。「(漫画の)8巻が8話になる」という構成に関しては、間違いなく理想形なのですが、若干変えないと、どうしても入らない部分もあったんです。それが「改良」になるようにしたかったんですね。

――その点に関しては、思いどおりにいった手応えはありましたか?

浦沢 そうですね。Netflixさんでの配信だと、尺は多少フレキシブルに伸び縮みできますから、そこがすごく助かりました。

――今回Netflixで世界配信という形になりましたが、Netflixのような配信メディアは、連載執筆時にはまだ普及していなかったと思います。配信メディアについて、浦沢さんはどのように見ていますか?

浦沢 僕ら創作者たちがずっと「こういうのがあればいいのに」と願っていたメディアの形が、自然発生的に立ち上がってきているのかもしれないですね。
劇場へ出かけていって、大勢のお客さんが大画面で一緒に作品を観るという体験は、本当に素晴らしいと思うんです。あの体験は今後も廃れることなく、ずっと続いていってほしいんですけど、収益の面から「(上映を)一日に何回転させるか」という問題は意識せざるを得ない。一方で、その制約から外れなければ、自由な作品づくりができない側面もあって、そこで長年創作者たちが夢見ていた形が、メディアとして結実したような気がしています。

――アトム生誕20年に当たる今年に『PLUTO』のアニメが世に出ることについては、どのように感じていますか?

浦沢 2003年が手筭(治虫)先生の設定した「アトム生誕の年」だったんですが、その2003年に僕は「アトムの誕生は無理だな」と思いながら『PLUTO』を描き始めました。そこから20年経って、ひょっとしたら「アトム誕生、あるかもな」というところまで時代が追いついてきた。この進歩はすごいですよ。その「あるかもな」という時代に、いよいよこの作品が発表されるのは、巡り合わせのようなものを感じます。

――『PLUTO』は、イラク戦争など連載当時の世界情勢を色濃く反映した作品だと思います。それをアニメ化して2023年に発表するのは、時代性の解釈が難しいですよね。

浦沢 「今の時代にまだこの話が有効なのか」という点に関しては、少し複雑な思いもありまして。読み返してみると、セリフ一個一個を取り上げても、今だから逆にハッとするような発言がたくさんあるんですよ。「こういう世界がなくなりますように」という祈りを込めた作品でもあったのに、その祈りが今でも相変わらず有効なのかと。それどころか、ますます有効と思えるぐらいの世界情勢になっていて、それを考えると、本当に今こそこの作品を皆さんに観ていただきたいと大声で言いたいです。

――『PLUTO』の連載や今作の制作を通して、浦沢さんは「手筭治虫」という存在を改めてどのように感じていますか。

浦沢 誤解を受ける言葉かもしれないですが、手筭先生って、もしかしたら本質は結構マイナーな志向性で、それをもエンターテインメントにしようとした人という感じがするんですね。例えるなら、小劇場でかかるようなマイナーなお芝居を、ものすごく大きな劇場でかけるにはどうすればいいのか、それをずっと考えていた人じゃないかと。
その点はとても大事なことで、いきなり発想からしてマスに向けたものを目指すのではなく、表現したいものをどうやったら大勢に届けることができるのか。そういう考え方を我々は持っていなければいけないと、改めて教えられた気がします。

浦沢直樹 Naoki Urasawa
漫画家。1960年東京都生まれ。1983年『BETA!!』でデビュー。代表作に『YAWARA!』『Happy!』『MONSTER』『20世紀少年』など。現在、『あさドラ!』を「ビッグコミックスピリッツ」にて連載中。これまでに小学館漫画賞を三度受賞したほか、国内外での受賞歴多数。国内累計発行部数は1億2800万部を超え、世界各地で個展を巡回。ミュージシャンとしても精力的に活動している。