「チームの強さより入場者数」ビッグボス・新庄剛志を選んだ日ハムの英断 - 毒蝮三太夫
※この記事は2021年11月23日にBLOGOSで公開されたものです
日ハムの新庄監督、良くも悪くも大当たりだな。就任会見から新庄ショーの幕開けだった。「優勝なんか一切目指しません」とか「監督って皆さん言わないでください。ビッグボスでお願いします」なんて、記事になりやすい、見出しにしやすい、写真に撮りたくなる、映像に映したくなる、そのオンパレードでマスコミを見事に乗せたよね。現役時代は「新庄劇場」なんて言ってたけど、今や「ビッグボスショー」だな(笑)。
日ハムは2019年から3年連続5位と低迷。責任をとって栗山監督が退いた。さあ次どうするってことで球団は考えたわけだ。球団として「試合に勝つ」ことはもちろん重要だけど、もっとトータルに球団として重要なのは「経営で勝つ」ということだと。
チームの強さと入場客数 究極の選択
なにしろスポーツそのものがコロナで大打撃を受けたんだ。無観客試合や入場制限、いまだに尾を引いてるけど、球団にとっては入場者数の激減こそが大問題なんだよ。ちょっと編集部、最近の日ハムの観客数がわかるデータを出してみてよ。
< 北海道日本ハム ホーム試合入場者数 (NPB日本野球機構公式サイトより) >
2017年度 72試合 208万6410人 1試合平均 2万8978人
2018年度 71試合 196万8916人 1試合平均 2万7731人
2019年度 72試合 197万0516人 1試合平均 2万7368人
2020年度 60試合 27万6471人 1試合平均 4608人
2021年度 71試合 54万4818人 1試合平均 7673人
こうして見るとさ、2019年と2020年の落差がすごいね。もちろんコロナの影響だ。試合数が違うから1試合平均の数字を見れば一目瞭然だけど、2019年に2万7千人だったのが、2020年に4千6百人。あまりの落差でクラクラするよ。今年2021年も7千6百人だから、観客数激減問題は現在進行形、深刻なんだ。
そこで究極の選択だ。チームの強さと入場者数、そりゃあどっちも追いかけたいけど、まずどっちを優先するんだってことで、追い詰められた日ハムは後者を優先した。そこでふさわしい監督は誰だっていうんで白羽の矢が立ったのが新庄剛志だった。
言うなれば新庄監督はコロナが生んだ監督だよ。日ハムがコロナに勝つために打った強力なワクチン、それが新庄監督なんだよ。
「経営を強くする」を突き詰めた答えが新庄監督
でもよく決めたよね。「ええっ、あの新庄が監督やるの!?」って思ったもんな。確かに新庄という人は、現役時代は野球センスが光って、奇抜なこともよく似合ってた人気選手だったけど、じゃあ指導者に向いているかって言ったら未知数、むしろ首をかしげるタイプだよ。自分自身の見せ方を引き出すのは得意だろうけど、いざ野球ということで選手たちの実力を引き出し、育てることについては適任かどうかワカラナイ。
だけど日ハムはチームを強くすること以上に、チームの経営を強くすることを選び、それを真剣に突き詰めた。その答えが新庄監督だったんだ。
今みたいに新庄監督が世間に話題を振りまき続ければ、それは大きな広告になる。入場者数は必ず増えるよ。そうすればグッズも売れる。売れるのはグッズだけじゃない。親会社の商品であるハム製品だって相乗効果で売れるだろうよ。入場チケットやグッズの売り上げよりも、そっちのほうが日本ハムという企業にとっては大きいんじゃないかな? 「ビッグハム」とか「ボスソーセージ」とか新商品を出せば間違いなく売れるよ。
それにしても新庄監督は見事にマスコミを乗せたよね。先日の秋季キャンプ視察では新庄監督が連日どんなファッションで現れるのかが注目されてたけど、いったい何を着て現れるのか、それが注目されるなんてハリウッドのセレブと変わんないもんな。
なにしろ、あの歯の白さ。セレブだってあんなに白くないよ。俺も歯を白くするっていうホワイトニング? 前に歯医者さんでやってもらったことあった。でも10日か20日で元に戻っちゃったな。新庄監督の歯の白いのはそれなりに金がかかってんだろ。それが似合うんだからたいしたもんだよ。面白いキャラクターだね。新庄監督は「オモシロイし、ハモシロイ」ってことかな(笑)。
ま、つくづくテレビ的というか、タレントだよな。自分が周りからどんなふうに見えてるか、何を言ったらどう取り上げられるか、それを常に意識している。したたかなんだよ。そういうことってウケるツボを押さえるセンスがないと、単なる独りよがりになってしまうからね。新庄という人は常にウケるツボを押さえているんだから、この「ビッグボスショー」はたいしたもんだよ。
もともとショーの要素があったプロ野球の歴史
プロ野球ってさ、歴史を振り返ればガチガチの真剣勝負だけじゃなくて、ショーの要素って色々とあったんだよな。野球でいかに観客を楽しませるか、その職人技、職人芸っていうのかな。
それで言うとね、真っ先に思い浮かぶのがジョニー・プライスだな。知ってる? 1949年にアメリカからサンフランシスコ・シールズ軍ってチームが来日して日米野球が行われたんだ。大リーグの下のクラスなのにやたら強くて日本はちっとも勝てなかった。そのときこのチームに同行して来て、試合前のパフォーマンスで球場を盛り上げたアメリカの芸人がいた、それがジョニー・プライス。芸人というか曲芸師というか野球のパフォーマーなんだよ。
どんなことするかっていうと、バッターボックスの脇にバズーカ砲があってね、そこからスパーン!って球が外野に打ち上がる・・・するとライトフェンスからジープがダーッと飛び出して来る、それを運転してるのがジョニープライスなの。ハンドル片手にグラブを持って、なんとジープを走らせながら上がったフライを捕っちゃう!
