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就職活動はアナウンサーひとすじ。スクールにも通ったし、旅費を使って全国のテレビ局にエントリーした。そんな苦労の末にかなえた夢を、滝沢愛さん(仮名・20代)は数年で手離した。いまはメディアを離れて営業の仕事をしている。

「アナウンサーを今でも続けていたらと思うとゾッとする」(滝沢さん)

その理由は滝沢さんが「正社員」じゃなかったからだ。NHKの地方局では業務委託の「契約キャスター」、転職したローカル局では有期の「契約アナウンサー」だった。

「歳をとると、女性アナは賞味期限が切れたと言われる。非正規は仕事がなくなり、別業種への転職もムリ。長く続けることはリスクなのにアナウンサー志望の学生はそのことを知らないか、自分はなんとかなると思っている」

アナウンサーを続けようとしたために、困窮の悪循環におちいった先輩も知っている。滝沢さんが「非正社員のアナウンサーはすぐ辞めた方がよい」とまで考えるに至った体験を聞いた。

●NHK契約キャスターになるまで

ーーアナの志望理由は

東日本大震災のボランティアで取材を受けた時に、人前で喋ることにおもしろさを感じ、テレビに出たいと考えました。

アナウンサーになりたいと思いつつ、ずっとやり続けられる仕事かわかりませんでした。ただ、どんなキャリアを選ぶにせよ「元アナ」の肩書きはインパクトがあると思っていました。

ーー就活は

大学時代にキー局のアナウンススクールに通いました。

例年、アナウンサーになれるのは、NHKの契約キャスターも含めて、年間で120人〜130人ほどと教わりました。ただ、募集要項の記載はないけど、男女の採用計画は必ずあって、女性に限れば、70〜80人です。

また、キー局のアナウンサー職は3000人が受けると言われ、そのうち本気で目指しているのは300人くらいでしょうか。私は300のほうでした。しかし、キー局も、ローカル局も落ちました。

NHK契約キャスターの採用は、4年生の秋口に始まります。「受からなかった子を拾っていく」枠です。

だから、待遇や雇用形態を納得して受けたわけではありません。

●正社員はマンション。私はアパート

ーーNHK契約キャスターの待遇と仕事の内容を教えてください

手取りは約23万円でした。賞与、住宅手当などの各種手当は出ないので、生活はカツカツでした。

正規雇用の職員との格差を感じました。同期でも、ボーナスや家賃手当の出る職員はマンションに住んで、私は普通のアパート住まい。飲み会でも、契約のキャスターやスタッフさんの支払いは、正社員の半額にされるんです。それはそれでムカつきました。

格差といえば、研修です。4月に入社した私たちが受けるキャスター研修は年に1回。正規雇用の新入社員は、東京で半年の研修を受けますが、私たちは社会人のマナー研修も受けられず、スキルも実地で学びます。

契約時に業務内容は定められていて、夕方のニュースでコーナーのキャスターを担当していました。喋るだけではなく、自分で企画を考え、どんどん取材して、原稿を書いていました。

●待遇は「苦行」NHKを辞めた

ーーNHKを3年で辞めて、民放に移ったのはどうしてですか

他人から見た私は「NHKのアナウンサー」ですが、私自身からすれば「アナウンサーではなく、契約キャスター」だったからです。1年更新の契約で、ボーナスも出ない。

働き始めるときから、チャンスがあれば、1年でも2年でも辞めようと思っていました。

「アナウンサー」になりたいので、NHKではなく、民放がよかった。毎年、中途採用を確認して、別の地域のローカル局に採用されました。

NHK契約キャスターの待遇は、今思えば「苦行」でした。しかし、契約キャスターの立場を足掛かりにして、ローカル局の契約社員になり、数年後に正社員になるのは王道です。

転職のときも「王道」のキャリアを期待していました。私が契約社員として採用された局でも、勤続5年で正社員になる規定があったと記憶しています。

ーー転職後の待遇は

基本給は30万円近くまで上がり、ボーナスも夏期・冬期2カ月ずつ出ました。

週に数回、スタイリストとヘアメイクがつきました。毎月の美容院代・クリーニング代まで出ます。NHKでは衣装が自前でした。

それに、「キャスター」と書かれていた名刺の肩書きも、「アナウンサー」になりました。

●喋るだけの民放アナウンサーは「キャリアのリスク」だった

ーー望んでいた「アナウンサー」になれましたね

そうなのですが、自分には合わないと感じ、すぐに辞めようと思いましたね。端的に言えば、ここにいたらダメになると思ったんです。

情報番組でキャスターを担当しましたが、喋るだけのアナウンス業務です。取材に出たいと訴えても叶えられませんでした。

テレビはチームプレーで、最後に原稿を読むアナは「アンカー」と呼ばれています。自由に動けず、一個人では何もできない存在だと思いました。

さらに、この局では、正社員の女性アナが、30歳を超えると、出演が減り、お茶汲みをしていました。

誰かに依存して、さらに年齢で区切られる職業は、リスクでしかありません。

頑張って「女子アナ」でいられる35歳くらいの限界まで働いても、そのあとで転職をするのは無理でしょう。原稿をきれいに読めるだけの能力を欲しがる会社はきっとありません。

