「カースト制度」は、生まれによって職分・階級が定められるというヒンドゥー教の身分制度です。IT大国のインドではカースト制度に縛られない職業としてITエンジニアが大きな人気を集めていましたが、「カースト差別」が海を越えたアメリカ・シリコンバレーのインド系技術者にまで伝播しており、訴訟にまで発展しています。

The Cisco Case Could Expose Rampant Prejudice Against Dalits in Silicon Valley

https://thewire.in/caste/cisco-caste-discrimination-silicon-valley-dalit-prejudice

A Silicon Valley lawsuit reveals caste discrimination is rife in the US

https://www.trtworld.com/magazine/a-silicon-valley-lawsuit-reveals-caste-discrimination-is-rife-in-the-us-39773

Commentary: How India's ancient caste system is ruining lives in Silicon Valley | ZDNet

https://www.zdnet.com/article/commentary-how-indias-ancient-caste-system-is-ruining-lives-in-silicon-valley/

カースト制度において「身分階級外」とされる最下層の被差別階級が「ダリット」です。ダリットに属する人々は皮革労働者、屠畜業者、下水清掃業者などといった、いわゆる「穢れ」に関係する職業に就いてきました。

インドにおけるダリットに対する差別は根強く、過酷です。ダリットは上位カーストが使用する井戸水を使用することが許されておらず、上位カーストと別個の教育を受けざるを得ないか、そもそも教育が受けられないことすらもあるとのこと。さらにダリットはヒンドゥー教の神々を信仰しているにも関わらずヒンドゥー寺院の立ち入りが禁じられており、近代以前には上位カーストの人々の前では地面に身を伏せて視界に入ることすら許されませんでした。

カースト制度においては「カーストの変更は不可能」とされているため、ダリットとして生まれた人々は生涯にわたって被差別階級から抜け出せません。1950年に制定されたインド憲法においてはカースト制度が禁止されましたが、現実にはカースト差別は現代に至るまで続いています。



by ActionAid India - Campaigns

そんなカースト差別は、アメリカのシリコンバレーで働くインド人技術者の間でも続いており、訴訟にまで発展しています。2016年10月、世界最大のコンピュータネットワーク機器開発会社であるCiscoにおいて、ダリッドに属する男性がSundar Iyer氏という上位カーストに属する上司から壮絶ないじめを受けたとして訴えを起こしました。

訴えによると、Iyer氏のいじめは、ダリッドに属する男性がインド工科大学に入学できたのは差別是正措置制度のアファーマティブ・アクションによるものだとインド系技術者の前で笑いものにすることから始まり、プロジェクトチームからの除外やボーナスの没収、昇進の妨害にまでに及んだとのこと。



その後、皮肉なことにIyer氏はさらに上位カーストに属するRamana Kompellaにその立場を奪われることとなりました。しかし、このKompella氏もIyer氏と同様の仕打ちを男性に対して続けたため、男性の状況に変化はなかったそうです。

男性はCiscoの人事部に苦情を申し入れましたが、男性によるとCiscoの人事部は「カースト差別は違法ではない」と通達したとのこと。一方、Ciscoは男性の訴えを全面的に否定しており、「Ciscoは全ての人にとっての包括的な職場環境の実現にコミットしています。2016年にさかのぼって今回の一件を調査しましたが、当社は全ての法律と当社自身のポリシーを順守していたと判断しています」と説明しています。

この一件を契機に、GoogleやFacebook、Microsoft、Apple、Netflixなどのアメリカの大企業で働くダリッドに属するインド人技術者250人が「差別経験」を告白しています。差別問題に関する団体であるEquality LabsのSoundararajan氏は、上位カーストの人々は独自の連絡網によってダリットの人々の情報を共有しており、ダリッドの人々は出世などにおいて差別されている」と語っています。