これには観客全員が大喝采だよ。しかもフライだけじゃなくジープ運転しながらゴロも器用に捕ってたよ。他にも技があって、ジョニー・プライスがキャッチャーの位置に立ってて、ボールを2個持っていっぺんに投げるの。そうすると、投げたボールがピッチャーとセカンド、それぞれの位置に正確に届く。あと、鉄棒に足首を引っ掛けて逆さ吊りになってね。その状態でバット持って、逆さ吊りのままボールをコンコン打ち返したりね。
まさしく野球の軽業師、ベースボールのサーカスだな。年代的に長嶋茂雄さんなんかも学生時代、後楽園球場でジョニー・プライスを見てるんじゃないかな? なんでもネットにはジョニー・プライスがそういう野球ショーを見せてる動画があるらしいよ。まあ、探してみてくれよ。見たら絶対驚くよ。
ピッチャーゴロを一塁に送球しない投手
日本にも、そういう「見せる」技を持った選手がいたよ。東急フライヤーズの白木義一郎ってピッチャーはさ、ピッチャーゴロになるとボールを捕っても一塁に投げないんだ。キャッチャーに投げちゃう。で、キャッチャーが一塁に転送してアウトにするっていうのが十八番なの。これが出ると球場が盛り上がるんだ。単なるピッチャーゴロでも退屈させない、要は観客を喜ばせるためのトリックプレーだな。
だから白木投手がマウンドに上がると、観客はそれが見たいからバッターに向かって「ピッチャーゴロ打て!」ってヤジったりしてね。今はそんなプレーをしたら相手に失礼ってことで出来ないけどさ、昔はそういう堅苦しいことがなかったんだよ。
あと阪急ブレーブスに山田伝(やまだでん)っていう選手がいたよ。俺がガキの頃だから戦中戦後に活躍した選手でね、「ヘソ伝」って愛称で呼ばれてたの。どうして「ヘソ伝」かって言うと外野を守っててさ、どんなフライもライナーもグラブをパッとお腹にあててボールをキャッチする、ヘソで捕る山田伝だから「ヘソ伝」。俊足ですぐにボールの落下位置に入れるから出来た芸当だね。
藤村富美男さんは長~いバットで「物干し竿」と呼ばれた。川上哲治は赤バット、大下弘は青バット、そんな要素もショーのひとつだよな。イチローさんも現役のとき、練習中にグラブを背中に回してボールを捕る背面キャッチで観客を沸かせてたよな。ああいうのがね、たまに試合中にあってもいいんじゃないかって思うよ。それはチームカラーというか、監督の方針にもよるだろうし、新庄監督ならそういうプレーをハナっから禁止せず、出たら出たで喜びそうだよね。自分だって敬遠のボールを打っちゃう人なんだから。
新庄監督に任せたい中田翔再生
あのね、俺は巨人ファンなんだけど、その立場から新庄監督にひとつお願いがあるんだ。今シーズンの巨人はなんだかギクシャクだった。どうも日ハムが放出した中田翔選手を獲ってからそのギクシャクがさらにぶり返したような気がしたよ。中田選手は原監督よりも新庄監督のほうが相性がいいんじゃないかな・・・。
せっかく日ハムから獲得したけど、これを機会に中田選手は「新庄監督に進上する」ってどうかな? シンジョウにシンジョウ(笑)。それは進上じゃなくて返上か? ここはひとつ、ビックボスが手腕を発揮して中田選手を再生してもらいたいね(苦笑)。
それにしても新庄監督、あとはこの「ビッグボスショー」がどれだけ持続するかだよな。1年後、果たしてどうなってるか? 入場数増や経済効果はかなり期待できそうだ。球団経営を立て直し、そこから先はやはり成績だ。来シーズンを優勝とまではいかなくても、きちんとAクラスに入れるかどうか? もし日ハムがAクラス争いを見せられたら新庄監督は大大大成功だよね。
(取材構成:松田健次)