その一方、プライドを持って働いてきたことを否定したくない気持ちもありました。スキルを活かせる仕事を考えて、ある業界で、営業の仕事に転職しました。

●初めての営業で才能開花

これまでの経歴とトークのスキルは営業におおいに役立っています。「元アナ」の肩書きがアポ取りに有効です。ある意味、新卒のときに思っていたことが実現してるんですよ(笑い)。

今の企業で初めて正社員になりました。毎年の更新がない。急にクビになることもない。精神的に楽です。

基本給と営業成績などと連動したインセンティブをあわせると、年収はNHK時代の倍以上になりました。営業先の経営者から起業をすすめられていますが、独立は目的ではなく、手段です。今は、機が熟したときに自由に動けるように、お金、人脈、知識をためているところです。

私の場合、たまたまではありますが、移る畑さえ間違えなければ、アナ時代に培ったスキルはいかせるんです。

●今でもアナウンサーをしていたら…ゾッとする

ーー取材を依頼したとき、滝沢さんは「アナウンサーの働き方について、以前から問題に思っていた」と応じてくれましたね

NHK時代の年収は300万円台でした。ローカル局ではキャリアアップにつながる働き方ができなかった。今もアナウンサーをしていたと思うと、正直ゾッとします。

非正社員のアナウンサーは全員、セカンドキャリアに向けて、アナを辞めるべきと思っています。

学歴だけ見ても、早慶MARCH、東大と、優秀な人が多いです。コミュニケーション能力も高い。少ない席を求めて動く行動力もある。

テレビに出るのって「麻薬」のようなもので、アドレナリンが出て、楽しいし、ちやほやされる。それで辞められず、いつまでたってもしがみついているように見える人もいます。

私と同じような経歴から、フリーアナになったかたもたくさん知っています。ある局アナはフリー転身後にアルバイトをしています。突然のオーディションに対応するため、時給のシフトでその機会を待っている。

そこまでしてやる仕事なのでしょうか。疑問です。

●もう一度言う「アナウンサーを辞めるべきです」

ーー女性のキャリアプランにおいて、アナウンサーという仕事をどうとらえますか

私が知る限り、「女子」がついて呼ばれる職業は、「女子プロ」と「女子アナ」しかない。アナウンサーという仕事に求められているのは、若い女子です。

今でも出演されている50代の有働由美子さんや、60代の安藤優子さんはすごいですよ。実力、運、政治力などがあって、今の立場があるのでしょう。ご存知のように、そこまでたどりつけるのは、一握りです。

歳をとると、女性アナは賞味期限が切れたと言われる。男性アナは味が出たと言われる。

NHKの女性アナウンサーは、20代後半になると東京に行くことが多いです。男性アナは全国を転々とまわります。つまり、「女性は若いうちに全国放送にきてね」ということです。「おばちゃんの女子アナ」はいらないんです。

ーー「おばちゃんの女子アナはいらない」と考えているのは誰なのでしょう

NHKは8割が男性社員ですし、男性の意向と考えてよいでしょう。あとは、視聴者もそう考えているんじゃないでしょうか。

アナウンサーを志望する学生は、これまで話してきた事情をわかっていません。もしくは、わかってていても、アナウンサーになりさえすれば、どうにかなると思っている。

●アナが結婚・出産したら、戻る場所がない

私は未婚ですが、結婚、出産も考えています。アナウンサーのまま結婚、出産しても、社会人として戻る場所がないことも、アナを辞めた大きな理由です。汎用性の高いスキルを持ち、ずっと仕事を続けるためにも、今の仕事をしています。

さて、アナウンサーを辞めましたが、「元アナ」の私には、取引先から仕事がきます。「株主総会の司会やってよ。社員総会の司会やってよ」とか。別にアナウンサーとしての肩書きにこだわらなくてもこだわらなくても、アナウンサーとしての仕事をできないことはありません。

本当に、正社員じゃない女性アナウンサーは、みんなやめるべきです。セカンドキャリアを見つけてください。